以前告知させて頂いた、OZONEでのホテリアアルトセミナーが昨日無事終了し、ようやく肩の荷を下ろすことができました。私はファシリテーターということで、全体の進行役を務めさせて頂きました。来場者数は80名を越えほぼ満席の状況でした。

昨年のビルダーズでは私なりの解説を書かせて頂いたつもりでしたが、昨日のセミナーではようやくその”答え合わせ”をすることもできました。

それにしても、昨日も「匂いを消す」「(柱を)2本にすれば空間になる」など、設計者の益子義弘先生の”名言”もいくつも飛び出し、壇上からなるほど・・と唸りつつ、すとんと落ちたこともたくさんありました。


私からは、ホテリアアルトにある随所のディテールについて全力で妄想解説。益子先生曰く「関本さんは深読みしすぎ!」。しかしご本人からご説明して頂くと、あながち私の深読みも間違っていなかったんじゃないかなとも思いました。


当初「居心地とは?」という着地点が見えず、どうしたものかと頭が真っ白になりながら進行していましたが、益子先生、そして宗像オーナーの言葉に助けられながらなんとかゴールすることができました。

総括すると、益子先生の建築に流れるゆるやかな空気とその居心地の良さに宿るものは、しっかりと細部までを詰めた上で、最後は消しゴムで引き算してゆくという大局観だったような気がします。

どうしても私などは、空間を細部までキレッキレに納めたくなるもの。まだ若いですね笑。引き算の手法こそが我々がホテリアアルトから学ぶべきものなのかもしれません。


終了後の打ち上げの席にて。
宗像オーナーからは、「会場では話せなかったけど」と裏トーク。そこからは益子先生を”居心地悪く“させる(褒め殺しで?)トークで大盛り上がり。ホテリアアルトな夜は終わりません…。


皆さまお疲れさまでした!
ご登壇下さった益子先生、宗像オーナー、ご協力誠にありがとうございました。

また企画をともに進めたOZONEの阿比留さんにも、この場をお借りして深く御礼申し上げます。楽しかったですね!また一緒に企画して何かやりましょう。

寒い日が続きますね。低温注意報なんて、これまでそうそう聞かなかった言葉です。冬らしい冬というのも久しぶりですね。

さて、こんなに寒いとそこそこ断熱性能の高い家に住んでいても、どうしても住宅の中の温度ムラは出やすくなります。家中どこでも一定の温度という住宅は、それなりにコストをかけて、相当意識的に設計をしないと難しいのです。

我が家では陽当たりの良いリビングは日中は暖房いらず。ポカポカとまるで天国です。一方の廊下や陽の差さない洗面・脱衣室などは最も寒い部屋となり、ここ数日は朝には10度くらいにはなります(もっとも、これでも断熱少なめの昔の住宅よりはマシでしょうが)。

うちのクライアントからは、基本的には温かいのだけれど、2階にリビングを設けると1階が相対的に寒くなりますので、「1階が寒い」との声もよく頂くことになります。

ということで、既に建ててしまった家でも、一工夫することで家中の末端まで苦痛のない温度まで上げられる方法はないかと、ここ1週間ほど様々な方法を試して自邸で実験していました。今日はその結果をご報告したいと思います。


まず冒頭に書きましたように、我が家は一番奥の洗面所で朝は10度くらいまで下がります。別に耐えられない寒さではありませんが、寒いっちゃ寒い。この温度をベースアップするためには当然追加の熱源が必要です。といっても、あらたに暖房器具を買うことなく、今家の中にあるものを使いたいと思います。

我が家の場合はこちらです。



「太陽光」と「エアコン」
だいたいどの家庭にもありますよね。

まずは太陽光の利用。

太陽光はタダです。素晴らしいですね。こんな熱源は太陽しかありません。我が家は道路側にかなり大きなガラス面があるので、リビングに関して言うと前述のようにとっても温かいです。どのくらい温かいかというと、


これは低温注意報が出ていた今週の某日、午前10時くらいの温度です。

上が室温、下が外の気温です。室内はこの時点では無暖房。太陽が出たら最強な部屋になります。(ちなみによく心配されますが、夏もそんなに暑くないですよ。遮熱ガラスを使っていることもありますが、我が家の7不思議の一つです)

この熱の塊をどう使うか。簡単です。引戸を開けておけば良い笑。熱は水と同じで、温度が高い方から低い方に向かって流れます。


その際に、扉が天井いっぱいまであると天井付近にたまった熱が移動しやすくなります。こうしたのは意図的かって?(あ、あたりまえじゃないですか…)

でもこれだけで家中温かくなるほど甘くはないんですね。我が家の場合、ガラス面積の大きい廊下がありますので、残念ながらここでかなり空気が冷やされてしまいます。そこで廊下の向こう側にも追加熱源が必要になってきます。

そこで出てくるのがエアコンです。
ここでは主寝室のエアコンを使います。温度設定は消費電力を抑えるために仮にこのくらいに設定。


ところで、いまだにエアコンを使うことに罪悪感を感じる人がいます。

そういう方に限って電気カーペットなどをガンガンに使っておられる。おそらくエアコンは家中のどの家電製品よりも群を抜いて省エネだしエコな設備です。

発電所から送られてくる電気の2/3程度は送電ロスによって失われますが、エアコンはヒートポンプの働きでその熱効率を各家庭で3倍くらいに増やしてくれるのです。(誤解のない表現が難しいですが、ざっくり言うとそういうことです)

そしてその使い方ですが、よく電力会社のCMなどで流れる「電気はこまめに消しましょう」という意識があるのだと思いますが、エアコンも寒いと付けて、部屋を出るときや温かくなったらすぐ消してを繰り返す方が多いと思います。ただ、おそらくこれは意外と電気を食います。

エアコンは立上がりにすごく電気を使いますので、設定温度を低くして、なるべく長時間付けておくのが一番効率の良い使い方です。


さて、まだここで終わりではありません。このままだと、部屋からの熱の出口(扉)が小さいので、部屋の末端まで暖かい空気を届けるのがやはり難しくなります。ここで使うのがこちらです。


サーキュレータです。扇風機でもいいです。

これをどこに置くか。正直この調整に苦労しました。空気って正直なんですが、ちょっと気まぐれで、なかなか人間が考えたとおりに動いてくれません。まるで猫のようです。

結論から言うと、我が家の場合、サーキュレータを子ども室方向に向かって吹くことで、廊下をまわってぐるりと空気の循環の流れができることがわかりました。この辺は想像力を豊かにする必要があります。

また温かい空気は天井付近に溜まりますので、サーキュレータの角度も重要になります。私の場合、よくわからなくなってしまったので、上下の首振り運転にしました。

まとめるとこんな感じです。


この効果はてきめんで、室温が10度だった洗面所もエアコンとサーキュレーターを併用することで、約1時間半後には15度くらいまで上がりました。これまでどんなにやっても寒かった洗面所や浴室の温度環境が劇的に改善されました。


廊下も朝は10度くらいだったのですが、やはりこのくらい(下の写真)になります。床は以前は氷のように冷たかったのですが、かろうじて素足で歩けるようになりました。


ここで重要なのは、自分の快適温度は何度くらいなのかを知るということです。家族が長時間滞在するリビングは、寒がりの私は20度でも少し寒く感じ、22度まで上がるとちょうど良いと感じます。これは個人差があると思いますが。

ただ一時的に滞在して顔を洗ったり、洗濯をしたりする空間を常に20度に保つことには個人的には意味がないように思います。ただ私の場合、そんな部屋でも10度だと苦痛を感じ、15度だとストレスがないこともわかってきました。

そのためには温度計を各部屋に置くなどして、現在の室温が何度くらいなのかというのをこまめにチェックすると良いと思います。特に設計者は、感覚を定量化する(数字に置き換える)ということが、性能と感覚を近づける近道なのだなと最近つくづく感じることです。


まとめですが、この実験で検証したかったことは、そこまでの高断熱住宅ではなくても住宅のポテンシャルを引き出す方法はいろいろありますよということ。そしてその工夫を生活しながら考えることは結構楽しいことですよということです。(まるで小学生が夏休みの自由研究をしているかのようです笑)

冒頭に書いた、2階が温かくて1階が寒いという方は、2階のエアコンをガンガン付けるのではなく、1階のエアコンをつけて下から上に向かって温めてゆくイメージを持つと良いと思います。もちろんサーキュレータも必須アイテムですね。

また熱源としてのエアコンはもう少し見直されるべきかもしれません。寒い部屋に一つずつ電気式の小型ヒーターを置いている家庭も多いと思いますが、局所暖房ではなく全体で考えた方が良いですし、省エネにもつながると思います。(ただし、ベースとして一定以上の断熱がされている住宅であるということが前提ですが)

でもその上で、別に寒くても構わないという方(寒さに耐性の高い方)はもちろん無暖房で良いのではないでしょうか。エアコンがいくら省エネだと言っても、付けない方が省エネになることは間違いありませんから笑

でもそうやって我慢して暮らすのは私は嫌だなと思うので、今ある住宅のポテンシャルを引出しながら、最小限のエネルギーで冬を乗り越える方法を考えたいと思います。皆さんも各家庭で工夫してみて下さい!

18. 01 / 26

先生の学生時代

author
sekimoto

category
> 大学
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今日は大学指導の最終日。カリキュラムの関係で1日余ったこの日は、1年生に各先生の学生時代の話をしてあげようということに。私を除く6名の講師の昔話はとっても面白く、講演会でも話さないであろう微笑ましいエピソードが盛りだくさんでした。

私は学生時代の課題のいくつかを見せました。私も1年生の時はなかなか先生に褒めてもらえず、悔しくて夏休みのパース着彩課題は自分なりに頑張りましたが、評価は結局Aマイナス1(つまり79点ということですね)。これだけ頑張ってもAすら取れない(努力は報われないこともある)という、そんな話をしたりしました。

最後に学生の感想レポートをコピーさせてもらい、読みながら帰ってきましたが、学生たちには相当刺激になったようですね。熱が学生に伝搬しているのがわかりました。先生方(私も含む)は昔話をするのを皆嫌がっていましたが、まずまず成功だったのではないでしょうか。






*

「さつきの家」のオープンハウスを昨日開催し、無事終了しました。遠方にもかかわらず、多くの方に足をお運び頂きました。ご来場下さった皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。

この住宅は建て主の育った家の建て替え計画で、ゆったりとした広い敷地全体を活用する配置計画からはじまり、予算計画、法的な整理に時間がかかりました。そしてなにより既存の環境と建て主やそのご両親の記憶や歴史をどのように留め、継承するかというテーマも大きなものでした。


道路からのファサードは、片流れ屋根を組み合わせたリオタデザイン鉄板のデザインアプローチでまとめています。

外装はガルバリウム鋼板の立はぜ葺き。サステイナブルに建物を次代へつなぐ性能を担保した上で、色も周囲の環境から浮き上がることなく馴染むよう、注意深く選びました。



先にブログでもご紹介した、製作による手作りカーポートと、地面から浮かせた軽やかな妻壁をくぐるようにして玄関にアプローチします。

建物は庭側から見ると「コの字」型の開放的な表情で、軒を深く出し雨から躯体を守った上で、庭に開放的にひらいた作りがその特徴です。



内部のリビングは、基準の床面より40cmほど下げています。これは庭との関係を考え、より直接的に空間と庭とをつなげたいと考えたことと、重心を低く、リビングに落ち着きを持たせたいと思ったことがありました。

一方のダイニングは天井を低く抑え、窓先からはシンボルであるサツキツツジを眺めることができます。


リビングから家具で仕切られた畳コーナー。子供たちがここで遊んだり、勉強したり、はたまた昼寝をしたりというシーンをいろいろ想像しながら作りました。仕切りとなる家具の高さにも工夫を凝らしています。

ここでどんな振る舞いをするかはもちろん家族に委ねられるものですが、ただ「自由にやってください」と突き放すのではなく、家族の居場所を丁寧に作ってゆくことが大切です。それが住宅を設計するということではないかと思いますので。


住宅を貫く15mの廊下。家族の営みを一本の串で串刺しにしたようなこの眺めが、この家を象徴しています。



玄関には既存住宅の欄間を再利用してはめ込んだハイサイド窓と、大きな地窓いっぱいに切り取ったサツキツツジが家族を出迎えます。夜になると、その欄間からの灯りも外にこぼれます。


こちらはトイレの引戸のガラス。ある年代以上の方には懐かしいと思える型ガラスですね。もう新しい住宅には使われませんので、お子さんにはとても珍しいガラスに映るかもしれません。

こういう演出にはデザイン的な意味はなく、理屈を越えて家族の心の”ひだ”と結びつく部分であると考えています。いわば遺伝子のようなものでしょうか。

我が子に自分のアイデンティティの欠片を見いだして愛おしく感じるように、この現代的な住宅が宇宙船のように突如として舞い降りたものではなく、自分たちの記憶や人生の延長線上に継承されたものであるということを、建て主に感じてもらいたいという思いがあります。こういうものの集積が、その家を世界に一つだけのその人だけの家にしてゆくのだと思います。


このお庭もそうです。既存の住宅のいくつかの樹を大切に移植して利用しています。切って新しいものを植えた方がよっぽど楽でしたが、造園家の湊さんにも意気に感じて頂き最大のご協力を下さいました。湊さん、ありがとうございました!


建て主さんは当初設計の相談にいらしたとき、自分たちが設計事務所(建築家)などに設計を頼むなどおこがましいのではないか、という控えめのご発言をされていたのを覚えています。現実的にも、もっと安く早く建てる方法はいくらでもあったはずですが、最後まで悩んで我々との家づくりを選んで下さいました。

時間も手間もかかりましたが、建て主さんの思いには正面から100%お応えできたのではないかと思います。最後に心から喜んで下さり、また何よりご両親がこの敷地が活かされたことに本当に喜んで下さったと聞いた時には、胸が熱くなりました。

社会に対して、住宅を作る以上の素晴らしい”何か”を成し遂げたのではないかと束の間でも思えることは、我々にとって忍耐強く仕事を遂行する上で大きなモチベーションとなります。”仕事以上の何か”をしていると感じることが、我々にとって「建築」という行為なのだとあらためて思います。





見学には過去のOBクライアントさんをはじめ、現在進行中の方、また同業の建築家や工務店、メーカーの方など、みなさんに熱心に見て頂きました。遠方だったこともあり、適度な参加者数で理想的な見学会でもありました。

ちなみに、この住宅の温熱性能はUA値で0.62(W/m2K)となっています。2020年の義務化基準である0.87よりもはるかに高性能な数字が出ていますが、ただ欲を言うともう少し工夫できた点もあり、我々としては今後更なる設計の改善を考えたいとも思っています。デザインと性能との両立は、リオタデザインの今年の大きな設計テーマの一つです。


最後に建て主のOさん。

最後まで家づくりを楽しまれている様子が伝わってきて、またその誠実なお人柄にいつも助けられていました。いろいろありましたが、楽しかったですね!最後までお気遣いを頂きありがとうございます。今後とも、末永いお付き合いをよろしくお願い致します。

author
sekimoto

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> メディア
> 仕事



建築情報サイトのプラナビさんに「プロが認めた匠の技」というコーナーがあります。

建築家がお世話になっているスゴ腕の”匠”を紹介し、編集部がその職人さんを取材するというなかなか良い企画なのですが、こちらの最新号に私もいつも植栽でお世話になっている耕水の湊さんが登場しています。

プラナビ|プロが認めた匠の技
耕水 湊眞人さん
https://www.pla-navi.com/clip/professional/takumi22_kousui.php

紹介者は佐藤・布施建築事務所さんですが、主宰者の一人である布施さんは私の大学時代からの親友でもあります。実のところ、湊さんを紹介してもらったのは、10数年前にこの布施さんからだったのでした。

先日オープンハウスを告知した行田の「さつきの家」でも、この湊さんに大いに腕を振るって頂いていますので、いらっしゃる方はどうか外構もよくご覧頂けたらと思います。


ところで、このプラナビさんには私も過去に板金職人の新井勇司さんをご紹介させて頂きました。

新井板金 新井勇司さん
https://www.pla-navi.com/clip/professional/takumi21_arai.php

新井さんには現在現場が進行中の住宅「TR」でも腕を振るって頂いているのですが、サイトの影響かどうかはわかりませんが、すっかり人気の職人になってしまったようで、なかなか現場に入れないなどの弊害も出始めました。

もっとも新井さんも人からの紹介だったわけですが。なんでも開けっぴろげに情報を公開する私ですが、最近は秘蔵の”虎の子”は少しずつ隠してゆこうかなと思っている今日このごろです。笑


ただこうして他の建築家も賞賛するような素晴らしい職人さんと日々お仕事ができるという喜びや幸せも、あらためて噛みしめるところです。こちらも本気でやっているのだから、現場にも本気の仕事で応えて欲しい!というのが私の偽らざる本音ですので。

我々が当たり前のような顔をしてご提供しているものは、世間的にはけして当たり前のことじゃないんですよ。