建築家仲間の津野恵美子さんの「林を抱く家」のオープンハウスへ。いわゆる豪邸。それも久しぶりに見る規模でした。これだけの規模をグレード感を落とさず、嫌らしさは出さず、品格を落とさずやり切るというのは、単に技術や経験だけではなく、津野さんの持つしなやかな感性のなせる業なのだろうと思います。まずそこに感服しました。

設計をまとめる作業は、文章を書く作業に似ています。どこで句読点を打つのか、改行をするのか、言い回しから言葉の選び方まで、何度も何度も通読して、引っ掛かりを覚えては書き直し、というのを繰り返すことで文章は肉体化し、難解な文章も難解なりに筋が通ってストンと落ちていきます。

私は建築を見るときは、文章を読むようにその人の文体を楽しむのですが、津野さんの文体はとても平易で、長編小説なのにすらすら読める感覚があります。それでいて、チャプターごとに必ず見せ場を作っていて飽きさせない。ずいぶん変わった言い回しをするんだなとか、似たような表現は自分も使うのに全く世界が違って見えるとか、その発見がとても楽しい。

それは津野さんが人任せにしないで、誠実に部分と向き合っているからなんでしょうね。あたたかな空間って、自然素材を使っているかどうかではなく、細部まで神経が行き届いているかどうか、本人が責任を持ってやり切っているかどうかに掛かってくるのだと思います。

そんなことを思いながら見学しました。執筆に丸3年かかった長編小説を2時間で読んだような贅沢な時間でした。津野さん、ご案内をありがとうございました!




『JIA建築年鑑2025-2026』(日本建築家協会)が発刊され、我々の「越屋根の家」を日本建築家協会優秀建築選2025の100選に選出いただきました。本建築選は、JIA会員のみならず国内のその年度の優秀な建築作品を選定するというもので、今回の建築大賞は「霞ヶ浦どうぶつとみんなのいえ(高橋一平氏)」でした。

この分厚い年鑑は会員のもとには毎年届くのですが、その年の“顔”になるような話題作が並びます。どれも自分には縁がないと思えるような作品ばかりで気後れしていたのですが、今回はこちらの選に混ぜて頂き本当に光栄で嬉しく思っています。

ここ数年はメディアやアワードに出すことにも少し億劫になっていたのですが、もう少しチャレンジしていこうと気持ちを新たにしました。建主さま、工務店のみなさま、担当してくれたスタッフにも感謝です。どうもありがとうございました!

本年鑑はAmazonなどでも購入できます。ご興味ある方は是非お手に取ってみてください。

JIA建築年鑑2025-2026 第21巻
https://amzn.asia/d/0gyg1zDC



昨日は都内の現場とハシゴして、小山光さんのD-Scape Kandaまで。場所は神田の駅前、用途は飲食テナントビルということなので、普通に考えたらEVシャフトと避難階段位置を決めたらそれでおしまいくらいのプログラムなのに、条件を整理して突き詰めると、ここまで複雑なファサード操作ができるのかと驚かされました。

それもクライアント側が求めた“映える”外観や、建ものそのものが広告塔になるような存在という要件に見事に応えていて、そこがBtoBの建築にめっぽう強い小山さんの勘所なのだなと思いました。次から次に建物が完成するので、ものすごいスピードで仕事しているのか思いきや、実際にはその真逆でどの建築も3〜4年くらいかかっているという。まるで蝉みたい!

高所が苦手な私は、震える足で屋外階段を降りてきました。(スタッフに笑われました)


この日はお盆休み前最後ということで、夜はスタッフと近くの美味しい中華屋さんで暑気払い。取り止めのない話からディープな話まで、たまにこんなふうに腹の中を語り合うような機会も楽しくて貴重だなぁとあたらめて感じました。

これからしばらく夏休み!私ものんびり、そして会いたい人に会って、行きたいところに行って過ごします。皆さん、良い夏休みを。


日芸デザイン学科2年スペースデザインI、第2課題「NEST」は先週月曜日に最終日を迎えました。この課題ではクラス内コンペで選ばれた案をモデルに、最終的に原寸製作まで行うというもので、製作はグループワークで行い、試行錯誤を重ねて学食前の屋外階段の下に無事セッティングを完了させました。

材は20x30の角材を用いて、クロスジョイントはジャンボ輪ゴムで束ねるというJIAの子どもワークショップで使われているノウハウを参考にさせて頂きました。私はなるべく口出しや手出しをしないで見守りに徹しましたが、どうなることかと思っていると、最後は集中力でまとめ上げるところは本当にすごい。

この半期は彼らひとりひとりをアーチストとして扱ってきましたが、同じく自由人の息子と接しているかのようでとても楽しかったです。





こちらは先週末のオープンキャンパスでも、途中のスタディ模型と併せてそのまま展示して頂きました。

オープンキャンパスは私も様子見に足を運んで来ましたが、学生達の力作に足を止めてくださっている方も多かったです。来年に向けての改善点もいくつかありましたので、またこれを材料により発展した課題にしてゆきたいと思います。学生の皆さん。お疲れさまでした!




韓国の釜山でひらかれていたユネスコ世界遺産委員会は、AALTO WORKS(アルヴァ・アールト設計による13の建築群)をユネスコ世界遺産に認定する決定をしました。

このニュースは、アールト財団をはじめ、アールト関連アカウントやアールト建築を擁する各行政のオフィシャルアカウントでも一斉に配信され、昨日のインスタグラムはこれ一色で埋まりました。まさに打ち上げ花火のような「アールト祭り」状態!フィンランド人にとってこれがどれほど誇らしいことかが伝わってきて、胸が熱くなりました。

アールトの建築は、これまでも世界遺産の登録に関わらず行政やアールト財団の献身的な活動によって手厚く守られてきました。今回登録されなかったとしても、それは変わらなかったと思います。その上で今回の世界遺産登録の意味を考えると、

・コルビュジェ、F.L.ライトと肩を並べて、アールトの建築群が近代建築の傑作として世界遺産として認められたこと。
・世界遺産に指定されることで、単に建物を維持するだけでなく、将来の世代へ継承するための国際的な保存基準と保護体制がより確固たるものになること。
・これまで個別に評価されてきたアールトの単体の建築が「AALTO WORKS」という群として、つまり「アールトの建築」として包括的に認知され評価されたこと。

といったことがあると思います。

つまりアールトの建築が「フィンランドが守るべき財産」から「人類全体で守るべき財産」になったことで、商業主義や政治力から建築が半永久的に守られることも同時に意味します。建築団体や市民の声を無視して解体が決行されてしまった丹下健三氏の旧香川県立体育館の例を考えれば、これほど強い保存への意思表示はないと思います。

以下に、昨晩配信されたアールト財団からの声明文の要約(翻訳)を添付します。
https://www.alvaraalto.fi/en/news/aalto-works-series-inscribed-on-the-unesco-world-heritage-list/


【アールト作品群(AALTO WORKS)がユネスコ世界遺産リストに登録】

人間味あふれるデザイン・アプローチを特徴とし、アルヴァ、アイノ、エリッサ・アールトによる近代建築の決定的な役割を示す13の建築群「アールト作品群」が、ユネスコの世界遺産リストに登録されました。この決定は、韓国・釜山で開催されたユネスコ世界遺産委員会において2026年7月26日になされたもので、フィンランドで8番目の世界遺産となります。

登録された13の建築・建築群は、モダニズム、フィンランドの福祉国家の発展、そして人間的な視点を象徴しています。現地に出席していたアルヴァ・アールト財団のCEOトンミ・リンダ氏は「ユネスコ世界遺産への登録は、アールト夫妻の生涯の仕事が国内のみならず国際的な建築・デザイン史においても重要であると認められた明白な証であり、フィンランド人として誇りに思います」と喜びを語りました。

登録されたアールト作品群:
1. パイミオのサナトリウム(1929–33、パイミオ)
2. アールト自邸(1935–36、ヘルシンキ)
3. スニラ製紙工場・住宅街(1936–38、1947、1951–54、コトカ)
4. マイレア邸(1938–39、ポリ)
5. セイナッツァロの町役場(1949–52、ユヴァスキュラ)
6. ユヴァスキュラ大学 アールト・キャンパス(1951–71、ユヴァスキュラ)
7. セイナヨキ・シヴィックセンター(1951–87、セイナヨキ)
8. ムーラッツァロの実験住宅(1952–54、ユヴァスキュラ)
9. 文化の家(1952–58、ヘルシンキ)
10. 国民年金局(KELA)(1953–57、ヘルシンキ)
11. スタジオ・アールト(1954–55、1962–63、ヘルシンキ)
12. 3つの十字架の教会(1956–58、イマトラ)
13. フィンランディア・ホール(1962/1967–75、ヘルシンキ)

「長年にわたる準備作業が実を結びました。アールトの遺産は、建築が獲得し得る最も権威あるグローバルな評価を受けました」とリンダ氏は述べています。

◼️デザインの核心にある人間的アプローチ
建築家アルヴァ・アールト(1898–1976)の偉大な業績には、最も身近な協力者であったアイノ・アールト(1894–1949)やエリッサ・アールト(1922–1994)、そして事務所のスタッフたちが不可欠な役割を果たしました。

1920〜80年代に設計されたこれら13の建築は7つの地域に点在し、住宅、コミュニティ、労働、家庭生活のニーズに応えてきました。教育、地方自治、行政、福祉、精神生活、余暇といった課題を建築の力で解決しようとしたものです。

20世紀のモダニズム精神に基づき、身分や富、健康、年齢、性別に関わらず、すべての人の快適で機能的な日常環境を追求しました。市民のウェルビーイング(幸福)は社会発展の核心であり、近代建築はフィンランドのアイデンティティの一部となりました。

◼️長年にわたる準備の背景
今回の登録は40年に及ぶ準備の成果です。1986年のスニラ地区の提案や、2004年のパイミオのサナトリウムの暫定リスト入りなどを経て、複数の建築をセットにした「アールト作品群」構想が浮上。2021年に暫定リストへ掲載され、2025年2月1日に正式提案されました。
今回の登録は、ル・コルビュジエ(2016年)やフランク・ロイド・ライト(2019年)の作品群に続くものであり、20世紀のフィンランド近代建築として世界遺産リストを補完することになります。

◼️世界遺産登録の意義
アルヴァ・アールト財団のミュージアム・ディレクターであるユッカ・サヴォライネンは、「この登録によりフィンランド・デザインへの国際的評価が高まり、デザイン先進国としての地位がより強固になります。また、保全、教育、文化観光など多様な分野での新たな協力の機会が生まれます」と強調しています。