
先週北欧家具taloに足を運んだ際、オーナーの山口太郎くんより「これは関本さんにお土産」と言われてドアノブをひとつ頂きました。デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンのハンドル。え、本当に!?(太郎くん、どうもありがとう!!)
現状はくすんだ真ちゅう色だけれど、これは磨けば光るなと踏んで、この週末はポリッシャーでゴシゴシ。結果、こんな感じになりました。


磨けば磨くほどきれいになるので、ついどんどん磨きたくなってしまう笑。太郎くんからも、ビンテージはあまりピカピカにしてはいけないと言われていたので、ほどほどのところで止めましたが。
手元にある資料で調べたところ、このハンドルはアルネ・ヤコブセンのオリジナルデザインで、1957年にコペンハーゲンにあるSASロイヤルホテルのためにデザインされたハンドルとのこと。またひとつ私の貴重なコレクションが増えました。

プロペラのようにねじれたハンドル形状がとても美しい。握ってみると、手のひらと親指の位置がぴたりとハンドルにフィットする完璧なエルゴノミクスデザインです。
太郎くんからは、これは現代の住宅にも使えるのか調べて欲しいとのことだったのですが、このヤコブセンのハンドルは軸となる角芯が8mmで水平の角度なのに対し、国内シェアの高い美和ロックなどのハンドルは8mmの角芯が45度に傾いているので、基本的には取り付けられないんですね。
ただ色々調べたら、GOALやSHOWAのケースの場合は8mmで水平の角芯設定のため、こちらなら取り付けられることがわかりました。ためしに早速GOALのケースを取り寄せて取り付けてみるとぴったり!

私の自宅はほとんど引戸なので取り付けられる扉はないのですが、これなら将来どこかに使ってみたいですね。復刻品はないのかなと探したらありました。スガツネさんの方で出しているようです。丸座の形状がちょっと違いますが、日本人の小さな手にもぴったり納まるのでお勧めです!
アルネヤコブセン生誕100周年記念ハンドル/スガツネ
https://search.sugatsune.co.jp/product/g/g12-4053/
事務所には他にもアールトの某ハンドルもあるのですが、聞くところによると最近えげつない値段で取引されているそうで、ちょっと怖くなりました…。
北欧の建築家は手が触れるところに最も気を遣います。我々も設計ではそこは最もこだわるポイントかもしれません。ヤコブセンのハンドルもお宝として大切に保管したいと思います。

この春5人目、いよいよ最後のオープンデスクが終了しました。5人目も日大理工の2年生。1年生の時に設計指導を担当していた学生さんです。
彼女は以前からやる気は人一倍あるものの、自分のイメージする世界をうまく表現することができずにいたのですが、この2年生の後期にかけてぐっと実力を付けてきました。まさに伸び盛りの学生さんです。
今回課した課題は、実際の敷地に建つリアルな条件の住宅で、住宅を設計する上で基本的な考え方を学んでもらいたいと出題したものでしたが、彼女はそこにコンクリート打放しの壁を、木造住宅を貫くようにランダムに配置するというアバンギャルドな提案。これには私もびっくり!


その壁は本当に必要なのか?どういう意味があるのか?など、否定と肯定を繰り返しながら対話を重ねましたが、彼女は心折れることなく最後までやりきりました。それがまず感心したこと。そしてこれがまた、結果的になかなか良い空間なのです。これは彼女に一本取られたなと思いました。今回どのオープンデスクの学生にもないアプローチの提案でした。
大学でも、学生が突飛なことをやろうとしているときは、否定と肯定両方の意見をぶつけて反応を待つことにしています。人と違った考えを持つことは悪いことではありませんが、それを人がどう受け入れるか、あるいは拒絶するかを十分に想像した上で提案して欲しいと思うからです。ですが多くの場合はそのやりとりの中で物事のバランスを考え、良くも悪くも考えを変える人がほとんどです。
もちろんそれは協調性や社会性という意味で、仕事をしてゆく上でもとても大切な要素だと思いますが、人を圧倒的な造形で感動させるタイプの建築家にはなれないかもしれません。彼女の持ち味は、おしとやかそうに見える?外見とは裏腹に内に秘めた情熱(パッション)、そしてその頑固さと意志の強さです。そういう意味で芸術の才能のある子だと思います。
これからどんな風に飛躍していくのか、勢い余って崖から落ちないように笑、ハンドルをしっかり握って自分の道を探ってもらいたいと思います。これからがとても楽しみです!

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はぁ、それにしてもこの春の怒濤のオープンデスク・ラッシュはすごかった!
すべての学生とは毎晩向き合って遅くまでエスキース(設計指導)をしました。ずいぶん自分の時間を使ったなぁ…。でもとっても楽しかったです。千本ノックをしていたつもりが、こっちがノックを受けていたみたいな。
私にとっては、正直課題とかどうでもいいんですよ。それが上手くできても、できなくても私には関係ありませんから。単位が出るわけでもないし。
毎晩のエスキースを通じて、彼らの悩みとか建築に対する迷いのようなものを聞いてあげると、アウトプットしたことで彼らの中で問題が整理されて昇華(成仏)されます。私の経験を話してあげたり。こういう時間が、かけがえのないものなのだと思います。
これは大学の授業ではできないことなんですよね。限られた時間の中で、全員の指導をしなくてはいけないので。課外授業だからできることです。
彼らは貴重な春休みの一週間を無給で事務所に足を運んだわけです。その間もバイトしていればもう少しお金にもなったはずなのに。それをこういう無駄なことをすると案外いいことあるんだということが分かってくれたら、人生にとって一番大切なことをひとつ学んだかなとも思います。
この春来てくれた5人の学生さんはお疲れさまでした!うちの事務所を選んでくれてありがとう。また別の機会にお会いしましょう!

今日はスタッフとオープンデスク生を伴って、古川泰司さんの桑の木保育園を見学させて頂きました。おおらかな架構の園児のための空間。理屈を抜きにして、親ならこういう保育園に預けたいと思いますよね。計画も適切な人間が適切な部分の関わり方をしていて、ディテールや構成など含め全体としてバランスの良い建築だと感じました。
最近、生産者の顔が見える物づくりということを考えます。我々が大手メーカーと異なるのはその点に於いてだと思いますが、それでも我々は大工の顔は知っていても、製材者や山の人の顔までは知りません。我々はもっと川上にいる人たちと繋がるべきなのだと思います。
この保育園においてJAS製材を使っているのは燃え代設計にする必要があったためと聞いていますが、もう一つは生産者の顔が見える物づくりという意味もあるような気がしています。実際、オープンハウスには製材会社の方たちも来ていて、誇らしげに材の説明をして下さったのがとても良かったです。普通物づくりの川上にいる人たちは、こういう場にはいませんからね。
帰路は少し寄り道をして、行きつけのグリーンショップであるmimonoさんに立ち寄りました。オーナーの小松原さんと立ち話をしましたが、彼が仰ったのも奇しくも生産者と繋がることの大切さでした。問屋ではなく生産者から直接仕入れることで生産者のこだわりを深く知ることができるし、売り方にも魂が入り、結果としてホームセンターにはできない品揃えができるとのこと。これはそのまま建築にも当てはまることのように思いました。
今日は示唆深い気持ちの良い一日となりました。古川さんご案内ありがとうございました!



オープンデスク二人目が終了。先に決まっていた子がインフルになり、代わりに急遽来ることになった専門学校の子だった。とても大人しい子で、最初は緊張しているのか入口もそ~っと入ってくる感じ。課題を出して毎晩エスキスをし、次第に慣れてくると良い質問をしてくるようになった。
この子の優れていたのは、毎日ちゃんとプランを形にする力があったこと。線もとても良い線を描く。毎日ハードルを上げて、最後は模型も含めてなかなか素晴らしい案をまとめ上げた。勘が良くセンスのある子だった。
よく思うのは、我々は音楽を聴いて「これは良い曲だな」と思うことはあっても、良い曲を書くことはできない。良い曲がどういうものかは分かっているのに、それを作ることができないというのは不思議なものだ。それと同じように、建築を見て「これは良い建築だな」と思うことはあっても、良い建築を作ることのできる人はごくわずかだ。それは教えられるものではない。
自分が良いなと思えるものを、すっと作ることができるのは才能なのだと思う。そんな気配を感じる子だった。それに気づいていない感じがまたよかった。このまま進んで欲しいと思う。

昨日はJIA支部広報誌であるBulletinの編集打合せのため、現編集長の長澤徹さんのできたてほやほやのご自宅兼事務所にお邪魔してきました。
長澤さんは、大手ハウスメーカーから独立された経歴から、ご自身のお仕事をいつも謙遜してお話しされるのですが、とてもシャープで、ある意味アトリエ系建築家よりも尖った作風?に驚きつつ、長澤さんの美意識に貫かれた空間を堪能させて頂きました。
ちょうど外構工事中でしたが、宇都宮のCOMODOさんの仕事でご一緒した造園家の長谷川さんとばったり。長澤さんとは旧知の仲だとか。造園の完成形も楽しみです!長澤さん、お邪魔しました。Bulletinでも引続きお世話になります。

