
去年4月に小泉誠さんのお店に立ち寄った際、窓辺にかかる謎のこいのぼりに目を奪われました。あれはなんだろうと調べたら、テキスタイルデザイナー須藤玲子さんによるものだとわかりました。
その取り組みを知るにつれ、いつか実物を見てみたいと思っていたのですが、今月日本橋三井タワーでこのインスタレーションが見れる、しかも昨日は須藤玲子さん自身によるギャラリーツアーがあるというので迷わず申し込みました。
足を運んでびっくり!
そのインスタレーションもさることながらなのですが、それぞれのこいのぼりに使われている生地にも全てストーリーがあり、国内を代表する職人や生地メーカーによる希少な技術が使われていたり、説明なしでは気づけないようなこだわりや、気の遠くなるような複雑な工程を経て作られた布たちばかり。
建築の世界にも高い山脈がありますが、テキスタイルの世界にもそびえ立つ高い山脈の頂を、束の間垣間見たような気がしました。
それを実に楽しそうに、そして自分ごととして語る須藤さん。
ジブリの「ハウルの動く城」に、ソフィーが好きなものを語るとみるみる若返っていくシーンがありますが、テキスタイルの魅力を語る須藤さんは本当に活き活きしていて、そのキャリアからもっと重鎮のような方を想像していたのですが、そのギャップにすっかりファンになってしまいました。
話しかけると、初対面の私にもにこやかにご対応下さいました。ミニこいのぼりが買える場所も教えて頂いたので、帰りに立ち寄り早速一匹ゲット!私も5月まで窓辺に下げて楽しみたいと思います。
日本橋こいのぼりなう! (3月30日まで)
https://tokyo-creativesalon.com/events/nihonbashi02/



昨日は建築家の佐藤重徳さんの「住宅の骨格」展へ。丸山弾さんとも会場でばったり。次々と関係者が集まってきていました。
重徳さんは、会うといつも「山みたいな人」だと思います。黙ってそこにいる感じ。でも呼びかければやまびこのように確実に返ってくる。それはご自身が元山岳部の主将だったということにも関係するのかはわかりませんが、実際今回の個展でもご自身の仕事を山登りに例えて解説されていました。
骨格というと、例えば内藤廣さんのように、整然とした架構を意匠として表明するような建築を想像しますが、重徳さんの建築は全く違います。むしろ構造は見えない。それは心の中にある、そんな感じがします。それがこぼれ出て全体を整合させる規範になっている。
よく筋を通すという言い方があります。あるべき序列や道理を飛び越えた行動を筋違いと言ったりもしますが、重徳さんの建築にはそれがない。人としてまっすぐの場所に立っている。だから清々しいのだと思います。やっぱり「山みたい」って思います。
会えばそんな説教は一切なし。そこにはいつも温かな心配り。いつかそんな風になれたらと思うのですが、私には一生無理かもしれません、、。いつも居住まいを正して頂く、人としてとても尊敬する建築家です。



独立前、ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)に留学していた時に関わったプロジェクトがありました。学生を対象とした木造の実施コンペのプロジェクトで、その年のお題はコルケアサーリ動物園の高台に物見の塔をつくるというもの。私も参加しましたが惜しくも佳作どまりで、コンペを獲ったのはヴィッレ・ハラ(Ville Hara)というフィンランド人の学生でした。
その案はラチス状に組んだ木のメッシュのようなシェル構造で物見の塔を作るという大変野心的なもので、当時の私も度肝を抜かれました。Kupla(Bubble)と名付けられたその塔は私もプロジェクトに関わり、その後実現に至りました。すでに20年以上が経つので、最近取り壊されるとか、壊されたとかいう噂を聞きましたが、真偽の程はわかりません。
そんなKuplaが表紙になった本が最近出たようです。
『模型で考える』(彰国社)平瀬有人 編著
https://amzn.asia/d/3RDGKUT
『模型で考える』と題されたその本には、日本では定番のスチレンボードではなく、木や金属や石膏といったナマの素材を使った模型の事例が数多く納められています。そのなかの事例の一つとして、このKuplaの1/20スケールの木の模型が収録されています。

わずか1Pのみの紹介ですが、この模型を見ると当時のことがいろいろと蘇ってきます。私自身もこの模型をプロジェクトメンバーと一緒に作ったからです。
このプロジェクトは、コンペに当選した学生を囲んで、毎週ケーブルファクトリーと呼ばれる工房に集まり、図面を描いたり模型を作ったりして、学生達の手で実現まで導くという日本ではあまり考えられない大胆な教育プログラムでした。
Villeの案があまりに斬新だったため、これをどう実現すれば良いのか皆目見当もつかず、とりあえず模型を作ってみようということになりました。そこで最初に作ったのが、書籍にも納められているこの1/20スケールの模型です。

表皮を覆う木造シェルの部分は薄くスライスした木を、瞬間接着剤を使ってベタベタととにかく張り付けまくったのを覚えています。できあがったのがちょうどクリスマス前のことで、みんなで「できたできた!」と喜び合ったのですが、それはこのスケールだからできたこと。随所に破綻した部分もあり、次はより詳細に、これをもう一廻り大きな1/5スケールで作ってみようということになりました。
こうやってスケールを上げながら、あくまで手仕事で実現性を検証しようというのが学生らしいというか、フィンランドらしいところでもあってとても印象に残っています。
日本なら高度な3D図面を作れば技術力のある建設会社が作ってくれそうな気もしますが、この建設も学生の手で行うという前提があったので、「模型で作れれば実物も作れる」というのは、シンプルですがとても確かな進め方でもありました。



上の写真でうずくまって作業をしているのが当時の私です。奥にいるのは、当時仲が良くて今でも親交のあるフィンランド人の友人Anttiです。その後日本人と結婚して、日本にやってくるときは家族で我が家にも遊びに来てくれます。
こうして巨大な模型ができあがりました!高さはおよそ2m、私の背よりも高いです。手前にあるのが、最初に作った1/20スケールの模型です。

Villeはこのプロジェクトを卒業設計(diploma)として学校に提出して晴れて卒業し、architectの称号も得ました。これはその後EUの卒業設計コンクールでグランプリも獲ったとか。1/5の巨大模型はポンピドーセンターに所蔵されたとVilleからは聞きましたが、ホントですかねぇ、、。
フィンランドは日本と違って、自分一人で設計したものではなくとも、チームをまとめ上げて一つの建築を作りあげる能力も建築家として大切な資質と考えているようで、こういうプロジェクトでも卒業を認めてくれるというのは本当に素晴らしいと思います。

ちなみにVilleはその後、Avanto Architectsという設計事務所を立ちあげ、現在ではフィンランドを代表する建築家のひとりになっています。彼ともフィンランドに行ったときにはよく顔を合わせる仲です。
今では日本でもLoyly(ロウリュ)というサウナ用語が一般化していますが、そんな「Loyly」という名のついた以下のサウナ施設を手がけたのもVilleが率いるAvantoです。たまに日本の番組でも紹介されることがあるので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

そんな話を語り始めると、まだまだ語り足りない話が山ほどありますが、それはまたの機会に!本の表紙の話からついつい筆が走ってしまいました。
『模型で考える』 書店で見かけたら、ちょっと手に取ってみて下さい!

日本橋高島屋にて、北欧照明の展覧会「北欧のあかり展」が3月5日(水)よりはじまります。
展覧会には、私が個人的に所蔵するフィンランドの建築家、ユハ・レイヴィスカによるオリジナル照明器具4点を出展させて頂いております。
また、フィンランド在住のデザイナーの友人、遠藤悦郎さんによるレイヴィスカの教会を撮影した美しい動画も会場で流される予定とのこと。こちらも私も楽しみにしています!
事前に会場構成を図面で拝見したのですが、九州産業大学の小泉隆氏が監修しているだけあって、百貨店の展覧会とは思えないほどの規模とクオリティでの開催で、私の出展以外にも数多くの北欧の名作照明が揃い、大変見応えのある展覧会になりそうです。
この機会に北欧の美しい照明の魅力に触れて頂きたく、是非会場まで足をお運び下さい!
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ヒュッゲな暮らしをデザイン
『北欧のあかり展』
日本橋高島屋 S.C.本館8階ホール
2025年3月5日(水)~3月24日(月)
入場時間:10:30~19:00(19:30 閉場)
※最終日3月24日(月)は17:30まで(18:00閉場)
■詳細はこちらより
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/hokuou_akari/
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うちの事務所にお越し下さったことのある方でしたら、ミーティングテーブルの上に下がっていたこちらの照明をご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
これは実はレイヴィスカ設計によるグッドシェパード教会(2002)のためにデザインされたオリジナルモデルになります(非売品)。どうしてそれを私が持っているかの詳細は割愛しますが、とある経緯で入手し、それを見て一目でレイヴィスカによる照明であるとはわかったものの、それがどの建物のモデルなのか(レイヴィスカは設計した建物ごとにオリジナルの照明をデザインします)が長年わかりませんでした。
それが2018年にフィンランドに行った際にこれまで訪れたことのなかったグッドシェパード教会に立ち寄り、それが事務所の照明と同モデルであることにはじめて気づきました。ずっと生き別れになっていた兄弟に再会したような気分でした。


レイヴィスカをこよなく愛する私が長年気づけなかったのは、私が持っている作品集には収録されていない比較的新しい教会のモデルだったからでした。
レイヴィスカの建築は私にフィンランドに渡ることを決意させた建築です。それほど私はレイヴィスカの建築が自分の建築の原点であるとすら思っています。そんなレイヴィスカの照明を事務所に下げて毎日眺めることのできる幸せを思わずにはいられません。
それ以外にも我が家のダイニングには、レイヴィスカのJL341が下がっています。

こちらはヘルシンキのアルテック本店に行けば購入することができますが、日本国内では手に入らない照明です。私が設計する住宅のいくつかには、これを下げているので見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これも本当に美しい照明で、日々の食卓を彩ってくれています。
それ以外には、以下の照明器具を出展しています。


いずれも現在では日本国内では手に入りません。うちJL340は過去唯一国内で販売されたレイヴィスカランプで、当時はヤマギワが扱っていました。
会場にはそんな国内では(我が家以外では?)ほとんど見ることのできないレイヴィスカランプの数々も展示されていますので、是非この機会にご覧頂けると嬉しいです。
東京展のあとは、大阪、そのあとは九州に巡回するそうです。うちの事務所に戻ってくるのはまだまだ先になりそうです。(寂しい・・)

諸事情あって、しばらくダイニングのレイヴィスカランプが使えなくなってしまったので、期間限定で他の照明を下げることになった。ほんの数ヶ月のことだから裸電球でも下げておこうかと思っていたところ、まさかのIKEAで出会ってしまった。
ここでIKEAの話をしたい。誤解を恐れずに言うと、私はIKEAが嫌いだ。あんなの北欧デザインでもなんでもない、ただのアメリカ的消費文化の象徴だと今でも思っている。あぁ、こんなこと書いていろんな人に怒られそうだけど、そう思っているから仕方ない。
そんなIKEA大嫌い人間が、自宅にIKEAの照明を下げる。これは革命的なことでもある。そのくらい、このKNAPPAという照明は優れている。これだけは認めざるを得ない。
この複雑な形状を作り出しているのは、ほぼ全て同じ形をした鱗型のセルシートとわずか8本の弓形のパーツ、そして上下2枚のリング。たったこれだけ。組み立ても実に簡単。これが、わずか20センチ四方くらいの小さな箱に入って売られている。これがこんな小さなパッケージに納まっているのがまずもって信じられない。
そしてお値段、¥2,499。嘘でしょ?これを優れたデザインと言わずしてなんと言おうか。悔しいけど、潔く負けを認めたい。
