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sekimoto

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a+u Alvar Aalto Housesが発売になりました。
1998年に出版された同書は私にとっても思い入れの強い一冊でしたが、その後絶版となり、このたび編集も一新して再び出版されました。右が1998年版、そして左が発売された2021年版です。写真はフィンランド時代に最もお世話になったヤリ・イェッツォネンさん。

2021年版はコッコネン邸が表紙になっています。コッコネン邸はまだ足を運んでいないのですが、隠れた名作住宅。2002年にOZONEで開催したアールト住宅展のポスター写真も、このコッコネン邸の暖炉をフューチャーしました。

そしてこのコッコネン邸には、作曲家ヨーナス・コッコネン氏本人も写っています。これは極めて異例なことで、日本から足を運んだ写真家には撮れない、ヤリさんにしか撮れない写真のひとつだと思います。

さてここからが、この二つの本を持っている人だけの特権的な話になってしまいますが、一見同じように見える写真でも、よく見ると98年版からアングルが変わっていたり、トリミングを変えていたりしています。

例えばこのコッコネン氏のカット。少しだけ角度を違えたまさにアナザーカットなのですが、21年版でようやくそのリビングとピアノとの関係性が明らかになるなど、違った見方もできるものになっています。


そしてこれも激渋ポイント!アールト自邸の外観ですが、全く同じカメラ位置、そして季節も冬で雪景色のカットなのですが、外壁の色が違います。98年版は改修直後の黒々した外壁なのに対して、21年版は少々色が落ちてエイジングしています。

ツタの絡みかたも違うので、実際には撮影時期はどちらが先なのかはわかりませんが、そんなところもヤリさんらしい遊び心と執念のようなものを感じるポイントです。


冒頭の数件は初期の新古典主義の住宅群。おそらく初見の人も多いでしょう。アールト20代の作品です。あの時君は青かった。しかしよく見ると、これまた良くできているんですよ。

イタリア古典主義を木造で模倣しながら、単なるフェイクで終わらせず、フィンランドならではのログ構法と組み合わせていたりして、どこか品があるんですよね。この初期の住宅をこのクオリティで撮影したものも、ほかに例がないことも付け加えておきます。

98年版の方には、巻末に建築家マッティ・サナクセンアホによる長文の文章もあって、アールトエピソード満載でとても楽しいのですが、21年版の巻頭のシルッカリーサによる解説文もまた素晴らしいです。

アールトの住宅は、プランを見ていると本当にゾクゾクします。全く理解できません。それが空間になるとこうなるのかという、一つの抽象絵画を見ているかのようです。

マイレア邸にはもう10回くらい足を運んでいますが、未だによくわかりません。これがアールトミステリーなんですよね。こちらも何度でも読み返したくなります。