
今期副講師を務める新建新聞社の工務店設計塾にて、一昨日は北海道から山本亜耕さんをゲスト講師にお招きしての設計講評。亜耕さんとは長い付き合いのようでお目にかかるのは実は初めてという、これにはお互いびっくり。まさにSNS時代の既視感現象でしょうか。
亜耕さんがホームエリアとする北海道は、関東の人間からすると冬の気候はまさに異次元の領域で、以前北海道の計画が入りかけた時にはいろいろ相談に乗っていただいた事もありました。
難解な話をこともなげに語る独特の亜耕節は、理論やデータがすべて頭に入っていて、それが十分に体系化されているからこその揺るぎない語り口は説得力が半端ない。あの口調で「そーでしょ、わかる?」とたたみかけられれば、「うん、わかるわかる」しかありません笑。
パッシブ換気をはじめ、一種換気と三種換気のそれぞれのメリット、世界的な視点で見た日本の実情のことなど、なんだかコムズカシイあれこれが雪のように溶けていく夜でした。
亜耕さんって、話しているとつくづく北海道の方だなあ、と思うんですよね。スケールが大きくて、お人柄の向こう側に釧路湿原みたいな景色がばーっと浮かぶんです笑。楽しい夜でした。どうか気をつけてお帰りください!

井上洋介さんのオープンハウスへ。
井上さんの住宅を見るといつも建築家の仕事というものを考えさせられる。急カーブをブレーキも踏まずに突っ込んで行くような大胆さがなければ人を感動させることはできない。でもそこに悪魔のような繊細さがなければただの無謀運転、コーナーに激突してそこでおしまい。
その超絶的なドライビングテクニックを見に、掛け値なしに「すげー」ってただ言うためだけに、F1レースを見に行くような気分でいつも出かける。
この空間を求めたのは誰だろう?発注主は建主であったとしても、こんな空間は想像もつかなかったに違いない。建築とは常に発注主からは離れたところにある。要望がこうだったからこうなった、という説明はただの言い訳に過ぎない。
物価高騰も職人不足もみんな言い訳だ。だってこんな建築ができるんだもの。きっと壮絶な苦労があったことは想像に難くないけど、これができるならすべて忘れられる。だって、建築ってそういう仕事でしょ。そう言われたような気がしました。
今日も勇気を頂き、ありがとうございました。



去年4月に小泉誠さんのお店に立ち寄った際、窓辺にかかる謎のこいのぼりに目を奪われました。あれはなんだろうと調べたら、テキスタイルデザイナー須藤玲子さんによるものだとわかりました。
その取り組みを知るにつれ、いつか実物を見てみたいと思っていたのですが、今月日本橋三井タワーでこのインスタレーションが見れる、しかも昨日は須藤玲子さん自身によるギャラリーツアーがあるというので迷わず申し込みました。
足を運んでびっくり!
そのインスタレーションもさることながらなのですが、それぞれのこいのぼりに使われている生地にも全てストーリーがあり、国内を代表する職人や生地メーカーによる希少な技術が使われていたり、説明なしでは気づけないようなこだわりや、気の遠くなるような複雑な工程を経て作られた布たちばかり。
建築の世界にも高い山脈がありますが、テキスタイルの世界にもそびえ立つ高い山脈の頂を、束の間垣間見たような気がしました。
それを実に楽しそうに、そして自分ごととして語る須藤さん。
ジブリの「ハウルの動く城」に、ソフィーが好きなものを語るとみるみる若返っていくシーンがありますが、テキスタイルの魅力を語る須藤さんは本当に活き活きしていて、そのキャリアからもっと重鎮のような方を想像していたのですが、そのギャップにすっかりファンになってしまいました。
話しかけると、初対面の私にもにこやかにご対応下さいました。ミニこいのぼりが買える場所も教えて頂いたので、帰りに立ち寄り早速一匹ゲット!私も5月まで窓辺に下げて楽しみたいと思います。
日本橋こいのぼりなう! (3月30日まで)
https://tokyo-creativesalon.com/events/nihonbashi02/



昨日は建築家の佐藤重徳さんの「住宅の骨格」展へ。丸山弾さんとも会場でばったり。次々と関係者が集まってきていました。
重徳さんは、会うといつも「山みたいな人」だと思います。黙ってそこにいる感じ。でも呼びかければやまびこのように確実に返ってくる。それはご自身が元山岳部の主将だったということにも関係するのかはわかりませんが、実際今回の個展でもご自身の仕事を山登りに例えて解説されていました。
骨格というと、例えば内藤廣さんのように、整然とした架構を意匠として表明するような建築を想像しますが、重徳さんの建築は全く違います。むしろ構造は見えない。それは心の中にある、そんな感じがします。それがこぼれ出て全体を整合させる規範になっている。
よく筋を通すという言い方があります。あるべき序列や道理を飛び越えた行動を筋違いと言ったりもしますが、重徳さんの建築にはそれがない。人としてまっすぐの場所に立っている。だから清々しいのだと思います。やっぱり「山みたい」って思います。
会えばそんな説教は一切なし。そこにはいつも温かな心配り。いつかそんな風になれたらと思うのですが、私には一生無理かもしれません、、。いつも居住まいを正して頂く、人としてとても尊敬する建築家です。



独立前、ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)に留学していた時に関わったプロジェクトがありました。学生を対象とした木造の実施コンペのプロジェクトで、その年のお題はコルケアサーリ動物園の高台に物見の塔をつくるというもの。私も参加しましたが惜しくも佳作どまりで、コンペを獲ったのはヴィッレ・ハラ(Ville Hara)というフィンランド人の学生でした。
その案はラチス状に組んだ木のメッシュのようなシェル構造で物見の塔を作るという大変野心的なもので、当時の私も度肝を抜かれました。Kupla(Bubble)と名付けられたその塔は私もプロジェクトに関わり、その後実現に至りました。すでに20年以上が経つので、最近取り壊されるとか、壊されたとかいう噂を聞きましたが、真偽の程はわかりません。
そんなKuplaが表紙になった本が最近出たようです。
『模型で考える』(彰国社)平瀬有人 編著
https://amzn.asia/d/3RDGKUT
『模型で考える』と題されたその本には、日本では定番のスチレンボードではなく、木や金属や石膏といったナマの素材を使った模型の事例が数多く納められています。そのなかの事例の一つとして、このKuplaの1/20スケールの木の模型が収録されています。

わずか1Pのみの紹介ですが、この模型を見ると当時のことがいろいろと蘇ってきます。私自身もこの模型をプロジェクトメンバーと一緒に作ったからです。
このプロジェクトは、コンペに当選した学生を囲んで、毎週ケーブルファクトリーと呼ばれる工房に集まり、図面を描いたり模型を作ったりして、学生達の手で実現まで導くという日本ではあまり考えられない大胆な教育プログラムでした。
Villeの案があまりに斬新だったため、これをどう実現すれば良いのか皆目見当もつかず、とりあえず模型を作ってみようということになりました。そこで最初に作ったのが、書籍にも納められているこの1/20スケールの模型です。

表皮を覆う木造シェルの部分は薄くスライスした木を、瞬間接着剤を使ってベタベタととにかく張り付けまくったのを覚えています。できあがったのがちょうどクリスマス前のことで、みんなで「できたできた!」と喜び合ったのですが、それはこのスケールだからできたこと。随所に破綻した部分もあり、次はより詳細に、これをもう一廻り大きな1/5スケールで作ってみようということになりました。
こうやってスケールを上げながら、あくまで手仕事で実現性を検証しようというのが学生らしいというか、フィンランドらしいところでもあってとても印象に残っています。
日本なら高度な3D図面を作れば技術力のある建設会社が作ってくれそうな気もしますが、この建設も学生の手で行うという前提があったので、「模型で作れれば実物も作れる」というのは、シンプルですがとても確かな進め方でもありました。



上の写真でうずくまって作業をしているのが当時の私です。奥にいるのは、当時仲が良くて今でも親交のあるフィンランド人の友人Anttiです。その後日本人と結婚して、日本にやってくるときは家族で我が家にも遊びに来てくれます。
こうして巨大な模型ができあがりました!高さはおよそ2m、私の背よりも高いです。手前にあるのが、最初に作った1/20スケールの模型です。

Villeはこのプロジェクトを卒業設計(diploma)として学校に提出して晴れて卒業し、architectの称号も得ました。これはその後EUの卒業設計コンクールでグランプリも獲ったとか。1/5の巨大模型はポンピドーセンターに所蔵されたとVilleからは聞きましたが、ホントですかねぇ、、。
フィンランドは日本と違って、自分一人で設計したものではなくとも、チームをまとめ上げて一つの建築を作りあげる能力も建築家として大切な資質と考えているようで、こういうプロジェクトでも卒業を認めてくれるというのは本当に素晴らしいと思います。

ちなみにVilleはその後、Avanto Architectsという設計事務所を立ちあげ、現在ではフィンランドを代表する建築家のひとりになっています。彼ともフィンランドに行ったときにはよく顔を合わせる仲です。
今では日本でもLoyly(ロウリュ)というサウナ用語が一般化していますが、そんな「Loyly」という名のついた以下のサウナ施設を手がけたのもVilleが率いるAvantoです。たまに日本の番組でも紹介されることがあるので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

そんな話を語り始めると、まだまだ語り足りない話が山ほどありますが、それはまたの機会に!本の表紙の話からついつい筆が走ってしまいました。
『模型で考える』 書店で見かけたら、ちょっと手に取ってみて下さい!
