先日のオープンスタジオで、仙台から一人の若い女性がご参加下さいました。地元の工務店に勤めているという方でした。

その方は学生時代に私のセミナーを聞いて、住宅の道に進みたいと思ったとのこと。埼玉はおろか東京にも行ったことがなかったそうですが、遠路はるばるそれを私に伝えるために、そして私の仕事を見学するためにわざわざいらして下さいました。

そのセミナーは一昨年の2021年の暮れ、友人でもある東北工業大学の石井敏先生が企画されたオンラインセミナーでした。当時の石井先生のお話では「仙台の学生は住宅に興味を持っている子が多いのに、卒業後は大手に就職する子も多く、もう少し建築家のように個人と向き合って設計をすることの喜びや魅力についても知ってほしい」とのこと。

そこで私は、我々の仕事というのは「街に放った小石そのもの」だという話をしました。

「小さな住宅ひとつ建てたところで街は変わらない」
本当にそうだろうか?

小さな住宅ひとつで街が変わるということが実際にはある。放った小石の波紋はやがて静かに街に伝播してゆく。我々の仕事はそういうものだというそんな話です。私がそこで放った小石の波紋は、さざ波のように広がって、ひとりの学生の心を動かしたようです。

我々が街の中に小さな住宅を作り続けること。
セミナーに登壇すること。
原稿を書き本を出すこと。
諸団体の雑務を引き受け運営すること。
オープンデスクの学生を受け入れ渾身の指導をすること。
スタッフを何年もかけて育て上げること。

すべてやっていることは同じなんです。それが何の役に立つの?どんな意味があるの?忙しいのに、どうしてお金にもならないようなことをやっているの?

すべては社会に放る小石のようなものなんです。

私の投げた小さな小石が社会になんらかの波紋をつくることが出来るのなら、私がこの世に生きている意味も少しはあることでしょう。

先日のオープンスタジオでのささやかな出会いは、私にとって心から勇気をもらえる出来事でした。Oさん、ご来場下さりありがとうございました。

以前も少し書きましたが、ある書籍企画が進んでいます。これまで単著として3冊を刊行させて頂いたので、これで4冊目ということになります。

これまでの書籍は、住宅のディテールを扱ったものや図面の描きかた、また現場の施工手順などを扱ったもので、ページ数にして120~150ページ程度のもの。うち半分は図版や写真などなので、私が実際に執筆した文章量としては実質その半分くらいだったかもしれません。

ところが今回の本はボリュームにして約300ページ、しかも図版や写真は少なめで、あとはびっしり文章!1ページをすべて文章で埋めると600字になる計算なので、300ページびっしりだと約18万字にもなります。

たださすがに一部に図版やイラストなどもあるので、ここからそれらを差し引くと、実際に書いたのは仮に7掛けとして12~13万字くらいでしょうか。執筆期間は昨年10月から12月までの約3ヶ月間。平日は仕事があるので、夜や週末に引きこもってずっと書いていました。すべて自筆による書き下ろしです。

サイトで少し長めのブログを書いた場合で1,200~1,300字程度になるので、この3ヶ月で長めのブログを約100本書いた計算になります。まさにブログ10年分!

ここ数ヶ月ほど、あまり長文のブログをアップしていなかったのは、こういう事情によるものでした。(それでもちょいちょい書いていましたけどね)


しかし出版というのは、当たり前ですけど、ここでは終わらないんですよね。

原稿執筆というのは、設計でいえば基本設計みたいなもので、それが編集者の手に渡ってここから編集作業が始まります。これは設計に例えれば実施設計のようなものでしょうか。

編集を通ったものは、次にゲラと呼ばれる校正刷となってふたたび著者の元に届きます。これをチェックするのも著者の大切な仕事です。これは所内の実施図チェック、もしくは施工図チェックにあたります。

校正は、「初校」を経て「再校」、そして「念校」へと至ります。それぞれのプロセスで最初から最後まで通読し、誤字脱字のほか、意味の通らないところ、あるいは意味は通るのだけれど違和感のある表現や言い回しなどを細かく細かくチェックしていきます。

これは私が図面チェックの際に、機能は満たしているけど違和感のある寸法やプロポーションを、徹底して掘り下げていく作業にきわめて近いように感じます。

今回は念校でも終わらず、再念校まで出してもらったので、私はこの300ページもある本を、たぶん5~6回くらい(部分的にはそれ以上!)読み込んだことになります。そろそろ暗記できそうです。

冒頭の写真は、これまでの校正刷りのチェックバックを積み上げたもの。終盤はプリントアウトをしないでPDFベースで読み込んでいたので、作業量は実際にはこの倍ぐらいになるかもしれません。

そんな作業もようやく終わりました。

というか終わらせました。読み込んでいるといくらでも直せてしまうので、キリがないのでここで筆を置くことにしました。あとは編集サイドにお任せしたいと思います!


こんな風に書くと、本を出すって本当に大変なんだとお感じになると思いますが、実際にはどうかというと、我々が普段設計の実務でやっていることと何も変わらないので、私自身は大して大変だとは思いませんでした。むしろとても楽しかったです!こちらも設計と同じですね。

苦労しながらも、編集者さんの意見を聞いたり、出版社の大人の事情?なども汲み取りながら、人の目に触れる本を作っていく作業というのは本当にやりがいのある作業だとあらためて感じました。ブログだと、それを添削してくれる人はいませんからね。この第三者の目というのは、本当に勉強になるのです。

本書籍の現在のプロセスをマラソンに例えるならば、ようやくゴールの国立競技場が遠くに見えてきたところでしょうか。本の詳細はまだ書けません。刊行時期も現時点ではまだ確定していませんので、このあたりもクリアになったら、この場でもお伝えしたいと思います!

カーテン類などは住宅のオプションのようなもので、竣工後に建て主さんが好きなものを付けるというのが通例ですが、うちが設計する住宅では竣工時にカーテンの代わりにロールスクリーンを取り付けた状態でお引き渡ししているケースがほとんどです。ないとご入居後に困ってしまいますので。。

私の自邸も含めて、いつもニチベイさんにお願いして定番仕様のスクリーンを取り付けて頂いているのですが、今回タイアップのお話を頂きまして築15年の我が家のスクリーンの一部を交換して頂き、取材までして頂きました。ニチベイさんありがとうございました!

【なるほどブラインド】
“透明な壁”とロールスクリーンで家族も街もつなぐ家
https://www.nichi-bei.co.jp/column/58/

今回庭側と道路側には「ha・na・ri」というブラインド風のスクリーンを取り付けて頂いたり、ロールスクリーンも色をグレージュ系のこれまで使ったことのない色を使ったりと、リビング周りのスクリーンを一新してみました。上記のリンクから、どうかサイトのインタビュー記事もどうかご覧頂けたらと思います。




23. 01 / 15

我々の価値

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと


年が明けて、滞っていたプロジェクトがひとつ動き始めた。幸先の良い年のはじまり。そんな打合せ終わりの雑談で、その方がうちに設計を依頼しようと思ったきっかけとしてこんなことをおっしゃった。

その方はハウスメーカーにも行ったが、画一的なつくりがテンプレートのようで住みたいと思えなかったそう。次に工務店にも話を聞きに行ったが、こだわりある工務店で、そこでは住宅の性能のことをとても丁寧に説明を受け、断熱性能や気密性能がいかに大切かを力説されたそうだ。

ここまではあり得る話。じゃあそこにしようかしら、と気持ちが傾くのが今どきの流れだろう。ところがその建て主さんは、その説明を聞いて「そんな小数点の性能にこだわるよりも、もっと自分たちらしい家に住みたい」と思って設計事務所で建てることを選んだそうだ。

そんなことあるんだ。これまでその真逆の話をずいぶん聞かされてきたので、この話には本当に涙が出るくらい嬉しかった。我が事務所はそうはいっても、性能をけしておろそかにはしていない。HEAT20でG2グレードの断熱性能は当たり前だし、気密測定をすればC値でもそこそこ良い数字は出せる。

性能重視の時代だからこそ、ホームページにも大きく性能のことをアピールすべきだろうかと迷う気持ちもあるけれど、それはしていない。なぜかというと、それはうちの”売り”ではないからだ。

それをした瞬間に性能値の戦いがはじまる。数字では他社に負けるかもしれない。でも我々の価値はそこではないのだ。そうではない土俵で戦っているのだということをずっと考えてきたけど、工務店勢力に押されてここのところ心が折れそうになっていた。

性能はけして諦めないし手は抜かない。けれども我々の本当の価値はそこではない。

それを理解して下さる方が、うちにご依頼を下さる。
なんと嬉しいことだろう!

先日、大学同期の友人である与那嶺が大学の教え子を連れて事務所にやってきました。与那嶺はアラップという構造事務所に所属する構造家である傍ら、大学でも准教授として教えています。同期たちはみんな出世してゆきます(じっと手を見る、、)。

大学は新潟にある長岡造形大学というところなのですが、やはり首都圏にある大学と異なり、進路などを考える上でも選択肢に限りがあるとのこと。彼らにより広い世界を見せたいとの彼の親心から、私のようなアトリエ設計事務所や、他の友人を頼って大手の組織設計事務所などにも見学に連れて行ったようです。本当に素晴らしい取り組みだと思います。

学生さん達には我々設計事務所の日常を見て頂き、私からも学生時代の頃の話や20代の頃の悩み、そして現在に至るまでの苦労話などもさせて頂きました。

最後はスタッフも連れて近くのお店へ。学生達の目は本当にキラキラとしていて、スタッフも熱心に彼らに語りかけていたのが印象的でした。また彼らの悩みなども聞きながら、私も懐かしく学生時代を思い出したりもしていました。

その数日後、そんな学生さん達からのお礼のお手紙が送られてきました。
これにはびっくり!

2~3行の感想ではなく、A4サイズの紙にみなさんびっしりと。自分たちの思いや我々の話を聞かせてもらった事についての感謝がそこには綴られていました。私にもなかなかそこまではできません。与那嶺の指導もあるでしょうが、本当に素晴らしい学生さん達です。

まだ何者でもない20代は本当に不安で、進路が見えず孤独を感じると思います。大した話はできませんでしたが、皆さんの心にはそれなりに刺さった話もあったようで本当に良かったです。

先日は遠いところお越し下さり、また素晴らしいお手紙まで下さり本当にありがとうございました!どうか皆さんらしい道を見つけて下さいね。