14. 09 / 01

洋食屋さん

author
sekimoto

category
> 思うこと
Warning: Undefined array key 1 in /home/riotadesign/riotadesign.com/public_html/wp-content/themes/rd/blog/cat_sekimoto.html on line 48


設計事務所がハウスメーカーと競合するという人がいる.実際に施主を取られたという話も聞く.私には実感はないし,本当にそんなことがあるのか甚だ疑問だ.

街で評判の洋食屋さんの隣にガストができたら,つぶれてしまうだろうか.
街で評判の仕立屋さんの隣に洋服の青山ができたら,つぶれてしまうだろうか.

街の洋食屋さんが隣を意識して格安のランチをはじめたら,もっと安くてそこそこおいしいメニューに敵うわけがない.街の仕立屋さんが本来の業務を忘れて既製服に走ったら,より広くてよりどりみどりから選べるお店に敵うわけがない.

残念ながらこの二つのお店に未来はない.
自らの被害妄想に殺されてしまうのだ.

設計事務所に,いろいろと営業の知恵を授けてくださろうとする方々がいらっしゃる.これからの時代,こういうことをやっていかないと負け組になっちゃいますよと助言を下さる方々がいらっしゃる.おそらくは親切心なのだろう.

でも私は,設計事務所がハウスメーカーみたいなことやってどうするの?と思う.そんなのはあちらに任せておけばいいのだ.我々には我々にしかできない領域がある.私にはご依頼くださった方を後悔させないし,心から頼んでよかったと思ってもらえる自信がある.

洋食屋は洋食屋であるべきだ.隣のお店のことなんて知らなくていい.自分の味を追求し,その日に訪れたお客様を満足させればそれでよい.それだけでいいのだと思う.

ここはどこ?フィンランド?
いえ,八王子です.

企画委員を務めるSADI(北欧建築・デザイン協会)にて工学院大学八王子図書館の見学会を行いました.設計は武藤章氏.アールトの事務所に勤務し,帰国後は工学院大学教授として後進を育てた建築家です.

素晴らしい空間でした.アールトの空間をコピーしたものではなく,武藤流の建築流儀とスケールによって,居心地の良い空間を作っていました.そんな空間が現在取り壊しの憂き目に遭っています.そんな空間を一人でも多くの方に知ってもらいたいと思います.

以下のSADIブログにレポートを載せましたので,ご興味のある方は是非ご覧下さい.
http://sadiinfo.exblog.jp/23243729/


さて,今回のような保存問題については,私なりに思うところがあります.

最近でも国立競技場の建て替え問題で大騒ぎしています.現在の競技場は残して改修をすべき,いや建て替えるべき,建築界はケンケンガクガクです.

いや,実は手遅れで既定路線は既に建て替えで進んでいます.ザハ・ハディドという外国人建築家の案が採用され,東京オリンピックに間に合わせるべく,急ピッチで設計は進んでいるという実情があります.

その前には同潤会問題がありました.表参道の古い同潤会アパートは残すべき.しかし取り壊され,安藤忠雄さん設計の表参道ヒルズが建ちました.その時もケンケンガクガク.日本では古いものを残すというのは経済の論理の元ではほぼ無力です.学者や一部の建築家の声などかき消され,無きがごとしです.

ただ一方では,反対を叫ぶ建築家だって人のことは言えないのです.
なんといっても,古いものを壊さなければ,こと東京では仕事などできないのですから.あなたは古いものを壊したことはないのですか?

「いや,それとこれとは話が違うよ」
はたしてそうでしょうか?

「保存すべし」と叫んだ方が社会的にはかっこいいのです.「僕は保存すべきだと言ったんだけどね,結局取り壊されちゃったんだよ」そう言って遠い目をした方が正義なのです.そうではありませんか?

私は保存問題には,いつも少し醒めています.
そういうことを熱く言う人が居ればいるほど醒めてしまうのです.そしてそんな自分を少し後ろめたく思っています.

今回の図書館を見てどう思ったか.
私は「保存すべき」だと強く思いました.

空間が素晴らしかったことももちろんあります.けれどもそれ以上に,この空間は社会的にほとんど知られていなくて,報道ステーションでも朝日新聞でも取り上げてくれない問題だと思ったからです.そうしている間に,誰にも知られることなくその灯火が消されようとしている.それを思うと,その儚さに「守ってあげなくては」という思いを強くしました.

つまり保存の問題は実感の問題なのだと思います.
頭で考えるのではなく,心で考える問題だということです.

せめてこの空間を別用途に転用しようという意見もあるようです.けれども私はすこし反対です.この空間から本が抜き取られたら,それはもはや図書館ではない.この建築は,図書館であるからこそ生きる建築なのだと思うのです.

何が何でも保存,と突き走ることだけが良いことなのか私には分かりません.でも最後の最後まで粘って,結局敗れたときに,あっけなく壊されて消滅してしまうのではあまりに悲しいと思います.

せめて学生がこの空間に親しんだその生きた証のようなものが残せたらと思います.図書館が図書館として,最も輝いている姿を美しい写真などで残せないものでしょうか.せめてその刊行物を出版する動きを併行してできないものでしょうか.

空間の儚さ,建築の宿命,保存の問題・・・
昨日はいろいろ考えさせられた一日でした.


14. 07 / 11

ただ者ではない

author
sekimoto

category
> 思うこと
Warning: Undefined array key 1 in /home/riotadesign/riotadesign.com/public_html/wp-content/themes/rd/blog/cat_sekimoto.html on line 48



ピンポーン!「お中元です」

いまどきお中元を持参して来る人というのをはじめて見ました.実直・誠実を絵に描いたような某工務店のN専務.アポなしの営業訪問は基本門前払いのうちの事務所でも,こういう場合は丁重に迎え入れることになります.ずっしりと重いその箱の中身は何かと訊ねれば「ビールです.皆さんでどうぞ」.早速スタッフ全員で分けさせてもらいました.

でもこれ,とても素朴なんですが,考えれば考えるほどただ者ではないと唸らされてしまうのです.

1.流通業者に任せれば良いところを自ら訪問 →この時点で真似できない
2.それなら軽い菓子折りにすれば良いものを,よりによって一番重いものを選択
3.受け取った時の半端ないずっしり感 →相手の思いが重量に換算
4.中身はビール→この季節いくらあってもありがたい!
5.すべて同じものが入っている →平等にスタッフと分けあえる

中身は奇をてらっていないのに,なんでしょう,このいいものを受け取った感.思わず気持ちを持って行かれてしまいました.

この専務,腰が低くて床についちゃうんじゃないかというくらいの人なんですが,やっぱりただ者ではない.会社のHPの紹介には「我が社の中枢コンピューター」と書かれていました.う~んさすが.勉強になります!

14. 07 / 01

意味のある空間

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと



ちょうど1年ほど前に,蕨市に「窓の家」という家が竣工しました.

『窓の家』
https://www.riotadesign.com/works/13_mado/#wttl

そのお施主さんより,この1年暮らしてみての感想や,今回の家づくりを振り返っての詳細な”報告書”が届きました.その分量,実にA4で7枚.これまで1年点検等で口頭でいろんな感想を頂くことはありましたが,文書でここまでのものを頂くのは初めてのことです.

正直,こうしたコメントは自分の通信簿を見るようでもありかなりドキドキします.クレームがいっぱい書かれていたらどうしよう!

実際には良いことも悪いことも書かれていました.ただ良いこと9割,悪いこと1割くらいでしょうか.もしかしたら2割あったところを削ってくれたのかもしれませんが,とにかくこの1年生活しての喜びや幸せが綿々と綴られていました.我々だけでなく,施工を担当した工務店さんへの感謝も書かれていました.

こうしたフィードバックは,我々にとっては非常に貴重なものです.設計者は未来を予見し,想定することが仕事なわけですが,想定通りになったかどうかの摺り合わせは,いわば答え合わせのようなものです.試験でこのように自分は解答した!とドヤ顔で語ったとしても,採点者がバツをつけたらそれは不正解だと思うからです.

お施主さんが「終わりに」と綴られていた以下の言葉がとても印象に残りました.あぁ,大正解!細かい設問での減点はありましたが,最後の配点50点の小論文で満点を取ったような気分です.そのように感じて頂けたこと,感じて頂くことが,まさしく我々の仕事の目的そのもののような気がします.

『今回の家作りを通して、大事な収穫を得ることができました。それは家族・友人との結びつき、今風にいうと絆でしょうか。新しい家を媒介して、今まで以上に結びつきが増幅できました。戸田の花火大会で家族が集う、世間話でご近所さんが集う色々なつながりが、新しい家により増幅することができました。単なる空間が、プロの知識と技を駆使して、意味のある空間に変えられること。建築の奥深さを強く認識できました。恐るべし建築!』

~単なる空間が,プロの知識と技を駆使して,意味のある空間に変えられること~

そう,それが「建築」なんです.

14. 06 / 27

プロと

author
sekimoto

category
> 思うこと
Warning: Undefined array key 1 in /home/riotadesign/riotadesign.com/public_html/wp-content/themes/rd/blog/cat_sekimoto.html on line 48


我々は建物の規模や難易度に応じて、構造や設備などの外注事務所に専門的な設計を依頼することがある。外注費もばかにならないので、できれば安いところにお願いしたいと思うのはけして悪いことだとは思わない。

けれどもつくづく思う。一流の人たちの仕事はすごい。本当に勉強になる。うちがお願いする人は皆トップクラスの方達ばかりで、設計料も正直あまりお安くない。けれど最後にいつも思うのは、本当にこの人達にお願いして良かったということだ。

先日出てきた見積りでは、建設会社の方も驚愕していた。凝った設計なのに、鉄筋やコンクリート量が通常よりも少なく、コストパフォーマンスが極めて高いということ。いかに無駄を省いて、合理的な設計を極めているかがよくわかる。

構造もただ頑丈に作ればいいというものではない。優秀な構造家は力の流れがわかっている。だから最小限の力でバランスさせる方法をわきまえているのだ。それをいつも目の当たりにしては、プロだなあといつも惚れ惚れする。

なにが言いたいか。そう、我々はプロだということだ。

私は自分がプロだと思える方には喜んで報酬を差し出したい。本物のプロとの仕事は心底刺激的で、幸せに満ちたものになる。そして、自分をプロと認め報酬を払ってくださるクライアントのためにも、私も惚れ惚れするような仕事をしなくてはといつも思う。