ここはどこ?フィンランド?
いえ,八王子です.

企画委員を務めるSADI(北欧建築・デザイン協会)にて工学院大学八王子図書館の見学会を行いました.設計は武藤章氏.アールトの事務所に勤務し,帰国後は工学院大学教授として後進を育てた建築家です.

素晴らしい空間でした.アールトの空間をコピーしたものではなく,武藤流の建築流儀とスケールによって,居心地の良い空間を作っていました.そんな空間が現在取り壊しの憂き目に遭っています.そんな空間を一人でも多くの方に知ってもらいたいと思います.

以下のSADIブログにレポートを載せましたので,ご興味のある方は是非ご覧下さい.
http://sadiinfo.exblog.jp/23243729/


さて,今回のような保存問題については,私なりに思うところがあります.

最近でも国立競技場の建て替え問題で大騒ぎしています.現在の競技場は残して改修をすべき,いや建て替えるべき,建築界はケンケンガクガクです.

いや,実は手遅れで既定路線は既に建て替えで進んでいます.ザハ・ハディドという外国人建築家の案が採用され,東京オリンピックに間に合わせるべく,急ピッチで設計は進んでいるという実情があります.

その前には同潤会問題がありました.表参道の古い同潤会アパートは残すべき.しかし取り壊され,安藤忠雄さん設計の表参道ヒルズが建ちました.その時もケンケンガクガク.日本では古いものを残すというのは経済の論理の元ではほぼ無力です.学者や一部の建築家の声などかき消され,無きがごとしです.

ただ一方では,反対を叫ぶ建築家だって人のことは言えないのです.
なんといっても,古いものを壊さなければ,こと東京では仕事などできないのですから.あなたは古いものを壊したことはないのですか?

「いや,それとこれとは話が違うよ」
はたしてそうでしょうか?

「保存すべし」と叫んだ方が社会的にはかっこいいのです.「僕は保存すべきだと言ったんだけどね,結局取り壊されちゃったんだよ」そう言って遠い目をした方が正義なのです.そうではありませんか?

私は保存問題には,いつも少し醒めています.
そういうことを熱く言う人が居ればいるほど醒めてしまうのです.そしてそんな自分を少し後ろめたく思っています.

今回の図書館を見てどう思ったか.
私は「保存すべき」だと強く思いました.

空間が素晴らしかったことももちろんあります.けれどもそれ以上に,この空間は社会的にほとんど知られていなくて,報道ステーションでも朝日新聞でも取り上げてくれない問題だと思ったからです.そうしている間に,誰にも知られることなくその灯火が消されようとしている.それを思うと,その儚さに「守ってあげなくては」という思いを強くしました.

つまり保存の問題は実感の問題なのだと思います.
頭で考えるのではなく,心で考える問題だということです.

せめてこの空間を別用途に転用しようという意見もあるようです.けれども私はすこし反対です.この空間から本が抜き取られたら,それはもはや図書館ではない.この建築は,図書館であるからこそ生きる建築なのだと思うのです.

何が何でも保存,と突き走ることだけが良いことなのか私には分かりません.でも最後の最後まで粘って,結局敗れたときに,あっけなく壊されて消滅してしまうのではあまりに悲しいと思います.

せめて学生がこの空間に親しんだその生きた証のようなものが残せたらと思います.図書館が図書館として,最も輝いている姿を美しい写真などで残せないものでしょうか.せめてその刊行物を出版する動きを併行してできないものでしょうか.

空間の儚さ,建築の宿命,保存の問題・・・
昨日はいろいろ考えさせられた一日でした.