
以前、長らく続けた「新建築住宅特集」の購読をやめたことがあった。若かりし頃のように、誌面をめくるたびにときめくようなことも少なくなり、どこか異国の絵空事のように感じられるようになったためだった。
しかし購読をやめてしばらくしたら、スタッフから「新建築やめちゃったんですか?」と訊かれた。「あれ観てたの?」と訊くと、新刊が届くといつも手に取ってペラペラめくっていたのだという。
そうか、やっぱり建築にはすぐ明日にでも役立つような実用情報だけでなく、若いスタッフの感性をときめかせるようなサプリメントも必要なのかもしれない。そう思い直し、購読を再開した。
一方で必要なのは、日々生きてゆくために必要なガソリンだ。昨今のウッドショック関連の最新情報を日々更新するため、「日刊木材新聞」の購読をはじめた。こんなニッチな業界新聞を自分が手に取る日が来るとは思わなかった。
しかしこの新聞、想像以上にめちゃくちゃ面白くて、ネットでは絶対得られないコアな情報が日々びっしりと詰まっている。そりゃそうだ。ネット検索や加工された二次情報ではなくて、記者さんが日々奔走して、製材所やメーカーなどから直接取材をしているのだから。
こういう時、身近な関係者の談話だけを鵜呑みにするのは危険だ。情報がタダで手に入る時代だからこそ、本当の情報にはお金をかけなくてはいけない。まさに夢と現実。建築実務者にはどちらも欠かせないものだ。

JIA関東甲信越支部の機関誌・Bulletin春号が発刊されました(私は副編集長)。支部のJIA会員の方はまもなくお手元に届くと思います。
会田編集長最後の編集号となる春号は、巻頭に昨年末のシンポジウムが特集に組まれていますが、もうひとつの目玉はこちら。シン・エヴァンゲリオンの監督・鶴巻和哉さんのインタビューです!
鶴巻さんは私の駆け出し時代のクライアントでもあります。そんなご縁からつながった今回のインタビュー取材でしたが、幸か不幸か劇場公開が延期されたため、実にタイムリーな形でこの鶴巻さんインタビューをお届けできることになりました。
ダメモトで絵コンテの提供を申し入れたら、特別許可が下りて鶴巻さん自ら絵コンテを選んで下さいました!JIAだからということで、ひとつは建物が沢山入っているものになっています。私も鶴巻さんと付き合いは長いのですが、鶴巻さんのペンタッチを初めて見ました。感動!!


こちらはWEB公開もしていますので、内容は以下からも読めます。鶴巻さんの少年期の話やどうしてアニメーターになったのか、エヴァの製作秘話など、たぶん貴重なインタビューになっているはずです。
鶴巻和哉氏に聞く|好きなアニメーションをつくり続ける
https://www.jia-kanto.org/online/tanin/2020/287/index.html
◇
それと来週月曜日(22日)は、「プロフェッショナル・他人の流儀」で庵野秀明さんの特集が組まれる予定です。こちらにも鶴巻さんの出演もあるようです。
http://www6.nhk.or.jp/anime/topics/detail.html?i=10318
「NHK仕事の流儀|庵野秀明」VS「JIA他人の流儀|鶴巻和哉」
どちらもお見逃しなく!!


a+u Alvar Aalto Housesが発売になりました。
1998年に出版された同書は私にとっても思い入れの強い一冊でしたが、その後絶版となり、このたび編集も一新して再び出版されました。右が1998年版、そして左が発売された2021年版です。写真はフィンランド時代に最もお世話になったヤリ・イェッツォネンさん。
2021年版はコッコネン邸が表紙になっています。コッコネン邸はまだ足を運んでいないのですが、隠れた名作住宅。2002年にOZONEで開催したアールト住宅展のポスター写真も、このコッコネン邸の暖炉をフューチャーしました。
そしてこのコッコネン邸には、作曲家ヨーナス・コッコネン氏本人も写っています。これは極めて異例なことで、日本から足を運んだ写真家には撮れない、ヤリさんにしか撮れない写真のひとつだと思います。
さてここからが、この二つの本を持っている人だけの特権的な話になってしまいますが、一見同じように見える写真でも、よく見ると98年版からアングルが変わっていたり、トリミングを変えていたりしています。
例えばこのコッコネン氏のカット。少しだけ角度を違えたまさにアナザーカットなのですが、21年版でようやくそのリビングとピアノとの関係性が明らかになるなど、違った見方もできるものになっています。

そしてこれも激渋ポイント!アールト自邸の外観ですが、全く同じカメラ位置、そして季節も冬で雪景色のカットなのですが、外壁の色が違います。98年版は改修直後の黒々した外壁なのに対して、21年版は少々色が落ちてエイジングしています。
ツタの絡みかたも違うので、実際には撮影時期はどちらが先なのかはわかりませんが、そんなところもヤリさんらしい遊び心と執念のようなものを感じるポイントです。

冒頭の数件は初期の新古典主義の住宅群。おそらく初見の人も多いでしょう。アールト20代の作品です。あの時君は青かった。しかしよく見ると、これまた良くできているんですよ。
イタリア古典主義を木造で模倣しながら、単なるフェイクで終わらせず、フィンランドならではのログ構法と組み合わせていたりして、どこか品があるんですよね。この初期の住宅をこのクオリティで撮影したものも、ほかに例がないことも付け加えておきます。
98年版の方には、巻末に建築家マッティ・サナクセンアホによる長文の文章もあって、アールトエピソード満載でとても楽しいのですが、21年版の巻頭のシルッカリーサによる解説文もまた素晴らしいです。
アールトの住宅は、プランを見ていると本当にゾクゾクします。全く理解できません。それが空間になるとこうなるのかという、一つの抽象絵画を見ているかのようです。
マイレア邸にはもう10回くらい足を運んでいますが、未だによくわかりません。これがアールトミステリーなんですよね。こちらも何度でも読み返したくなります。
21. 02 / 28
「中目黒の家」へ
author
sekimoto
category
> 建築・デザイン
Warning: Undefined array key 1 in /home/riotadesign/riotadesign.com/public_html/wp-content/themes/rd/blog/cat_sekimoto.html on line 48

石井秀樹は同期の建築家である。リスペクトもしている。彼は私に憎まれ口を叩く数少ない友人だ。だから私も彼には遠慮はしない。
彼の「中目黒の家」を見せてもらった。控えめに言って素晴らしかった。期待は裏切られなかった。
どこがどうという話はいちいち書かない。彼の思考は極めて建築的であり、そこにはストーリーがある。しかしそのディテールは狂気に近い。峠のヘアピンカーブを、彼なら時速100キロで突っ込んでゆくことだろう。
「中目黒の家」は豪邸である。費用のかけ方も尋常ではない。人はそれをして妬むだろうか?自分にもそれだけの予算があれば素晴らしいものができると。しかしそれは違う。F1ドライバーはF1マシンに乗っているから早いのではない。F1ドライバーだから早いのである。
おそらく私にはこの条件を乗りこなすことはできないだろう。今回ばかりは彼のドライビングテクニックに舌を巻くほかない。
建築は個別のものであるけれど、建築家自身を、その生き方を如実に表す。控えめに言って、建築とは覚悟であり勇気である。彼の建築にいつも思うことだ。
遠慮はしないが、少し褒めすぎた。
今日は案内ありがとう!




