最近面白い本を読みました。小説ではありません。ノンフィクションですが、ドキュメントみたいなものとも違います。日記です。それもノルウェーの大工さんの。

『あるノルウェーの大工の日記』

オーレ・トシュテンセン著
http://amzn.asia/dESwFxE


ノルウェーの大工さんの日記と聞いたら、みなさんはどんなことが書かれていると想像しますか?私は、きっとあごひげ生やした屈強なバイキングみたいなオヤジさんが、強い酒あおりながらフォッフォッフォって。あ、それはサンタクロースか。でもそんなサンタさんみたいな大工さんが、ログハウス建ててご満悦みたいな、そんな日記かな~と勝手ながら想像していました。

それが、そんな先入観を全力でひっくり返す本だということは先にお伝えしておきます。私はまずはそこにカウンターパンチを喰らって、どんどん引き込まれてしまいました。

つまりこれ、日本の大工さん、いや優秀な現場監督の業務日誌だと思って読むと実に興味深いのです。私は去年行ったノルウェーのログハウスが強烈だったので、ついつい「ノルウェー=ちょっと粗野でダイナミック」みたいなイメージを持ってしまうのですが、どうしてどうして、この大工さん相当繊細で優秀な方のようです。

仕事を受注するための精密な積算や他社との駆け引き。建て主にいかに自分をアピールし信頼を勝ち取るかという努力や、工事をスムーズに遂行するための段取り。そして現場に姿を現さない”アカデミック”な建築家との付き合い方やボヤキなど、これそのまま日本の現場に置き換えてもそっくり成立しちゃうってところが最高に面白いんです。

遠く離れたノルウェーの現場事情や大工さんの考えていることが、日本と何ら変わることがないという不思議。ものづくりって万国共通なんだなあとしみじみ思ってしまいました。


この本のもう一つの魅力は、本文に出てくるこの大工さんによるしみじみと”深イイ”言葉の数々です。以下に、私の心にフックした言葉の数々を紹介したいと思います。

「この職業において、良質な仕事と悪質な仕事の差は、わずか1ミリしかない」
「物を不正確に造るより、正確に造る方が簡単だ」
「経験が教える最も役に立つことは、自分には何ができないか、を知ることである」
「腕の良い職人は、常に強い自信と不安とを同時に抱えている」
「測定、計算、それに精度というものは、メタファーとして人生にも当てはめられるかもしれない。必要以上に精度を追い求めるのはどうかと思うが、適当にやっつけた仕事が歪んでいるのはやはり問題だろう」

そうそう、そうだよね、と遠く離れたノルウェーの大工のつぶやきに一つ一つ相づちを打ちながら、自分の進行中の現場のことなどが一方でぐるぐると頭の中でまわるのでした。日本の住宅設計や施工に関わる人にも是非読んでもらいたい一冊です。

17. 11 / 05

恩師との再会

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sekimoto

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> 生活
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小学校の同窓会があり、恩師の先生と実に33年ぶりの再会をした。

小学校6年生の担任は茂木先生という先生で、小学校から大学までを通して、恩師を一人挙げろと言われたら、この茂木先生の名前が真っ先に出てくるほど、私にとっては印象深く、尊敬していた先生だった。

この先生にはたくさん褒めてもらった記憶がある。とにかく褒めるのが上手い先生だった。取るに足らないことでも、クラスみんなの前で褒めてくれたし、それは私だけではなくみんなに対してもそうだったと思う。

一方で怒るときも怖かった。この先生にお尻を叩かれたことのない生徒はいないと思う。でも手を挙げるのは必ずお尻だけ。今ではそれでも体罰と言われてしまうのだろうか。当時は先生に怒られると、自分たちは本当に悪いことをしたのだと思ったし、だから叩かれても当然だとも思っていた。

一方でクラスでいじめ問題が起こった時には、涙をぽろぽろ流しながら生徒に訴えた。それを見て僕らも、心底悪いことをしてしまったのだと悟った。情熱的で、愛情に溢れた先生だった。

小学校を卒業し、年賀状のやりとりも途絶えたあとも、ことあるごとに先生のことを思い出した。今頃どうしているのだろう?自分の近況を報告したい気持ちもあった。でも卒業して30年も経っていて自分のことなど覚えているはずがないし、連絡をする勇気もなかった。そもそも、今どこに住んでいるかもわからないのだ。

今回の同窓会では、私はクラス幹事を引き受けたことによって、結果的に幹事として先生に連絡を取らなくてはならないことになった。それは私にとっては千載一遇のチャンスになった。

卒業アルバムに残されていたご実家の電話番号だけを頼りに、勇気を振り絞って電話をかけた。誰かに電話をするのに、こんなに緊張したのも久しぶりのことだった。そしていくつかのやりとりの末、ようやく先生に辿り着くことが出来た。


再会も全くお変わりがなかった。当時20代だった先生は小学生から見たら立派な大人だったし、その印象は当時そのままに、一方の私は今その歳をはるかに越えてしまっていることに驚く。

先生との会話はわずかではあったけれど、昔話にも花が咲いた。みんなも先生との再会が嬉しかったようだ。私のことも覚えていて下さった。そうか、自分は先生にずっと褒めてもらいたかったのかもしれないとその時思った。

生徒は先生に褒められた記憶だけは、いつまでも決して忘れないものだ。苦境に陥ったとき、それがその人にとって最大の励みになる。今では自分も教える立場に置かれながらも、自分の未熟さを省みるばかりだ。

先生に会えて、本当に良かった。



毎年東京ビックサイトにて、JAPAN HOME&BUILDING SHOW という建材の見本市のようなイベントがあるのですが、その中の「建築知識・実務セミナー」にて今年も登壇させて頂くことになりました。

JHBS 建築知識・実務セミナー
【金属防水が可能にする 持続可能な木造の美しい外廻り】
11月15日(水) 15:30~16:30
http://www.jma.or.jp/homeshow/seminar/architecture.html


昨年は「板金納まり」についてセミナーを担当させて頂きましたが、今年のテーマは「金属防水」になります。相変わらず地味なお話しばかりで恐縮です…。

金属防水と聞いてもピンとこないかもしれませんが、木造住宅で陸屋根(ろくやね・フラットルーフ)を作る場合、防水工法をどうするかという問題が起こります。

一般的には木造の場合FRP防水を使うことが多いと思いますが、FRP防水を下地を動かないように固める”剛の防水”とすると、下地の挙動を逃がす”柔の防水”が金属防水です(木造住宅で使える金属防水には、栄住産業さんの「スカイプロムナード防水」などがあります)。



陸屋根を防水に不安なく作れるようになると、デザインの幅が大きく広がります。本セミナーでは、過去の陸屋根住宅の実例を通して、どういった点に注意しながらデザインと防水とを両立させているかなどについて解説したいと思います。


JHBS 建築知識・実務セミナー
会場:東京ビックサイト・東1ホール内
11月15日(水)15:30~16:30

【金属防水が可能にする 持続可能な木造の美しい外廻り】
講師:関本 竜太(リオタデザイン)

☆お申込はこちらより
http://www.jma.or.jp/homeshow/seminar/architecture.html

ご来場お待ちしております!



吉報を頂きました。
タニタハウジングウェアさん主催の「屋根のある建築作品コンテスト」の住宅部門におきまして、「緩斜面の家」が優秀賞を受賞致しました。



審査結果と審査評はこちらより
http://www.tanita-hw.co.jp/about/tanitacontest2017/result1.html

応募総数はなんと321点ということで、その中の3点に選んで頂けたということは大変光栄なことです。上記リンクでは、審査委員の伊礼さんからも光栄なお言葉を頂きました。どうもありがとうございました。


うちの住宅は、正直コンテストやメディア向けではないと思っています。コンテストに入賞する住宅やメディアに載りやすい住宅というのは、コンセプトが分かりやすく徹底されているものが選ばれやすい傾向があると思います。

でも一方でコンセプトを分かりやすく徹底してゆくと、その”正論”からこぼれ落ちてゆく、割り切れない建て主の思いや矛盾も出てきます。人間は理屈で割り切れるほどわかりやすい生き物ではありません。私の設計はそういうものを細かく拾いあげてゆく設計なのだとよく思います。だから焦点はぼやけるし、わかりにくくなる。

でもいろんな諸条件や建て主の思いと世間の評価とが、ロイヤルストレートフラッシュのようにピタリと嵌まる瞬間もあるのです。こんなことは長く仕事をしていてもそうは多くないし、それを求めてもいけないと思っていますが、この「緩斜面の家」はそんな私のキャリアの中でも、特にいろんなことが嵌まった私の代表作であることは間違いありません。

緩斜面の家
https://www.riotadesign.com/works/13_kanshamen/#wttl

今回のそもそものきっかけとなっている建て主Mさんとの出会いに感謝すると共に、選んでくださった審査員の伊礼さん、堀さん、そしてタニタハウジングウェアの関係者の皆さまにも心より感謝致します。

17. 10 / 28

ムーラメの教会

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sekimoto

category
> 北欧
> 生活



突然額装された写真が届いた。送り主は古い友人である根津修平からだった。私の本の出版祝いにとのこと。彼らしい熱い長文のメッセージも添えられていた。

湖の彼方の森には塔のようなものが見える。普通であればこれが日本なのか、外国なのかすらも判別できる人はいないかもしれない。けれども私にはすぐにわかった。

場所はフィンランド中部、塔はアルヴァ・アールト設計によるムーラメの教会(1929)の先端だ。

しかもこれはどこから撮影されているかというと、ムーラッツァロにある「夏の家」と呼ばれるアールトの別荘の湖畔から。どうしてそれがわかるのかというと、それを教えたのは私だからだ。



修平と出会ったのは17年前、留学していたヘルシンキでだった。彼はフリーの写真家で、お互い根無し草のような立場だったこともあり、すぐに意気投合して無二の親友となった。

お互いあり余る時間をもて余し、当時は二人でフィンランドの建築巡りをした。行き先は私が決めて、彼が写真を撮る。それに私がテキストを載せて、私のホームページに定期的にアップしていた。
https://www.riotadesign.com/FA/Fin_Arch.htm

こういうお金にもならないようなことばかりやっていたけれど、それが今にすべてつながっているような気もする。

私が創刊号の現地コーディネーターを務め、彼にも当時アシスタントとして協力してもらった「Xknowredge HOME」という雑誌はその後廃刊になってしまったけれど、あれから17年後、同じ出版社から自らの本を出すことになるとは誰が想像できただろう。

彼からの写真を見ていたらいろんなことを思い出してしまった。私の原点ともいえる写真。初心を忘れないよう、事務所の目立つところに飾っておきたいと思う。