先日松山で講演をした話を書きました。いつもなら設計事例を写しながらその説明をするところですが、今回写真スライドは一枚も使わないという自分でも相当チャレンジングな冒険をした講演でした。(おかげで嫌な汗がたくさん流れました…)

ただ一方で、普段自分はどういう考えで仕事をしているのだろうと、我々の仕事を見つめ直す機会にもなりました。話しながら、我ながらすごく普通の話をしているなとつくづく思いました。聞いていた方はさぞや退屈だったのではないでしょうか。

ですが、これこそが私の仕事観の根幹であることに変わりがありません。講演では他にもその先にある各論についてもお話ししましたが、自分の胸に刻むためにも冒頭部分についてここに残しておきたいと思います。


■ 我々は何のために仕事をするのでしょう?

「あなたは何のために仕事をしているのですか?」
こう問われたら、あなたはどう答えるでしょうか?

・お金のため
(生活のため/家族のため/趣味や交際のため/遊ぶため)
・自己実現のため
(夢を叶えたい/なりたい自分になりたい)

それはどれも正しいと思います。私にもそのような気持ちがあることは否定しません。でも一番大きな動機ではありません。では何のために?と問われたらこう答えます。

「誰かの役に立つため」

当たり前すぎる答えかもしれませんが、ただ普通にそう思います。

逆に言うと「仕事をする」ということは「誰かの役に立つことをする」ということだと思います。だから、そう思えない仕事をしていると人の心はすさんでゆきます。自分は何のために生きているのか、その目的を見失ってしまうのです。

すぐに仕事を辞めてしまう人は不幸な人だと思います。自分が誰かの役に立っていると思えないのです。もしかしたら、むしろ誰かに迷惑をかけている、もしくは不幸にしているとすら思っているかもしれません。

あるいはこういうケースもあるかもしれません。人は仕事に自己実現を求めます。なりたい自分になりたい。かつて私もそうでした。だから、なりたい自分になれていないことが焦りとなり、環境を変えることで実現できるのではないかと考えるのです。

当時の自分に欠けていたのは、自己実現の先に何があるかという考えでした。自己実現を果たすことで結果的に人の役に立つことができなければ、やはりその人の人生は迷路に入り込むことになると思います。

たとえば独立することが夢だったとしても、独立した先の目的意識が、社会や誰かの役に立つという目的につながっていなければ、独立した瞬間にその人は路頭に迷ってしまいます。ただ、お金のためだけに仕事をすることになるのです。

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■ 我々はどこを向いて仕事をしているのでしょう?

では、我々はどこを向いて仕事をしているのでしょうか?

仕事をする目的が「誰かの役に立つため」だとしたら、答えは簡単です。我々は依頼主の方を向いて仕事をしなくてはなりません。そんなこと当たり前じゃないかと思いますか?しかし、意外とこれは常に胸に刻んでいないと忘れてしまいがちなことなのです。

会社に勤めておられればなおさらな事です。個人ならできることも、企業になると企業論理や利益が優先される場面も多々出てきます。また、上司がいれば上司の意見や指示に従わなくてはならない場面も出てくるでしょう。それは勤め人であれば仕方がないことだと思います。

ただここで胸に手を当ててみてください。

実は上司の指示に従っているのではなく、上司の顔を見ながら仕事をしてしまっていることはないでしょうか?人間は誰しも承認欲求がありますから、褒められると嬉しいものです。自分に直接評価を下す上司に気に入られたいと思うのは当然のことです。

ただ先ほどの「誰かの役に立つ」という意味は、「上司の役に立つ」という意味ではないのです。

それは私の事務所でも日常茶飯事で起こることです。スタッフ達は皆優秀ですが、往々にして私に認めてもらいたいと思うがあまり、私の方を見て仕事をしてしまいます。

私がそう言ったわけではないのに、時に私が過去に承認した判断基準をもとに物事を決めようとしてしまいます。そしてそれを我が事務所のルールであるかのように錯覚してしまうのです。我々の依頼主は毎回、趣味や性格も異なるのにもかかわらずです。

これを私は「思考停止」と呼んでいます。
私ではなく、我々はどこを向いて仕事をしているのかを考えなくてはならないのです。常にゼロベースで、です。私のさらにその先にいる、依頼主(あるいは利用者)に対する思いやりや想像力、言い換えると「当事者意識」こそが設計力を育むのだと思います。

ほかにも、建築家であればメディアや社会的評価の方を向いて仕事をしてしまうこともあります。同じ業界人から「すごい」と言われたい、「いいね」されたい。これもまた承認欲求です。また現場に立たされれば、目先のトラブルの解決や職人さんの手間、工期やコストの問題などが優先されてしまうこともあるでしょう。

そんなときは必ずこれを思い出すようにしています。思い出すだけでなく、声に出して関係者とそれを共有します。

「我々はどこを向いて仕事をしているのか」

どんなトラブルも、これに優先されるものはありません。美しい家を作るという行為も、結果的に依頼主に喜んで頂くためであって、メディアや誌面を賑わせるためではありません。逆に言えば、これさえ踏み外さなければ、その人は間違いなく依頼主に信頼され、感謝される存在になれると思います。

依頼主に感謝されると、「自分は何のために仕事をしているのか」という冒頭の問いに対する明確な答えが自分に返ってきます。自分は人の役に立っているのだと実感することができます。

人にとって、自分が誰かから求められる存在であるということほど嬉しいものはありません。それこそが仕事の本質であると私は思います。

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昨晩は愛媛の松山にて、コラボハウスというハウスメーカーさんにて講演をさせて頂きました。

コラボハウスさんのことは、昨年の北欧旅行に社員さん(林さん、森さん、中さん)が参加されていたことから知り、その後のご縁もあって今回全社員さんが集まる場でお話をさせて頂く機会を得ました。

社員さんの定期集会を兼ねていたようですが、大きなホールに満席の100名ほどとなり、普段ここまで多くの方の前でお話することは少ないので、いつになく緊張しました…。

コラボハウスさんというのは愛媛を中心に展開されているハウスメーカーさんなのですが、お話を聞けば聞くほどユニークな会社で、代表の一人である清家さんもまた…こんな個性的な経営者の方を私は知りません笑。

設計力も高いコラボさんを前にどんな話をしようかと悩みましたが、いつもは具体的な設計事例の話などをするのですが、今回は私が仕事をする上で心がけていることや、建て主さんとの接し方など、普段あまりお話しないようなことを中心にお話しさせて頂くことにしました。


さすがだなぁと思ったのは、これは意識の高い会社の特徴でもあるのですが、この規模の会場になると講演後の質問も少なくなるのですが、次々に手が挙がり、それも的を得た質問ばかりで唸らされました。

その後の打上げの席でも私の周りに集まって下さり、次々に様々な質問を矢継ぎ早にして下さったのもとても嬉しかったことでした。中には、講演を聞きながら、質問をびっしりノートに書き出していた人も。

経験上、こういう時にも気後れして講師のそばに寄り付かなかったり、せっかくの機会なのに何も質問をしない人もいて歯がゆくなることもあります。

日頃スタッフや学生にも、人を見たらとにかく質問をしなさいと諭している身としては「さすが」と思う場面でした。これは各社員さんが、皆当事者意識と問題意識を持っている証だと思います。

また普段はこのような講演は聞かないとおっしゃる営業畑の方にも響いたようで、お店を移した二次会の席でも私の話から受けたインスピレーションについて熱心に聞かせて下さるなど、こちらもとても感激しました。


今回は慣れない話をしたこともあり、正直自分の伝えたいことの半分も伝えられなかったように感じていたのですが、少なからずの方に届いていたようでしたら救いになります。

今回はこのような機会をありがとうございました。コラボハウスさんの底力と、最高のおもてなし力を感じた1日でした!


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昨日は、今週末8日(土)に内覧会を予定しております「縁側の家」の施主検査がありました。

ご主人は、ここ一週間この日が楽しみすぎてほとんど仕事に手が付かなかったとのこと笑。養生が外れて、クリーニングの終わった姿を初めてご覧になって、ご家族の皆さまも感無量のようでした。この瞬間に立ち会えることが、我々の最高の喜びでもあります。

施工はお馴染みの川越の堀尾建設さんにお願いしましたが、いつも通り”ほぼ完璧”な段取りとクオリティで仕上げてくださいました。目を凝らしても、ほとんどダメがないというのはさすがだと思います。

内覧をご希望の方はご連絡下さい。駐車場もあります!

6月8日(土)12:00~17:00ごろまで

詳細はこちら↓
https://www.riotadesign.com/blog/190526.html



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昨年11~12月にかけて竣工した2件の住宅につき、以下に写真をアップしました。

ひとつは「KOTI」で、葛飾区の小さな20坪に建つ家です。もうひとつは「かざみちの家」で、埼玉県東松山市に建つこちらはややゆったり目の48坪の敷地に建つ家になります。

ともに造園は、はじめてのお付き合いでしたが小林賢二さんにお願いしました。とても軽やかで、どちらの家も新緑がとてもきれいでした。以下より写真をご覧下さい!


KOTI
https://www.riotadesign.com/works/18_koti/#wttl




かざみちの家
https://www.riotadesign.com/works/18_kazamichi/#wttl



19. 05 / 11

街にとけあう

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今日は昨年竣工したKOTI(I邸)の竣工撮影がありました。
葉の落ちた昨年暮れの姿とは打って変わって、新緑が眩しく輝いていました。また、ちょうど竣工と時期を同じくして生まれた赤ちゃんも、家と同じだけ歳を取って早5ヶ月とのこと。すくすくと育っていました。

KOTIは路地に面して庭を開き、ついでにベンチまで設けた住宅でした。敷地面積はわずか20坪ほどしかないのに、太っ腹にも自分の大切な庭を「どうぞご自由にお使いください」とばかりに街に差し出しているのです。


Iさんはこんな話をしてくれました。

3月頃から庭木に新芽がつき、花が咲き始めると街行く人からも「きれいなお花ね」と声をかけられるようになったそうです。お隣の方には「いつもお庭を楽しませてもらってますよ」と、交流のきっかけにもなったとのこと。

近所の子供たちは敷地境界に植えたヘビイチゴを興味深く覗き込み、路地からは「素敵な家だね」と声が聞こえてくることも。

それを聞いて、設計者として本当に満たされた気持ちになりました。涙が出そうなくらい。まさにそれこそが、我々がこの家に込めた想いそのものであり、住まいをひらくとはどういうことか、Iさんに当時一所懸命ご説明したことだったからです。

こうしてこの家は街の一角に根を下ろし、新緑の芽吹いたこのアオダモのように、その存在感を街に示しているようにも思えました。


家の内部も我々がかけたものと同じくらい、細部にまで愛情を込めて暮らしてくださっている様子が伝わってきました。まさにタイトルに込めたKOTI(フィンランド語で”おうち”)そのもの。丁寧に暮らして下さり、どうもありがとうございます。

この写真は私の撮影によるものですが、新澤一平さんによる渾身の写真も仕上がりをどうかお楽しみに!