
この週末は絶好の日和に恵まれ、行楽に出かけた方も多かったのではないでしょうか。私は家族と小田原~鎌倉方面に小旅行に行ってきました。
目的の一つは、昨年のオープン以来ずっと行きたかった「江之浦測候所」へ行くこと。場所は小田原にあります。
「江之浦測候所」とは、美術家の杉本博司氏が私財を投じて壮大なスケールで作り上げた美術施設であり、「建築」であり「彫刻」でもあり、はたまた「庭」であり「インスタレーション」のようでもありと、過去に例のない施設なだけに説明が難しいのですが、ひとつだけ言えるのは「測候所」の名が示すとおり、それらはすべて”自然観測”のために作られているということです。
広大な敷地に設定されたいくつもの軸線は、夏至や冬至、春分秋分の日の日の出線を示しており、大きな地球時間に合わせて、この建築群は様々な表情を見せることになります。まるで太古の時代のストーンヘンジといった遺跡群を彷彿とさせます。
私の中では、これまでで見た美術作品の中でも最も素晴らしいものでした。行った時期も良く、菜の花の香る敷地はただ佇んでいるだけで幸せな気分になりました。
完全予約制の施設です。小さいお子さんは連れて行けませんが、大人の方はこの春のドライブに是非足を延ばしてみてください!
江之浦測候所
http://www.odawara-af.com/ja/enoura/






さて問題です。これは何でしょう?
私が今回アールト財団で買った数少ないお土産の一つです。
裏はこんな感じ。

正解は、アールト設計によるヘルシンキ市電力会社ビル(Sahkotalo|1965-1974/aとoはウムラウト)で実際に使われていたタイルです。
このカマボコ型タイルはアールトのトレードマークとも言えるもので、実際にアールトが設計したあらゆる建物に使われています。またこの濃紺色はアールトが特に好んだ色の一つです。(アールトブルーと勝手に命名)
たとえばこれはアールト大学。


壁面に立体感のあるタイルが張られています。応用編としては、以下のように丸柱まわりに張るというのもアールトの特徴的なタイル使いのひとつです。

アールト財団のあるアールトスタジオにも実物サンプルがありました。
またその下の写真は、アテネウムでのアールト展の展示です。実物と図面説明があります。非常にユニークな施工法ですね。アールトの独創性が光ります。



このようにオリジナルのタイルにも様々な形があり、同様にレンガなども、文化の家などに使われているものは非常に特徴的な断面を持つもので、こうした飽くなき素材への探究心もまたアールトの魅力と言えます。

アールトは建築にも、新しい素材を次々と試すようなことはなく、むしろ昔から使われている定番の素材を、様々な形に変えて自分流にアレンジして使っていました。しかしそれは、定番素材でありながら、ほとんど”発明”に近い使い方でもありました。
でも不思議なことに、古くからある素材であっても、アールトが使うとその素材の持っていた意味が大きく変わり、みんな真似したくなるというのがアールトなんですよね。実際ヘルシンキはそんなアールト的な素材使いの建物で溢れています。
しかし、アールトの建物を改修したときの”廃材”で商売をするとは、財団もしたたかです。でもありがとうございます。こうして大喜びで買って帰る人もいるのですから!またひとつ私の宝物が増えました。

ちなみにこのハンドルも事務所にありますが、私の中では国宝級のものになります。

ヘルシンキ最終日はスオメンリンナへと渡りました。スオメンリンナは、18~20世紀にかけての軍事要塞で、ヘルシンキからフェリーで15分くらいの所にある孤島です。島全体が要塞化されており、スウェーデンからロシア統治時代を経て、最終的にフィンランド領となるまで幾多の戦争の舞台となってきました。
今ではユネスコ世界遺産にも指定されており、人気の観光スポットになっています。今回は息子を連れてきていることもあり、最後はこんな島に渡ってピクニック気分も良いかなと思ったのですが、この日はヘルシンキは快晴だったものの、なぜか島には濃い霧がかかっていました。


でもこの濃霧がかえって島の雰囲気を演出し、なんだか中世の町に迷い込んでしまったかのようです。随所に歴史の重みを感じます。
この島に来るのは私は二度目ですが、今回は扉のデザインが気になり、扉ばかりを撮ってしまいました。



再度ヘルシンキに戻ってきて、最後はわずかばかりの買い物タイム。
はじめて北欧にいらっしゃる方であれば、イッタラやマリメッコをハシゴするのでしょうが、我々が行くのはアンティークショップです。ヘルシンキのアンティーク(ビンテージ)巡りは本当に楽しいのです。



今回は残念ながら、あまり掘り出し物を見つけることはできませんでした。そして既に我々の体力も限界が近づいてきました。
今回もあっという間のフィンランド滞在でした。あと1日あれば!とは毎回最後に思うことですが、今回は私の仕事の都合や子供の予定、奥さんの予定なども調整しての、ここしかない!という5日間でもありました。
子供も大きくなり、家族もそれぞれに忙しくなってしまうと、家族揃って海外に行くなど、もうそうそうないような気がします。それだからこそ、無理に時間を作ってでも、また痛い出費を覚悟してでも、今回は家族と行くことにこだわりました。
さて次に行けるのはいつになるでしょうか。
さようならヘルシンキ!


マイレア邸へと足を延ばしました。ヘルシンキからかれこれ片道4時間。マイレア邸はアールトにとって最高傑作と言われる住宅です。竣工は1939年ですから、すでに築80年近くが経過しています。アールト41歳の作品です。
この住宅に足を運ぶのは、もう5〜6回目くらいになるかもしれません。今回来たのは約15年ぶりになります。以前よりも制限が厳しくなり、内部の撮影ができなくなってしまいましたので、ここに載せるのも外観のみとなりますが、本当に素晴らしく何度訪れてもその感動が薄れることはありません。

今回内部ツアーに参加し、あらためて説明を聞きながらディテールを仔細に眺めると、本当に途方もないことをやっています。とても80年前の住宅とは思えません。
この住宅への思いも語りたいところですが、旅先のため時間がありません。以下に載せる写真から察してください。間違いなく、ここは住宅設計者にとっては聖地であり、死ぬまでに必ず訪れて欲しい場所です。今回も本当に来て良かったと思います。






ヘルシンキの旅が続きます。
今回はある意味私の原点を辿る旅になっています。この日は私がフィンランドに行くきっかけともなったミュールマキ教会(設計:ユハ・レイヴィスカ)からはじまり、かつて何度となく通ったアールトの建築を見て歩きました。

レイヴィスカの空間には、やはり今回も言葉になりませんでした。私の建築への思いがすべてここに詰まっています。もうここに来るのは何度目でしょうか。
同じ建築に何度も足を運ぶというのは、名作の文学を何度も読み返すのと同じ効果があるように思います。初心に還るとはこういうことなんですね。
来て本当に良かった。そして当時これを見てフィンランドに渡ったのは間違いではなかったと、あらためて確信しました。



そしてアールト自邸。
ここも約15年ぶりの来訪です。あれから私は独立し、いくつもの住宅を作ってきました。そうした経験を経てこの住宅を見ると多くの発見があり、アールトの奥深さを感じ、また共感もありました。
この住宅を経て、アールトはモダニストからヒューマニストへと変貌してゆきます。このヘルシンキの自邸は、この数年後のマイレア邸へとつながる極めて重要な住宅です。
そしてこの頃のアールトに非常に重要な役割を果たしたのは、日本文化であると私は思っています。実際にそうしたアイコンがこの住宅にもいくつも見ることができました。この話はまたの機会に。


アールトスタジオ。アールトは先の自邸兼スタジオを建てた約20年後に、自宅の近くに独立した事務所を建てます。
この建物をどう評価して良いのか、昔はわかりませんでした。でもここは今回私の中で大きく評価が変わりました。
例えていうと、この建物はアールトの得意とする油絵の抽象画のようです。ひと目ではその正体を掴ませない。アールトって本当に何者なんだろう。今でも理解しきれていませんが、少しずつその理解が深まっていることはわかります。
また数年後に来てみたい。アールトは建築家の年齢と共に理解が深まってゆく建築なんですね。
この日はその後エスポー在住の遠藤悦郎さんとも合流。いろんなレア&コアなアールトスポットにも連れて行ってもらいました。悦郎さん、いつもながらにありがとうございます!

そしてこの日の最後には、ヘルシンキのアテネウム美術館で開催中のアルヴァー・アールト展へと足を延ばしました。
実は今回ヘルシンキ旅行を決めたのは、どうしてもこの展覧会が見たかったからなんです。
本当に素晴らしい展覧会でした。アールト財団、アルテック、そしてアテネウム美術館が本気を出すとこんなものが見られるのかと、心底感動しました。滞在中もう一度行ってもいいくらいです。

これまでアールトの建築展とか、家具だけというのは随分ありました。正直私はもうお腹いっぱいで、もういいやと思ってしまいます。
でも今回は違います。建築はアールトの一部に過ぎないのだということ。でもその一部である建築の見せ方もすごい。
ここにあるのは全て本物なんです。アールトの原図や直筆スケッチはもちろん、世の中に出回っている全てのコピーのオリジナルがここにあります。これは本当にすごいことなんです。
そしてあんな映像やこんな仕掛けまで。私は終始興奮が止まらず、ずっと鳥肌が立っていました。本当に来て良かったです。

さて明日はクライマックス。
聖地巡礼の旅は続きます。
