
新国立競技場の候補案2案が昨日公表され、昨晩からのニュースや今朝の新聞などでも大きく取り上げられている。
はっきりいって、建築のコンペが新聞の1面を飾ったり、ニュースの冒頭で報じられるなどということは、(外国では当たり前だけれど)この国では異例中の異例で、私の記憶の中でも初めてのことのように思う。
先のザハの件が大きく報じられた際は、どちらかというとネガティブな報じられ方であり、批判のほうが大きかった。ところが今回はこれからどちらかに決めようという段階であり、どちらになるかわからないという意味でも、また近未来のビジョンに多くの人達が思いを寄せるという意味でも、結果的にとても良い流れになっているような気がする。
思えば先のエンブレム問題もそうであったけれど、どうも建築やデザインというのは専門家の領域になりすぎてしまって、一般の人達が口を挟んではいけないような空気がある。それは政治も同じで、一般の人がどんなに声を上げても、結局密室で全てが決まってしまうという点に無力感を感じている人も多いのではないだろうか。
もっとも今回の競技場コンペとて、これから一般投票で決めるわけではなく、専門家で組織する委員会にかけられて決められるわけではあるけれど、世論の声を無視できないことは先の一連の流れでも明らかであるし、今回もけして一部の人達の思惑だけでは決められないだろうと思う。
そういうプレッシャーを今回の応募案公表が担っているのだとすれば、とても喜ばしいことだ。そして今後も国家が関わるような大きなコンペの場合は、このように事前公表をして世論の洗礼を一度浴びせるのが良いと思う。
◇
ところでこの公表案について、私はぱっとみて写真上のA案が伊東豊雄さんで、下のB案が隈研吾さんだろうと予想していた。
伊東さんは前回のコンペにも出していて、その時も自然や環境をテーマにしていたと記憶している。緑豊かな印象のA案はいかにもそれを体現しているように思えたし、一方のB案は柱をテーマに持ってきたシンボリックなデザイン。
隈さんは近年の傾向として「伝統」をテーマにすることが多いし、過去の代表作にも”柱”をシンボリックに使ったものがあることから、これは隈さんの案ではないかと思った。ところが朝日新聞の報道によると、私の予想は逆だったようで、A案が隈さんの案だとのこと。これにはびっくりだった。
これは個人的かつ無責任な予測だけれど、競技場はA案(隈研吾案)が有力なのではないかと思う。コンペ応募時の報道では、今回の建設に一番力を持っていると言われている大成建設の動向が業界で注目されていた。そして大成建設は隈さんと組むことを発表した。この時点で、政治的には圧倒的に隈さんが有利とされていた。
けれど、伊東さんのデザインはそれをも凌駕するポテンシャルがある。これはまだどうなるかわからない。伊東さんのやわらかく斬新なデザインの魅力は、より広く世論を味方にできるだろうと思っていた。
しかしフタを開けてみると、街角調査でもA案の方が圧倒的に人気があるらしい。そうなるとB案の逆転は難しくなる…。
そして正直私もA案が良いと思った。隈さんの、世論を味方につける驚異的な設計力にはただただ驚嘆するしかない。個人的には、伊東さんにもっとがんばってもらいたかったのだけれど。
でも結果はまだわからない。現時点でこういう無責任な予想が立てられるというのも今回の審査方式のおかげとも言える。
中には、今さらながらに「ザハの方が良かった」なんて言っている人もいるけれど、斜に構えるのはそのくらいにして、このコンペの行方を国民の一人として見守り、そして当選案の実現を、今度は建築人の一人として応援したいと思う。

150918・朝日新聞
1.隈研吾x梓設計x大成建設
2.伊東豊雄x日本設計x竹中・清水・大林JV
3.ザハ・ハディドx日建設計x?
仕切り直しとなった新国立競技場の公募に、応募者がほぼ出揃いましたね。
記事の見出しに「新国立公募に大成」とあります。
なんで大成がそんなにフューチャーされるかというと、旧計画でも関わっていたゼネコンのうち、一番作業員や資材などの動員力があるからなんですね。
今回の公募は金額もさることながら、人材や資材の調達力が問われています。つまり大成の動向を、業界は固唾をのんで見守っていたわけです。その山が動いた。
そして梓は、旧計画の設計JVの中では超大手の日建設計・日本設計の影に隠れていましたが、実はすごい実力を持っています。旧設計JVの中では、フィクサー的な動きをしていたとも言われています。
そこにきて隈研吾さんなわけです。
持っていくな-、と正直思いました。隈さんが持っていったというより、大成x梓が獲りに行った、もっと言うと「置きに行った」といったところでしょうか。しかし悔しいかなこの布陣、この中では間違いなく大本命でしょうね。
そして伊東豊雄さん。
今国内では名実共に最強の建築家。なによりイメージがいいです。そしてゼネコンチームに業界の雄、竹中を擁しています。強い、これは強いです。先ほどの裏事情を知らずに居並ぶ名前だけを見たら、大本命はこちらと目されてもおかしくありません。
しかし、まだ何が起こるかわかりませんよ?
そしてザハです。一度は王位につきながらも失脚し、もう立ち上がれないだろうと思わせておきながら、またやってきました。まさに不死鳥。正確に言うと日建設計からの熱いオファーに応えた形のようです。ザハ本人も言っているように、この2年間の蓄積は伊達ではありません。
旧計画では、日本側の盛りだくさんすぎる要望に図体ばかり大きくなってしまいましたが、本来のザハの実力はこんなもんじゃありません。今回大きなプログラムの見直しがありましたので、きっと体脂肪をロッキー並みに絞って、再び鮮烈な案を示してくれることでしょう。
しかし痛いのは、大手ゼネコンに一斉にそっぽを向かれてしまったことです。ゼネコンはシビアです。負けた将には用はないとでも言わんばかり。
私はザハ・日建は竹中と組むだろうと予想していました。ところが竹中は伊東さん側に付いた。義理・打算・裏切り・・。さながらリアル三国志を見ているかのようです。
一体誰が勝つのか、最後まで目が離せません。要するにこれなんですね、旧計画になかったのは。布陣を公開したわけですから、ここからの審査も可能なかぎりガラス張りでやってほしいものです。
いっそ東京ドームでやってくれたら、観戦に行くのになあ!
※追記
その後ザハ・チームが応募を断念したとの報道がありました。結局組む相手(ゼネコン)が見つからなかったということですね。残念なニュースでした。
15. 09 / 01
[西荻の家]写真をアップしました
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sekimoto
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今年2月に竣工した西荻の家(T邸)の写真を以下にアップしました。
是非ご覧下さい。今回の撮影は繁田諭さんです。
[西荻の家]
https://www.riotadesign.com/works/15_nishiogi/#wttl
当初撮影は6月くらいに考えていたのですが、それから梅雨にたたられ、延期を繰り返しているうちに8月になってしまいました。ですが季節は夏!クライアントが道路際に植えられた向日葵が、あっという間にルーバーの高さを超えてしまうというハプニング。
ルーバーは道路側からほとんど見えなくなってしまいましたが、逆にこの状況はいかにも夏らしくてイイですね。私はすっかり気に入ってしまいました。(一瞬、タイトルを「向日葵の家」に変えようかと思ったほど)
惜しむらくは、この撮影の2日後に向日葵も満開になったそうです。でも・・そうしたら完全に建物は向日葵に喰われてしまったかもしれません笑
この家の魅力は、なんといってもふんだんに使った自然素材の競演でしょうか。壁には全面的に漆喰を使い、天井にもレッドシダーが惜しげもなく使われています。
すべてはクライアントとの協働作業によるもので、その作業はラジオのチューナーを合わせるが如く、いかにクリアな音質でその空間性を響かせるかという点に最も労力を注いだ住宅でした。
繁田さんも、素晴らしい写真をありがとうございました!



15. 08 / 30
ホテルオークラ
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sekimoto
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> 建築・デザイン
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今日は外出中に、今月いっぱいで閉館し解体されるホテルオークラ本館のことを急に思い出し、急遽立ち寄ることにした。なんだか行かないと後悔する気がしたからだ。
この夏はSNS等で、このホテルオークラの写真をこれでもかというくらいに見た。自分が行ってきたことを皆アリバイのように載せるからだ。この日もオークラはすごいことになっていた。そして皆片手にはスマホ。きっとみんなリアルタイムにSNSに投稿しているに違いない。
そして私もやっぱり写真など載せてみる。
へそ曲がりの私としては少し悔しいが、アリバイのためである。
皆口々に惜しむ声。海外からも保存を求める声。わかる。本当に素晴らしい空間だし、今日はわざわざ来て本当に良かった。今これを壊したら、もう二度とこの空間は作れない。その通りだろうな。なんとかして残して欲しい。それも人情だろう。
でも私はこう思った。
この本館の担ってきた役割は終わったのだと。
ホテル全体で眺めてみたときに、やはり老朽化は否めない。52年間もこの空間を改変せずに、このまま使い続けてきたホテルの営業努力をむしろ称えるべきであろう。
もちろんリノベーションによって蘇るものはある。しかし如何せん古い。これはもう歴然とした事実として受け入れなくてはならないだろう。埃のかぶった店子を見るにつけ、また現代のホテル事情から大きく取り残された感のあるサービスの器としても、私の目には限界に映る。これじゃあ生き残れない。残念だけれど、ホテル側の決断は極めて妥当なものだろうと思う。
恥ずかしながら、私もホテルオークラに足を運んだのは今日が初めてだった。そしてスマホ片手に熱心に写真を撮っていた人達の中には、都内に泊まるときはいつもオークラです的な方もいただろうが、おそらく多くの方にとってはこの日がオークラ初体験であったに違いない。そしてその人達が、皆口々に別れを惜しむ。
なんだかそれを見ていたら可笑しくなってしまって、これまで一度も足を向けたことのないお爺ちゃんの入院先に、「そろそろ危ない」の声を聞いて、ゾロゾロと見知らぬ親族たちが集まるシーンを思い浮かべてしまった。
あの、どちら様でしたっけ?
えっと、従兄弟の叔父の奥さんの友達です、みたいな。(友達かよ)
私ですか?
えっと、その友達の、そのまた知り合いの知り合いです。くらいの関係かもしれない。
でもこうやって、別れを惜しむという事が大切なんだろうな、とこの日もしみじみ思った。みんながお爺ちゃんはこんなすごい人だったんだって、これまで不義理ばかりしてきたけど、最後はみんなでお爺ちゃんの話をして温かく見送ってあげよう、ていう気持ち。きっと、オークラ本館も大往生に違いない。
でもたぶん新しいオークラができたら言うだろうな。古いオークラの空間はね、って。一度しか行ってないけど。若いの前にして、偉そうに先代の偉業語るみたいな。
友達の、そのまた知り合いの知り合いのくせにね。
15. 08 / 13
伊礼事務所に
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sekimoto
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> 建築・デザイン
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お盆に入り、事務所もしばし夏休み。そんな休みに入る前、タニタハウジングウェアの谷田社長(写真左)と、建築家の伊礼智さん(写真右)の事務所にお邪魔してきました。
伊礼さんは、今や日本一人気のある住宅作家さんと言っても過言ではないかもしれません。和モダンの端正な作風と、美しいプロポーションを持つ機能的で柔らかい室内空間が印象的で、「ディテールの標準化」「普通の家」といった、少し前なら建築家が絶対言っちゃいけなかったキーワード(?)の"タブー"を初めて破った方かもしれません。
でもそれは私も住宅設計を志した時から、ずっと漠然と思っていたことだったので、伊礼さんの作風や言説にはとても共感する部分は大きかったです。そしてそれは時代の空気であったようにも思います。
一方で伊礼さんの方法論は、あまりに歯切れが良くわかりやすいだけに、良くも悪くも多くの亜流を作り出しても来ました。ある人は意識的に、ある人は無意識に。
そして私もその例外ではなく、今では試行錯誤の末に自分のものとなりましたが、そのディテールの幾つかは事務所の初期の礎を作るのに欠かせないものであったことは、隠さずここで告白しておこうと思います。
伊礼さんは私にとっては雲の上のような方ですが、タニタガルバコンテストのトークイベントでご一緒してから意気投合し、今回このような席を谷田社長の計らいで設けてもらいました。
あらためてじっくりお話をお伺いして、住宅に対する考えや仕事に対する考え方など、僭越ながらとても共通点が多かったですし、臨床医的な、あるいは町医者的な建築家のあり方に、私の背中もあらためて押していただけたような気もしています。
その後も事務所のある目白の街を転々と…。熱い話が夜遅くまで繰り広げられたのでした。伊礼さん、谷田さん、どうもありがとうございました!
