構造設計をいつもお願いしている構造家の山田憲明さんの著書(多田脩二さんとの共著)が昨年末に発売されました。山田さんよりわざわざお送り頂き、早速手にとって読んでいます。

構造の本と聞くと、学生時代構造力学の授業が大の苦手だった私などは一生開かないようなタイトルなのですが、この本は正直私のような意匠設計者にこそ役に立つような、非常にわかりやすい切り口の構造指南書になっています。いやむしろ構造ディテールというより、もはや建築デザインのディテール集と呼べるものかもしれません。

言うまでもなく木造は日本のお家芸でもあり、古い歴史と伝統があります。ただこれだけ一般的で市民権を得ているにもかかわらず、ある意味先人の知恵や経験値に頼る部分も大きく、それに加えてプレカットのオペレーションや、行政主導による一方通行の仕様規定などによって思考停止に陥っている側面も否定できないと思います。

当の私も山田さんと協働するまではそうでした。

図面上は可能でも、これで持ちますか?(構造上安全ですか?)という質問は現場の大工さんにぶつけてみて、厳しいという返事が返ってくればできないということがよくあります。ところが現場の大工さんはその判断の多くを経験に頼っているため、やったことがないことは「できない」と答えることが多いのです。これでは木造が未来に向けて進歩してゆかないことを意味します。

そのために構造設計者がいるわけですが、実は木造の正確な解析ができる構造設計者は国内では数が少ないのが実情です。鉄骨やコンクリートと違って、無垢の木は工業製品ではないので性能がまちまちで、同じ材でも産地や含水率などが違っただけで強度にばらつきが出てしまうからです。継ぎ手をどうするかによっても変わります。

正確に計量できないということは”変数”ですから、「変数x変数」で結局答えが出せないというのが、木構造の設計を難しくしている要因であるような気がします。

山田さんの木構造がユニークなのは、そんな木造のやっかいさを理解した上で、常識に囚われず柔軟にディテールを組み立ててゆくところにあります。

特徴的なのは木造を木だけで構成することにこだわらず、スチール材や汎用構造金物、時にスクリュービスですらも仕口や構造の補強材として躊躇わずに使うということです。複雑な木造をシンプルな体系に置き換えて、鉄骨造やRC造と同列であるかのように扱う。実際、山田さんはRC造をやらせても実に上手いんですよね。



建築を自由に発想するための手段として、こうした柔軟な手法は今後新しい木造を考える上では大きなヒントになるような気がします。

この本にはそんな解決の数々が収録されていて、正直協働設計者としてはあまりみんなに知られたくないなぁというか、山田さんと協働した者しか知り得なかった”秘伝”のようなディテールもあり、気を揉むところもなくもありませんが、、。ちなみに、我々と協働した案件の構造ディテールについても紹介されています。

そんなこの本ですが、売れすぎてあっというまに出版社にも在庫が切れてしまったようで、現在増版中とのこと。アマゾンでは早くもプレミアが付いて中古本が5000円以上つけていました汗。建築関係者の方は、落ち着いた頃にまた手にとって頂けたらと思います。

構造ディテール図集/山田憲明(木造)、多田脩二(鉄骨造)|オーム社
http://shop.ohmsha.co.jp/shopdetail/000000004798/

私が頂いた山田さんのサイン本はもちろんプライスレスです!笑