
独立前、ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)に留学していた時に関わったプロジェクトがありました。学生を対象とした木造の実施コンペのプロジェクトで、その年のお題はコルケアサーリ動物園の高台に物見の塔をつくるというもの。私も参加しましたが惜しくも佳作どまりで、コンペを獲ったのはヴィッレ・ハラ(Ville Hara)というフィンランド人の学生でした。
その案はラチス状に組んだ木のメッシュのようなシェル構造で物見の塔を作るという大変野心的なもので、当時の私も度肝を抜かれました。Kupla(Bubble)と名付けられたその塔は私もプロジェクトに関わり、その後実現に至りました。すでに20年以上が経つので、最近取り壊されるとか、壊されたとかいう噂を聞きましたが、真偽の程はわかりません。
そんなKuplaが表紙になった本が最近出たようです。
『模型で考える』(彰国社)平瀬有人 編著
https://amzn.asia/d/3RDGKUT
『模型で考える』と題されたその本には、日本では定番のスチレンボードではなく、木や金属や石膏といったナマの素材を使った模型の事例が数多く納められています。そのなかの事例の一つとして、このKuplaの1/20スケールの木の模型が収録されています。

わずか1Pのみの紹介ですが、この模型を見ると当時のことがいろいろと蘇ってきます。私自身もこの模型をプロジェクトメンバーと一緒に作ったからです。
このプロジェクトは、コンペに当選した学生を囲んで、毎週ケーブルファクトリーと呼ばれる工房に集まり、図面を描いたり模型を作ったりして、学生達の手で実現まで導くという日本ではあまり考えられない大胆な教育プログラムでした。
Villeの案があまりに斬新だったため、これをどう実現すれば良いのか皆目見当もつかず、とりあえず模型を作ってみようということになりました。そこで最初に作ったのが、書籍にも納められているこの1/20スケールの模型です。

表皮を覆う木造シェルの部分は薄くスライスした木を、瞬間接着剤を使ってベタベタととにかく張り付けまくったのを覚えています。できあがったのがちょうどクリスマス前のことで、みんなで「できたできた!」と喜び合ったのですが、それはこのスケールだからできたこと。随所に破綻した部分もあり、次はより詳細に、これをもう一廻り大きな1/5スケールで作ってみようということになりました。
こうやってスケールを上げながら、あくまで手仕事で実現性を検証しようというのが学生らしいというか、フィンランドらしいところでもあってとても印象に残っています。
日本なら高度な3D図面を作れば技術力のある建設会社が作ってくれそうな気もしますが、この建設も学生の手で行うという前提があったので、「模型で作れれば実物も作れる」というのは、シンプルですがとても確かな進め方でもありました。



上の写真でうずくまって作業をしているのが当時の私です。奥にいるのは、当時仲が良くて今でも親交のあるフィンランド人の友人Anttiです。その後日本人と結婚して、日本にやってくるときは家族で我が家にも遊びに来てくれます。
こうして巨大な模型ができあがりました!高さはおよそ2m、私の背よりも高いです。手前にあるのが、最初に作った1/20スケールの模型です。

Villeはこのプロジェクトを卒業設計(diploma)として学校に提出して晴れて卒業し、architectの称号も得ました。これはその後EUの卒業設計コンクールでグランプリも獲ったとか。1/5の巨大模型はポンピドーセンターに所蔵されたとVilleからは聞きましたが、ホントですかねぇ、、。
フィンランドは日本と違って、自分一人で設計したものではなくとも、チームをまとめ上げて一つの建築を作りあげる能力も建築家として大切な資質と考えているようで、こういうプロジェクトでも卒業を認めてくれるというのは本当に素晴らしいと思います。

ちなみにVilleはその後、Avanto Architectsという設計事務所を立ちあげ、現在ではフィンランドを代表する建築家のひとりになっています。彼ともフィンランドに行ったときにはよく顔を合わせる仲です。
今では日本でもLoyly(ロウリュ)というサウナ用語が一般化していますが、そんな「Loyly」という名のついた以下のサウナ施設を手がけたのもVilleが率いるAvantoです。たまに日本の番組でも紹介されることがあるので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

そんな話を語り始めると、まだまだ語り足りない話が山ほどありますが、それはまたの機会に!本の表紙の話からついつい筆が走ってしまいました。
『模型で考える』 書店で見かけたら、ちょっと手に取ってみて下さい!

昨日駆け足で日本橋高島屋の「北欧のあかり展」へ。今週末に行く予定にしていたものの、近くまで来ていたので居てもたってもいられませんでした。
お目当てはもちろん、今回の展覧会のために提供した所蔵のレイヴィスカランプ。まさに我が子の発表会を見に行く親の心境と申しましょうか。監修の小泉隆さんからは、このレイヴィスカコーナーが大変好評とのこと。恐る恐る見に行きました。
背景に大きくプリントしたグッドシェパード教会の写真をバックに、本物の照明器具が浮かび上がるような幻想的な演出に感激しました。
JL341はこの間までうちの食卓に下がっていたものですが、この日のために磨きました。コードも自分で付け替えました。ヨカッタヨカッタ!レイヴィスカをこよなく愛する者として、こんな形で皆さんに見てもらえる日が来るとは。ルイスポールセンの照明は見たことがあっても、レイヴィスカの照明は初めて見る人もきっと多いのではないかと思います。出口の協力者クレジットには一人だけ個人、、ちょっと恥ずかしい。
遠藤悦郎さんによる映像もとっても素晴らしくて、グッとくるものがありました。もちろんほかの照明の展示も、照明だけでなく家具や建築と関連づけて展示してあったり、ビンテージから現代まで、北欧から日本まで、幅広い視点で実にバランスの良い展示構成だと思います。
出口で販売している図録もよくまとまっていると思います。展覧会は24日まで。是非足をお運び下さい!





日本橋高島屋にて、北欧照明の展覧会「北欧のあかり展」が3月5日(水)よりはじまります。
展覧会には、私が個人的に所蔵するフィンランドの建築家、ユハ・レイヴィスカによるオリジナル照明器具4点を出展させて頂いております。
また、フィンランド在住のデザイナーの友人、遠藤悦郎さんによるレイヴィスカの教会を撮影した美しい動画も会場で流される予定とのこと。こちらも私も楽しみにしています!
事前に会場構成を図面で拝見したのですが、九州産業大学の小泉隆氏が監修しているだけあって、百貨店の展覧会とは思えないほどの規模とクオリティでの開催で、私の出展以外にも数多くの北欧の名作照明が揃い、大変見応えのある展覧会になりそうです。
この機会に北欧の美しい照明の魅力に触れて頂きたく、是非会場まで足をお運び下さい!
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ヒュッゲな暮らしをデザイン
『北欧のあかり展』
日本橋高島屋 S.C.本館8階ホール
2025年3月5日(水)~3月24日(月)
入場時間:10:30~19:00(19:30 閉場)
※最終日3月24日(月)は17:30まで(18:00閉場)
■詳細はこちらより
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/hokuou_akari/
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うちの事務所にお越し下さったことのある方でしたら、ミーティングテーブルの上に下がっていたこちらの照明をご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
これは実はレイヴィスカ設計によるグッドシェパード教会(2002)のためにデザインされたオリジナルモデルになります(非売品)。どうしてそれを私が持っているかの詳細は割愛しますが、とある経緯で入手し、それを見て一目でレイヴィスカによる照明であるとはわかったものの、それがどの建物のモデルなのか(レイヴィスカは設計した建物ごとにオリジナルの照明をデザインします)が長年わかりませんでした。
それが2018年にフィンランドに行った際にこれまで訪れたことのなかったグッドシェパード教会に立ち寄り、それが事務所の照明と同モデルであることにはじめて気づきました。ずっと生き別れになっていた兄弟に再会したような気分でした。


レイヴィスカをこよなく愛する私が長年気づけなかったのは、私が持っている作品集には収録されていない比較的新しい教会のモデルだったからでした。
レイヴィスカの建築は私にフィンランドに渡ることを決意させた建築です。それほど私はレイヴィスカの建築が自分の建築の原点であるとすら思っています。そんなレイヴィスカの照明を事務所に下げて毎日眺めることのできる幸せを思わずにはいられません。
それ以外にも我が家のダイニングには、レイヴィスカのJL341が下がっています。

こちらはヘルシンキのアルテック本店に行けば購入することができますが、日本国内では手に入らない照明です。私が設計する住宅のいくつかには、これを下げているので見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これも本当に美しい照明で、日々の食卓を彩ってくれています。
それ以外には、以下の照明器具を出展しています。


いずれも現在では日本国内では手に入りません。うちJL340は過去唯一国内で販売されたレイヴィスカランプで、当時はヤマギワが扱っていました。
会場にはそんな国内では(我が家以外では?)ほとんど見ることのできないレイヴィスカランプの数々も展示されていますので、是非この機会にご覧頂けると嬉しいです。
東京展のあとは、大阪、そのあとは九州に巡回するそうです。うちの事務所に戻ってくるのはまだまだ先になりそうです。(寂しい・・)

深雪のホテリアアルトへ。
ホテリアアルトはこれが5回目くらいでしたが、オーナーの宗像さんによるとホテル開業以来最大の積雪量とのこと!一階部分が完全に雪で埋まり、いつものロビーからの眺めも雪の壁状態でした。
フィンランドからの友人ヤリさん夫婦をお招きし、アールトグループと呼び合う23年前に開催されたアールト住宅展を企画した懐かしい面々が集い、夜遅くまで語り明かしました。
帰りには少し遠回りしてこれまた深雪の大内宿まで。ただでさえなかなか来れない場所ですが、この雪景色に昔の人たちの暮らしぶりも想像できて、得難い経験となりました。
また益子氏設計のゼノアック本館も見学させて頂き、その丁寧なつくりにも大変感動しました。
細部に至るまで気遣いと最高のホスピタリティでフィンランドからの大切な友人をおもてなしくださったホテルスタッフ、宗像家の皆様、万全のアレンジをして下さいました益子さん、本当にありがとうございました!







パナソニック汐留ミュージアムで開催中のポール・ケアホルム展へ。1999年にはじめて北欧を巡った際、最初に降り立ったデンマークのカストロップ空港にずらりと並んだPK22の椅子を見た時の光景は今でも忘れられません。
ケアホルムは昔から憧れのデザイナーのひとり。デンマークに行ったのはウェグナーをはじめとした名作家具を現地で見てみたいと思ったからなのですが、まさか空港にこのミュージアムクラスの椅子が惜しげもなく並べられているとは思いませんでした。文化度の違いを見せつけられた気がして、私がその後北欧にどっぷりハマっていくきっかけにもなりました。
北欧のデザイナーにしては珍しくスチールを巧みに使い、その鬼のような精度とプロポーションの追求は、私の中では「北欧のミース」だと思っています。
ケアホルムが51歳で早世したことも知りませんでした。この世のものとは思えないようなものを作る人は、やっぱり長生きはできないのかもしれません、、。彼の歳を過ぎた私は、まだ何も残していないような無力感すら感じてしまいました。
それにしても貴重な織田コレクションの数々は圧巻のひとこと。田根剛さんの会場構成も素晴らしかったです!

