18. 11 / 04

愛媛へ


先週金~土にかけて愛媛に行ってきました。

目的は会いたい人、行きたい場所、見たい建築などがいっぱいあったためですが、このわずか二日間で見たこと体験したことの話は、たくさんありすぎてとてもここでは書けません。フェイスブックなどSNSにその多くの写真を載せているので、ご興味ある方はそちらをご覧下さい。

ここで書き残しておきたいのは、特に八幡浜の日土小学校、そして大洲の少彦名神社参籠殿のことについてです。



日土小学校を訪れた感動を上手く表現することができない。

一般公開日以外は内部を見学することはできない。しかし日土小学校の出身で、学校のすぐ隣に事務所を構えるリオタデザインOBの二宮一平くんの計らいで、今回特別に内覧させてもらうことができた。我々のためだけの貸切だった。

私はそれを自慢したいのではない。彼はこの郷里を愛し、母校のために尽くしてきた。不具合があれば誰よりも早く駆けつけた。ボランティアで、友人と池のモルタルを塗り直したこともあるそうだ。彼が強い信頼関係で地元と結ばれ、愛されているということに胸が熱くなった。

日土小学校は素晴らしい小学校だった。愛情が溢れていた。学校とは何かと深く考えさせられた。年代がとか、学術的な価値といったものではなく、本当に大切なものがここにはある気がした。

川を覗くと魚がいっぱい泳いでいた。放課後はみんなで魚釣りをしたそうだ。テラスには出てはいけないと言うわりに鍵がかかっていたことはなかったという。彼の思い出と共に聞く空間は、まるで生きているようだった。







大洲市の少彦名神社参籠殿は2016年に「ユネスコアジア太平洋文化遺産保全賞最優秀賞」を受賞した。快挙だった。


少彦名神社参籠殿は、昭和初期に建設された懸造りによる傑作である。ところが、管理者不在により荒れ果て、危険のため取り壊される寸前だったという。再生のための改修設計に白羽の矢が立ったのは、地元の二宮一平くんだった。

今回それをようやく見ることができた。近くの臥龍山荘には多くの人がいたのに、参籠殿には人影がなかった。地元でもあまり知られていないようだ。

彼の苦労はあえてここでは書かない。書ききれない。けれども、とてもじゃないけれど私にはできないと思った。立派な美術館を作ったわけではない。けれども地元の建築関係者では彼の名前を知らぬ者はいないという。ローカルアーキテクトとは何かということを彼から学んだ。

彼はうちの事務所の初代スタッフだった。当時は仕事がなく十分に彼にお金を払えなかった。彼もお金はいらないと言った。彼は昔からそういう男だった。私は彼を誇りに思う。



ルーバーで覆われた建物は社務所兼トイレ。彼による設計で、かすかに彼がリオタデザインで学んだことが垣間見れる。

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sekimoto

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> 北欧
> 旅行



先の北欧旅行では楽しみにしていた建築がいくつかありましたが、そのひとつにユハ・レイヴィスカのグッドシェパード教会(2004)がありました。

ヘルシンキ近郊ではミュールマキ教会にはもう数え切れないくらい足を運んでいますが、比較的新しくできたグッドシェパード教会にはまだ行ったことがありませんでした。(留学中にはまだできていませんでした)

足を踏み入れた瞬間、空間の美しさにも息を呑みましたが、次の瞬間こぼれた言葉は「あ、事務所の照明だ!」でした。本当にびっくりでした。

2007年頃、国内のとある北欧ビンテージショップに足を運んだ折、そこに吊られていたのはレイヴィスカの照明でした。レイヴィスカの照明はそのリングに特徴があり、見ればすぐに分かります。現行の市販品ではないこともすぐにわかりました。

レイヴィスカは建築ごとに照明器具までデザインすることで有名で、これはきっとどこかの建築の一部に使われていたに違いないと思いました。どんな経緯で流出したかはわかりませんが…。

もちろんその場で迷わず買って、大事に事務所に下げていましたが、私蔵のレイヴィスカの作品集をいくらめくっても同じ型の照明は出てきませんでした。きっといくつか作った試作品の一部なのだろう、それはそれで貴重だなというくらいに思っていたのですが、まさかグッドシェパード教会の照明だったとは…。

帰国後、写真と照合しましたがほぼ間違いないと思います。
またひとつお宝が増えました。



上の写真がグッドシェパード教会の照明。
そして下が事務所に下がっている照明です。

来月4日~12日まで、9日間ほど事務所を空けて北欧の視察旅行に行って参ります。アールトとアスプルンドを巡る旅。仕事に穴を開けてしまうようで気が引けてもいるのですが、留守を守る優秀なスタッフがいるからきっと大丈夫でしょう、、。

私の場合、昔から”旅行は個人旅行に限る”ということで、ほとんど団体旅行には参加したことがないのですが、SADIでもお世話になっている吉村行雄さんが監修されていることや、顔見知りの知人が多く参加すること、また今回あまりに旅程が素晴らしかったこともあり、珍しくツアーに申し込むことにしました。

これで3年連続での北欧行き…。他に行くところないのかと呆れられそうですが、ごめんなさいありません。私にとって北欧は完全に”ホーム”なので、旅行というより里帰りに近いような気がします。現地の空気を吸い込むと、本当に帰ってきたーっという気分になるのです。

今回の渡航先は、過去留学中などにも訪れたことのある建築がほとんどなのですが、当時は貧弱なデジカメしか持っておらず、またフィルムのカメラはフィルムが勿体なくて今のようにバシバシ撮れず、いざという時に資料として使える写真がほとんどないという長年の問題がありました。

それと名建築というものは、文学作品と同じで「昔読んだことがある」というだけでなく、何度も何度も読み返すことで理解が深まり、それまで気づけなかった細部にまで注意を向けることができます。

20世紀を代表するアールトの傑作「マイレア邸」(下の写真)などは留学時代やそれ以前からも通算し、たぶん今回で10回目くらいかもしれません。あらためて「他に行くところないのかよ」と自分にツッコミを入れたくなりますが…。



今回のツアーは、団体が苦手な私の心すらも動かしたくらいで、申し込みが殺到し、今はキャンセル待ち状態なのだそうです。早く申し込んでおいて良かった。

今回の旅程に含まれているアスプルンドの「夏の家」は、見学ができるのは今回これが最後になるかもしれないそうです。アールトの国民年金会館も同様とのこと。他にも個人ではなかなか行けない場所にも行けそうです。

たぶん私も黙っていられないので、現地ではめちゃくちゃ細かいマニアックガイドをしてしまうかもしれません。嫌がられるかもしれないのでなるべく自分を抑えますが、同行する方でもっと説明が聞きたい方がいましたら、遠慮なく私に聞いて下さい。

他にも同行者にはSADIの塚田耕一先生(アスプルンドのスペシャリスト)などレジェンドクラスの方もいらっしゃいます。写真の撮り方は北欧のレジェンド写真家・吉村行雄さんが教えてくれます。北欧がはじめてという方にとっては今年はめちゃくちゃ贅沢で、過去最高のツアーになることは間違いないでしょう。

さて、私はそれまでに仕事を片付けなくちゃ!

この週末は絶好の日和に恵まれ、行楽に出かけた方も多かったのではないでしょうか。私は家族と小田原~鎌倉方面に小旅行に行ってきました。

目的の一つは、昨年のオープン以来ずっと行きたかった「江之浦測候所」へ行くこと。場所は小田原にあります。

「江之浦測候所」とは、美術家の杉本博司氏が私財を投じて壮大なスケールで作り上げた美術施設であり、「建築」であり「彫刻」でもあり、はたまた「庭」であり「インスタレーション」のようでもありと、過去に例のない施設なだけに説明が難しいのですが、ひとつだけ言えるのは「測候所」の名が示すとおり、それらはすべて”自然観測”のために作られているということです。

広大な敷地に設定されたいくつもの軸線は、夏至や冬至、春分秋分の日の日の出線を示しており、大きな地球時間に合わせて、この建築群は様々な表情を見せることになります。まるで太古の時代のストーンヘンジといった遺跡群を彷彿とさせます。

私の中では、これまでで見た美術作品の中でも最も素晴らしいものでした。行った時期も良く、菜の花の香る敷地はただ佇んでいるだけで幸せな気分になりました。

完全予約制の施設です。小さいお子さんは連れて行けませんが、大人の方はこの春のドライブに是非足を延ばしてみてください!

江之浦測候所
http://www.odawara-af.com/ja/enoura/






さて問題です。これは何でしょう?
私が今回アールト財団で買った数少ないお土産の一つです。

裏はこんな感じ。


正解は、アールト設計によるヘルシンキ市電力会社ビル(Sahkotalo|1965-1974/aとoはウムラウト)で実際に使われていたタイルです。

このカマボコ型タイルはアールトのトレードマークとも言えるもので、実際にアールトが設計したあらゆる建物に使われています。またこの濃紺色はアールトが特に好んだ色の一つです。(アールトブルーと勝手に命名)

たとえばこれはアールト大学。



壁面に立体感のあるタイルが張られています。応用編としては、以下のように丸柱まわりに張るというのもアールトの特徴的なタイル使いのひとつです。


アールト財団のあるアールトスタジオにも実物サンプルがありました。
またその下の写真は、アテネウムでのアールト展の展示です。実物と図面説明があります。非常にユニークな施工法ですね。アールトの独創性が光ります。




このようにオリジナルのタイルにも様々な形があり、同様にレンガなども、文化の家などに使われているものは非常に特徴的な断面を持つもので、こうした飽くなき素材への探究心もまたアールトの魅力と言えます。


アールトは建築にも、新しい素材を次々と試すようなことはなく、むしろ昔から使われている定番の素材を、様々な形に変えて自分流にアレンジして使っていました。しかしそれは、定番素材でありながら、ほとんど”発明”に近い使い方でもありました。

でも不思議なことに、古くからある素材であっても、アールトが使うとその素材の持っていた意味が大きく変わり、みんな真似したくなるというのがアールトなんですよね。実際ヘルシンキはそんなアールト的な素材使いの建物で溢れています。

しかし、アールトの建物を改修したときの”廃材”で商売をするとは、財団もしたたかです。でもありがとうございます。こうして大喜びで買って帰る人もいるのですから!またひとつ私の宝物が増えました。


ちなみにこのハンドルも事務所にありますが、私の中では国宝級のものになります。