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先週引き渡したばかりの「西荻の家」に、完成したばかりの表札を取り付けるためにお邪魔してきた。うちにはオリジナルの表札デザインがあって、ほとんどの場合こちらで製作させて頂くことが多い。

無事取付も終わり、そのまま失礼させて頂いた・・はずもなく、あたかもそっちが目的であったかのように、大きなダイニングテーブルを囲んでTさんご夫婦との歓談が始まった。

お茶の後に出されたコーヒーカップは、カイ・フランクのTEEMAだった。

カイ・フランク。フィンランドデザインの良心と呼ばれ、私が最も敬愛して止まないデザイナーの一人。私にとってカイ・フランクはフィンランドデザインそのものであるし、TEEMAは私にとって特別な意味を持つデザインでもある。

TEEMAの持つ慎ましさが好きだ。巨匠と呼ばれるデザイナーがデザインしているというのに、全然威張ってない。せめてお名前だけでも、という言葉を背中でおきざりにするような佇まい。機能的で無駄がない。ここにはデザインに必要なすべてがある。

私は”ドヤ”のあるデザインが好きではない。そんなのは血気盛んな学生が学校の課題でやればいい。デザインというのは、使う人と共にあり、人に寄り添うものであるべきだ。

では主張がないものが良いのかといえばそうではない。口数は少なくとも確かな存在感を放つもの。そこにあるだけで空間の秩序が結ばれ、人の暮らしを豊かに、より高い次元へと導いてくれるもの。

カイ・フランクのデザインにはそれがある。

Tさんは竣工した住宅で使うカップにカイ・フランクを選んでくれたのだなあ。そう思ったらとても感慨深かった。そんな話をしたらTさんが一言。

「でも最初にお会いしたとき、カイ・フランクみたいな家がいいんだって、関本さん言ってましたよね?」

ええっ言いました?そんなこと。
・・・言ったかもしれない。忘れてたけど。

そうか。カイ・フランクみたいな家になったんだ。
カイ・フランクが似合う家になってくれて、本当に良かった。

15. 02 / 16

そこにある危機

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現在大手メディアが報じない社会問題とも言うべき問題が、建築業界を覆っている。その一つが職人さんの人手不足の問題。これは本当に深刻で、大工はもとより左官や鳶、ほぼすべての職種が足りていないという現状がある。

私の知る工務店の方は「仕事はあるし、見積もりを出せば取ることもできる。しかし職人がいないから請けることができない」という深刻な悩みを抱えている。この流れが進むと、本当に地域の工務店にとっては死活問題となるし、家づくりは益々職人がいなくてもできる工法へのシフトが進むだろう。建具もお風呂もキッチンも、すべて既製品のユニットを入れればできあがるという具合に。

これはそういうものを望まない建て主にとっても死活問題になるはずだ。そして何より、地域の工務店は大手ハウスメーカーとの違いを打ち出すことが難しくなってくる。これは工務店にとっては大きな危機である。

では我々はどうか。もちろん、我々にとっても上記の問題は大きな脅威であることは間違いないけれど、我々はそれと同じくらい大きな問題に直面している。現在、住宅の省エネルギー基準を見直す動きがある。

http://lowenergy.jsbc.or.jp/top/resource/house_slide1.pdf

非住宅や、住宅でも大規模な集合住宅などでは既にこれは義務化となっている。そして最後の砦となる、300m2未満の小規模住宅でも、2020年までに義務化されることになっている。

しかしこれを聞いても、一般の方はピンとこないかもしれない。
でもそれって省エネになるんでしょ?断熱性能が高まるってことでしょ?良いことじゃないの?

はい、ある意味良いことです。
でも私から言わせれば、我々がテリトリーとする首都圏地区に関しては今のままで十分なんです。現在も「次世代省エネルギー基準」というのがあって、うちの事務所でも”ほぼ”これに準拠して断熱性能を決めています。

これを守るととても暖かい家になります。入居したお施主さん、皆さん暖かい暖かいと言ってくれます。日中は陽だまりのようになります。でも冷え込む日には多少不満もあるでしょう。冬でも半袖で過ごせる北欧住宅とまではいきません。これが私が思う「十分」の意味です。

でも”ほぼ”と書きました。それはそれを守らないところがあるという意味です。例えば製作で木製建具を作ることがあります。テラスに全開放するような大型建具って憧れますよね。でも気密は良くないです。

あるいは玄関扉と言えば、やっぱり木ですよね。味わい深くて愛おしい家の顔になります。でも断熱等級はないです。モヘヤやその他で気密は取りますが、木は反るので徹底はできません。だから隙間風は勘弁してね、と言います。いいじゃないですか。時にちょっとした隙間風なんかより人の暮らしを豊かにしてくれることはあるはずなんです。

ところがこれ以上の断熱・気密の動きに社会が傾くと、こういったことすらできなくなる恐れがあるのです。

家を包む表皮の性能が問題になりますので、建築家住宅によくあるような、大きなガラスのファサードなんかも制約を受けるでしょうね。窓は小さく小さく、なるべく熱を逃がさないように作らなくてはならなくなります。

今ハウスメーカーなどが言っているゼロエネルギーハウスなんていうのは、その最たるものです。サランラップか魔法瓶の中で暮らすようなものです。私は反対です。そんな家、息苦しいと思います。

私は思うのです。省エネは社会全体の動きとしては必然だと思います。断熱・気密、大いに結構だと思います。でも強制はしないで頂きたい。私が設計する家だって、相当断熱と気密にはこだわってますが、前述のように意識的に徹底はしないようにしています。それは人間が持つ本質的な”ゆるさ”を家もまた併せ持つべきだと思うからです。

またそれは本来、建て主が選択すべきものです。お上が決める問題じゃありません。非住宅や、住宅でも集合住宅のように不特定多数の方が使うような建築は、高い基準でその性能は決められるべきかもしれません。しかし特定される個人の方が、個人資産で建てる家には、その自由は許されても良いのではないでしょうか。

誤解のないように言うと、断熱性能なんてなくても良いと言っているのではありません。その逆です。そうではなくて、それを勝手な解釈で押しつけないでくれと言いたいのです。いいじゃないですか、建て主が開放的な生活を望まれるのであれば。

煙草と同じです。禁煙のお店が増えて肩身が狭くなるのは仕方ないと思いますが、だからといって法律で禁止すべきではないと思うのです。(※ちなみに、改正法で木製建具が一律に禁止されるということではありません。誤解のないように。ただベクトルは益々時代と逆行してゆくということに危機感を感じるのです)

職人不足は工務店を殺す。
やみくもな法規制は設計事務所を殺す。

我々から自由な家づくりを奪わないで欲しいと思います。

14. 12 / 31

反省はしません

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この歳になると思うんですね.人って反省しちゃいけないなと.

これは開き直っているんじゃないですよ.反省しないといったって,本当に反省しない人は馬鹿です.社会では生きていけません.

でも自己否定からは何も生まれないと思うんですね.

自分はなんてだめな奴なんだとか,死んでしまいたいとか,そこまで思わなくたって,自分を全肯定して生きている人はそうそういないし,いたとしたら自信過剰の相当にヤな奴でしょう.

でも自分を肯定しなくては,人って生きられないんだと思うんです.

私も今年はいろんな失敗がありました.迷惑をかけた人もいますし,取れなかった仕事もありました.その時は本当にへこむんですね.自分の非をなじりたくもなりますし,才能の限界を感じ,自分の価値なんてこれっぽっちもないんじゃないかと,消えてなくなりたいような気持ちにすらなります.

でも,それを受け容れてくれる人たちがいるんですね.

全員じゃありません.きっと人に受け容れられる確率は3割も行けばイチロー並みなんじゃないでしょうか.私の場合どうでしょう,少なくとも家族や,私に仕事を依頼してくださったクライアント,スタッフ,少ない友人は私を認め,全幅の信頼で受け容れてくれる人たちかもしれません.少ないです.本当に少数だと思います.

だから,私はその限られた人達を幸せにしたいと思います.
私というちっぽけな存在が,生かされている意味はそこにあると思うからです.

だから反省はしません.

そんなことを思う年の瀬です.
皆さま,どうか良いお年を!

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よく設計事務所との家づくりという選択肢がもっと広まれば良いのにという声を聞く.もう少し言うと,設計事務所との家づくりが世の中の家づくりの主流になるべきだと考える人もいる.でも,私はそうは思わない.設計事務所に設計を頼むという選択肢は,これまで通り少数派で良いと私は思う.

そんなことを言うと,関本さんのところは仕事がいっぱいあるからそんなこと言うんでしょう?と疎まれるかもしれないけれど,仕事があろうとなかろうと,それは関係ない.

一言で言えば,設計事務所に頼もうという人は設計事務所にしか頼まないのだ.私はそう思う.ハウスメーカーやその他の選択肢で満足する人は絶対に設計事務所には頼まないし,頼まれてもお互い不幸になると思う.

もしかしたらその逆もあるかもしれない.設計事務所でしか満足できないのに,ついうっかりそれ以外の選択肢を選んでしまった人.こういうミスマッチに気づけなくて不幸になるパターンは,家づくりに限らず,結婚就職その他,いろんな場面であるだろう.

でも私はそういう人は救えないし,救おうとも思わない.残酷なようだけれど,うちのクライアントの真摯さ,まっすぐさを思うと,その方達は家族や自分の人生と向き合う真剣さに欠けていたのだと思わざるを得ない.

設計事務所に辿り着くまでには,程よいハードルが必要だ.意を決して飛び込む.そのくらいでちょうど良いと私は思う.飛び込むためには覚悟が必要だ.覚悟もしないで,大事なことを安易に決めるから間違いが起きるのだ.私はそう思う.

14. 12 / 10

青焼きって

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若いスタッフに,「青焼きっていいますけど,一体どうやって焼いてるんですか?」と素朴な質問を受けた.そうか,設計事務所のスタッフももはや青焼きを知らない世代になってきたということか.

私が設計事務所に入所した頃は,まだ事務所も手描きが主流だった.トレーシングペーパーに線を引いたら,感光紙と重ねて感光機にかける.皺がよった図面などは,ローラーによく巻き込まれて大変だった.メリメリッという断末魔のような音が聞こえたら,すぐに感光機を止めないと大変なことになるのだ.

そしてここからが一番嫌な作業なのだけれど,筒の中に入れて,その下のアンモニア原液の蓋を厳かに開ける.もちろん息は止めたまま.それでも揮発した原液のせいで目はちかちかするし,手に傷があったりするとそこもピリピリと痛むことになる.今考えてもあれは大変な劇薬だったのだろう.

それまでクリーム色だった感光紙は,揮発したアンモニア原液で”焼かれて”ブルーの線が浮かび上がる.図渡しの前日などはもう大変だった.先輩スタッフが最後の追い込みで描き上げた原図を,片っ端から青焼きを繰り返してゆく.眠さとアンモニア臭で意識は朦朧・・.今のようにワンクリックで何枚でも出力できる時代が来ようとは夢にも思わなかった.

・・なんて話をしていて,はっと気づいた.

自分とした事が,なんだか大昔の話をしているみたいだ.
実際スタッフは「へぇ・・」という感じで,「お父さんが子どもの頃はな」と終戦直後貧しかった時代の話に付き合わされてるみたいな空気になっている.

ちがうちがう!そんな昔の話じゃないんだって.ついこの間の話なんだって.
つまり,えっと15年前とか,20年前くらい?だからつい最近の話なんだって.

「つまり僕が幼稚園か小学校に上がったくらいの話ですね」
今の子にとっては十分に大昔の話だったようです.

(写真はすべて私のスタッフ時代の図面です)