22. 08 / 09

人間、アールト

author
sekimoto

category
> AALTO
> ディテール



すでに先週の話ですが、8月3日の新建新聞社主催によるオンラインセミナー『北欧アルヴァ・アールトに学ぶこと』にご参加下さいました皆様、誠にありがとうございました。事前に300名の参加応募があったと聞いてびっくりしました。

今回のセミナーで一番伝えたかったのは、以下のアールトの言葉でした。

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「あなたの家のためにアドバイスをするならば、さらにもう一つの特色を家に与えなさい。どこか小さなディテールの中で、あなた自身をさらけ出すのです。家の形態のどこかに故意に弱点を、あなたの弱点を見せるのです。(中略)この特色なしには、どのような建築の創造も完全ではありません」
Alvar Aalto, “Porraskiveltä arkihuoneeseen”, 1926

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ディテールに神が宿るとよく言われます。そう聞くと、なにか神懸かったもの、常人には真似できない匠の技のようについ思ってしまいます。

しかしそうではなく、「あなたらしさをこそディテールに込めなさい」というのが、アールトの教えなんじゃないかと思っています。どんなに不器用でもいい。その人が身の丈で考えたものは誰にも盗まれることはない、その人だけのものなんです。

アールト自身も謎めいていて、そのカリスマ性から神様のように語られることも多いのですが、でもアールトの建築には弱点(言い換えるとつっこみどころ)がいっぱいあって、とても人間臭いんですよね。失敗すらも隠さない。やらかしたときこそチャンスだと言わんばかりに、その造形を積極的に表出させてゆくんですね。

そんなアールトの建築にはいつも勇気がもらえます。煮詰まってしまったとき、アールトや北欧の建築はいつも懐深く迎えてくれます。私にとってアールトはそんな存在なんですよね。人間、アールト。そんなことが伝わっていたら嬉しいです。




先週大きな仕事に区切りが付いたこともあり、先に上げたtobufune展と絡めてスタッフと青山のCASITAでランチをしてきました。

CASITAはその高いホスピタリティで有名なお店で、以前食事した際にはその異次元のおもてなしに心から感動しました。スタッフともこの感覚を共有したいと思いつつも、若いスタッフがふらっと行けるようなお店ではないこともあり、この機会にみんなとここで食事をすることにしました。

この日はランチだったので、ディナーとは異なりカジュアルな雰囲気。CASITAは店員さんが本当に感じが良く、程よい距離感でフレンドリーに話しかけてきて下さいます。食事も本当に美味しくスタッフ達も大満足でした。

ところが最後のデザートを楽しんでいると、頼んでもいないホットミルクがテーブルに運ばれてきました。その泡の上にはなんとリオタデザインのロゴマークが描かれていたのです。


これには本当に腰が抜けそうなくらいびっくりしました!

予約時には個人名しか伝えていませんでしたし、テーブルでの店員さんとの会話では会社の会食であること、また我々は設計事務所であることなどを和やかにお話しした程度で、事務所名などはお伝えしていなかったからです。

おそらくですが、我々との会話や私の名前などを手がかりに、店員さんは我々の事務所が「リオタデザイン」であることを知り、食後にそのロゴマークをサプライズとして泡の上に描いて出してきたのでしょう。

スタッフには私がCASITAのおもてなしがいかに素晴らしいかを話した後だったので、余計に響いたことと思います。みんなも目を丸くして驚いていました。今日スタッフを連れてきて本当に良かったと思いました。


CASITAのポリシーに、ホストはゲストが何者であるかを知らなくてはいけない、というようなことがあると以前なにかで読みました。

設計事務所とは異なり、日々異なるお客さんがやってくる飲食店のような業態で、その日のゲストが何者であるか、予約情報以上のことを知ることは至難の業だと思います。もちろん個人情報もあるので、踏みこむべきではない領域もあるでしょう。

しかし店員さんはゲストとの会話の中から、その人を心底喜ばせるためのヒントをずっと探していたに違いありません。だからそれは毎回出てくるものではないし、人によっては受け取るものも異なるのだとも思います。

詰まるところ我々の設計もそうなのです。言われたことだけをやっていたのでは、飲食店に例えればファミリーレストランみたいなものです。誰も文句は言いませんが、そこには感動は生まれません。

どうして言っていないのにそれがわかるのか?ということを我々はよく建て主さんから言われます。しかしそれは明白なのです。なぜなら設計をするということは、建て主が何者であるかを理解するという行為だからです。

我々は言われずとも、常に二歩三歩先を見ながら、建て主さんの考えをいかに先回りするかということを心がけています。そのヒントは建て主さんとの何気ない会話や、仕草や、表情の中にすでに無数にあるのです。

スタッフに伝えたいのは技術ではなくそういうことです。この日の会食はそんなことを学んでもらう良い機会となりました。

アンケートに協力したりすると、よく企業のロゴ入りボールペンをもらえたりしますよね。またロゴ入りボールペンを作りませんか?みたいなのもあります。でもいつも思うんですけど、ボールペンってもらって嬉しいですかね。

だってボールペンって使い切るのにすごく時間がかかるじゃないですか。しかもノベルティのボールペンって安いからちょっと書きにくいんですよ。というわけで、使わないボールペンが家のペン立てにびっしりと。これってあるあるじゃないですかね。

あるいは500円くらいのQUOカードがもらえることもあります。こちらのほうがまだ気が利いている気もしますが、私の場合財布に入れていても、いつも使いそびれて永遠に財布の番人になりがち。そもそもスマート決済ばかりで財布を持ち歩かなくなっているので、この手のものをもらうといつも息子にあげてしまうんです。


そんな折り、”Tポイント”を運営する会社からちょっとした売り込みがありました。Tポイントを活用しませんか?的な話でした。

日頃事務所にはいろんな売り込みがあります。サイトアクセスを上げませんか?とか、こんな集客サービスがありますよとか。正直一切やりません。なんかお金を払って集客を買うみたいな発想って、ちょっと安易ではしたないというか、あまり好きじゃないんですよね。

でもこの日の「Tポイント」の話は面白いなと思いました。

「設計事務所」なのに「Tポイント」というこのミスマッチ感、なかなかのインパクトです。誰でも知っている国内で最もメジャーなポイントが、設計事務所でもらえるってすごくないですか?

で、こう思ったんですよね。

設計事務所って、行くのはすごく勇気要るじゃないですか。駅前のコンビニには入れても、設計事務所にふらっと入ってくる人はいません。でも本当はもう少し気楽にふらっと相談に来てもらいたいと思っているわけですよね。

だからそこを少し勇気を出して乗り越えてきて下さった方には「ありがとうございます」と思うし、帰るときには「来て良かった」と思ってもらいたい。それをもし形にするとしたら、それはボールペンじゃないし、QUOカードでもないなと。

Tポイントって知名度もあるし、いろんな場面で使えるし案外いいかも!と思って、実験的にはじめてみることにしました。


面白いのは、ミーティングデスクの上に冒頭写真の「Tポイント」のついたてを置いておくと、皆さん「何ですかこれ?」って訊くんです。そこでこの話をするとたいがい皆さん面白がってくれます。まずは掴みはOK!ってやつです。

Tポイントのアプリでは、近所のお店のクーポンが表示されるメニューもあったりします。私はあまり使いませんが、”ポイ活”が好きな人はよく見ているみたいですね。

そこで吉野家とかロッテリアとか、近所でよく行くお店に混ざってリオタデザインの広告も出てくるっていう。


めちゃくちゃ面白くないですか笑。なかなかの破壊力です。

まさか私もポイント目当てで設計相談に来る人がいるとは思っていなくて、こういう日常のお店と同列で設計事務所という選択肢が出てくるということが大切なんだと思うんです。吉野家の隣にこういう写真が出てきたら、まずは「なんだろう?」って思うじゃないですか。


さてこれをうちではどう活用しているかというと、設計相談に来て下さった方に目の前でサイコロを振って頂きます。1が出たら100ポイント、6が出たら600ポイント進呈です。名付けて「Tポイントチャレンジ」!

これはウケます、確実に。500円のQUOカードもらうより楽しいと思うな~

先日ご相談にいらした方は、獲得は「100ポイント」でしたけど笑ってました。たった100ポイントで笑顔になるっていいですよね。ちなみに100ポイントを嗤うなかれ。うちのポイント付与率の設定は200円につき1ポイントなので、20,000円相当のお買い物をして頂いたのと同じくらいの価値があるんですよ。

ちなみに設計料のお支払いにはポイントは付きませんので悪しからず!それやっちゃうと、我々が笑えなくなっちゃうんで。

ちなみにこの6月の夏のボーナス、このTポイント制で私とじゃんけんして勝ったら500ポイント、負けたら100ポイントを進呈しました。500ポイントもらったスタッフは大喜び。もちろん現金のボーナスもちゃんとあげましたよ!

今年に入ってトラブルが続いている。過去に設計した住宅が雨漏りしたり、スタッフが体調を崩したり、なかなか新規の仕事を受注できなかったり。

竣工した住宅には所定の家具が入らないとのご連絡。確認申請では、これまでなかったようなあり得ない指摘が…。

お金を巡ってのトラブルも多い。折りからの物価高騰の波を受けて、予算超過でなかなか着工できなかったり、想定外の追加工事が発生して建主さんと現場との間で板挟みになったり。

急に事務所の電話は使えなくなるし、今このタイミングで壊れるかというものが壊れたり。まったくをもってツイていない!毎日毎日、トラブル続きで仕事にも身が入らない。

昨年はとても良い年で、順風満帆すぎて怖いくらいだった。そして今年の年始に運勢を調べると、なんと今年は12年で最高運気の年らしい!まさか、昨年の運気を更新するのか!?とこれまた怖ろしく思っていたら、あれ、これはどうしたことだろう。いいことなんて一つもない。私だけ運気の暦が一年ずれていて、一人波乱の運気に入っているんじゃなかろうか?

そんなことを思う今日この頃だったのだけれど、一方でこんなことも思う。

この日々のトラブル対応は高速テトリスのようなものだ。上から落ちてくるイレギュラーな形のパズルを、瞬時の判断で動かし、適切な位置に落としてゆく。これには相当の集中力が要求される。完璧なパズルの落とし方はできないけれど、少なくとも最悪の事態だけは避けなくてはいけない。

あとでゆっくり考えよう、なんて言っているヒマはない。あるときは相手と刺し違え、またあるときは損して徳を取る。その時その時が真剣勝負!今の私には自分の行動を振り返ることすらできない。

今私は、全日本トラブル対応技能検定(上級者編)の実技試験を受けているところだ。上空の隠しカメラから、私の一挙手一投足は審査員の厳しい目線に晒されている。10年前の私ならとっくに落第しているところだろう。しかし今の私は違う。

この試練は、日々本当に勉強になる。ダメージもある。けれども、きっとこれを乗り越えたら、これまで見えなかった視界が広がることだろう!きっと新しい自分になれるに違いない。

そうかこれか。これなのか!
今年は、私にとって12年で最高運気の年なのである。




昨日はとある取材の立ち会いがあり、久しぶりに「紫陽花の家」に足を運んできました。「紫陽花の家」は2015年の竣工なので、すでに7年ほど経っていることになります。早いですね、、。家が出来たと同時に生まれた双子の姉妹も、この家とともにすくすくと育っているようです。

この日の取材テーマが「食」に絡めたテーマだったこともあり、建て主さんには無理を言ってご家族でお昼を作って頂き、いただきますまでを写真に納めて頂きました。そんな食卓を私も隠れてパチリ!

この日は気候も外の光も申し分なく、そしてなによりご家族の幸せな食卓が神々しいくらいに眩しくて本当に感動しました。私は住宅の設計において、どの空間を最も重視するかと訊かれたら迷わずダイニングと答えます。リビングではなく、ダイニングが家族の中心であるべきだと思うからです。

リビングは団らんというより、くつろぎの空間であり、時に個に浸る空間ではないかと思っています。朝「おはよう!」と言って慌ただしく朝食を取る場所、休日のお昼に「午後どうする?」とか言いながら昼食を取る場所、そして今日あった出来事を食卓を囲んだ家族に聞かせる場所。それは家族が家族であることを認識できる唯一の場所ではないかと思います。

そんなダイニングを私は明るく豊かに作りたい。
なんだか私の思い描いた理想の空間に、7年越しに出会えたようなそんな気分になりました。やっぱり、住まいは家族の器なのだと思います。