
浴室に鏡をつけるか。設計打合せではこの問いに対して、「つける派」と「つけない派」はほぼ半々だ。
ちなみに我が家の浴室にも鏡がある。数年で白濁し、以降無用の長物となった。だから私は「つけても意味ない派」。
ところが知人のSNSの投稿ですごいアイテムを知った。「アルタクラフト超ハード」業務用のダイヤモンド研磨ブロック。なんだかすごく興味があって、早速買って試してみた。
これがすごいのなんの!
15年くらい曇りっぱなしだった鏡がピッカピカに。ホームセンターの研磨剤でも絶対落ちなかったのに。ダイヤモンドおそるべし、、!
うちの設計は浴室の出入口にもガラス扉をよく使うので、これは今後メンテナンスの切り札になりそう。実際うちのガラス扉もピッカピカになった。
これはオススメ!ちょっと高いけど効果は裏切りません。Amazonでも買えます。


諸事情あって、しばらくダイニングのレイヴィスカランプが使えなくなってしまったので、期間限定で他の照明を下げることになった。ほんの数ヶ月のことだから裸電球でも下げておこうかと思っていたところ、まさかのIKEAで出会ってしまった。
ここでIKEAの話をしたい。誤解を恐れずに言うと、私はIKEAが嫌いだ。あんなの北欧デザインでもなんでもない、ただのアメリカ的消費文化の象徴だと今でも思っている。あぁ、こんなこと書いていろんな人に怒られそうだけど、そう思っているから仕方ない。
そんなIKEA大嫌い人間が、自宅にIKEAの照明を下げる。これは革命的なことでもある。そのくらい、このKNAPPAという照明は優れている。これだけは認めざるを得ない。
この複雑な形状を作り出しているのは、ほぼ全て同じ形をした鱗型のセルシートとわずか8本の弓形のパーツ、そして上下2枚のリング。たったこれだけ。組み立ても実に簡単。これが、わずか20センチ四方くらいの小さな箱に入って売られている。これがこんな小さなパッケージに納まっているのがまずもって信じられない。
そしてお値段、¥2,499。嘘でしょ?これを優れたデザインと言わずしてなんと言おうか。悔しいけど、潔く負けを認めたい。

その昔川原で拾った異常に丸い石で、夏休み中に関守石を作りました。神々しいくらい丸い石なので、関守石にしても、やっぱり神々しいくらいの存在感です。
まだ子供が小さかった頃、川原で遊ばせていたらふとこの石に目が留まりました。ん?なんか丸い!?
全体には溶岩質のような多孔質の素材感なのですが、表面はすべすべで、まるで恐竜の卵のように形が左右対称になっています。川原では水に洗われて表面がすべすべの石はよくありますが、たいがい扁平だったり歪な形をしています。
かといって人工的に作られたような意志も感じられず、本当になんだろうという感じです。調べると、生き物の死骸の周りに砂などが結晶化してゆくノジュールと呼ばれる現象もあるようですが、ここまで整った形ではないようです。
今のところ謎すぎてよくわかりません。
我が家の守護神として、関守石にして祀りたいと思います。

留学中から使っていたアラビアのTEEMAの皿を、2枚あるうちの1枚を割ってしまった。TEEMAの皿は今も買えるけれど、現行品はIittalaのラベルになっていて個人的には興醒め。やっぱり陶器は(ブランド統合前の)アラビアのものに限る。
スタンプだけでなく、割ってしまったTEEMAは直径19.5cmのもので、このサイズも現行品にはないものだ。どうでも良いことかもしれないけれど、20年以上毎朝同じ皿を使っていると、少しだけサイズが違うというのはどうしても違和感になってしまう。朝のルーティンは重要なのだ。
そこから当時のTEEMA皿を探す旅が始まった。この19.5cmのアラビアのTEEMA皿というのはレアもののようでなかなか見つからない。このなかなかないというのも宝探しのようで楽しい。メルカリなどで見つけてはコツコツ買い足し、今では4枚にまで増えた。
しかし値段こそ言わないが、今では結構な値で取引されていることにびっくりする。当時はアラビア工場で数百円で売っていた皿だ。古いもの持ち続けていると、価値は上がる一方だというのをつくづく実感する。

禅問答に「富士山を三歩前に歩かせてみよ」というのがある。
富士山が歩くわけないじゃないか!と言ったら負け。禅問答はいつだってこんな調子でムチャ振りからはじまるのだ。思えば我々の仕事だっていつもそう。この模範回答のひとつに「自分が前に三歩歩けば良い」というのがある。私はこれがとても好きで、問題に行き詰まったらいつもこれを思い出す。相手が動かないなら、自分が動けばいいのだ。
小泉さんの仕事って、いつも禅問答みたいだなと思う。とんちの得意な一休さん。「この橋渡るべからず」だったら”端”を歩かず”真ん中”を歩けばいい、みたいな。切れ味鋭いとんちで、誰も解決できなかった問題をすっと引いた一本の線で解決してしまう。
解決したらなんとも当たり前の形で、それ以外のデザインなんてありえないと思えるくらいなのに、誰もそこには行き着けない。だから今もなお地方にはいろんな問題が山積している。
え、ズルい!そんなことしていいの!?
いいんです!だってルールは常に自分の中にあるものなのだから。もうちょっと柔軟に考えてみたら?小泉さんのデザインにはいつもそう語りかけられているように思えるのだ。
◇
そんな小泉誠さんの本が出た。
『小泉誠のものづくりの方程式|素材x技術=デザイン30 』
エクスナレッジ刊
出ると聞いてすぐに予約!届いてひらくと、本当に面白くてあっという間に読み終わってしまった。これまで全国各地のメーカーや職人さんと協働し、数え切れないほどのデザインや空間を生み出してきた小泉さんの、これまでのライフワークを網羅した一冊だと思う。
網羅したというのは、けしてこれまでの作品がすべて載っているという意味ではなく、小泉流の”禅問答”があらゆる切り口で紹介されているという意味において。
最初の問題提起から、現地に出向き、人と会い、素材と触れる中で発見に至り、最後は円満解決!という良くできた読切り小説を読んでいるようでもあって、一度読んだら最後までページをめくる手が止まらない。長町美和子さんによる文章の力もあるけれど、ここでもまた小泉マジックにかかってしまう。
私が小泉さんのデザイン手法で好きなのは、「人と人との接点でものを考える」ところ。頭でっかちなコンセプトではなく、現地に足を運び、いつも人との対話のなかに答えを見いだそうとする仕事のスタンスはとっても共感を覚える。いつも答えは人と人の間にしか存在しない。それは私も人生で経験的に学んできたことだ。
そして「短所は個性になる!」ということ。ダメなところを直すんじゃなくて、ダメだと思っているところが、実は長所でありいちばんの個性なんだという逆転の発想。
南部鉄器の銑鉄を使ったプロジェクトでは、鉄の持つ重さをいかに軽くするかではなく「重いんだから重いなりに、重くてよかったというものをつくればいいじゃないか」と、「どっしり動かないテープカッター」をつくりだす。思わず涙が出そうになるくらい優しいデザインアプローチだ。
◇
できあがるデザインはシンプルで美しく、さらにこの本で語られているような軽妙なデザインプロセスを読むと、読者は小泉さんはいつも飄々と、そして軽々と仕事を成し遂げている人のように思うかもしれないけれど、私は知っている。小泉さんはそんな簡単な人ではないということを。
この本の元となっているのは、全日空の機内誌『翼の王国』で2007年から2013年にかけて連載されていたものを再編集したものだという。しかも2020年に武蔵野美術大学を退官した際の退官記念書籍として刊行されたものだとも。でもどう考えても時制がおかしい。
すでにある過去の連載記事がベースにあるのであれば、どんなにのんびり編集したって半年で本になるはずだ。追加取材があったとしても1年もあればなんとかなる。
その本が今年、2024年にようやく刊行されたという事実こそが、小泉さんの仕事の真実なんじゃないかと私は睨んでいる。そうは問屋が卸さない!複雑怪奇なコイズミワールド。
だがしかし、刊行された本はどこまでも美しく、読みやすく、ところどころでクスッと笑えて、勇気をもらって、よしガンバルゾ~!ってなれる。途中に何があったかなんて関係ない。終わりよければ全てよし。これぞまさしくコイズミワールド!
こんな本、なかなかない。いやない!やっぱりすごいな小泉さんは。これからも元気をもらうために何度も読み返します。小泉さん、ご出版おめでとうございます!!


