吉報を頂きました。
タニタハウジングウェアさん主催の「屋根のある建築作品コンテスト」の住宅部門におきまして、「緩斜面の家」が優秀賞を受賞致しました。
◇
審査結果と審査評はこちらより
http://www.tanita-hw.co.jp/about/tanitacontest2017/result1.html
応募総数はなんと321点ということで、その中の3点に選んで頂けたということは大変光栄なことです。上記リンクでは、審査委員の伊礼さんからも光栄なお言葉を頂きました。どうもありがとうございました。
◇
うちの住宅は、正直コンテストやメディア向けではないと思っています。コンテストに入賞する住宅やメディアに載りやすい住宅というのは、コンセプトが分かりやすく徹底されているものが選ばれやすい傾向があると思います。
でも一方でコンセプトを分かりやすく徹底してゆくと、その”正論”からこぼれ落ちてゆく、割り切れない建て主の思いや矛盾も出てきます。人間は理屈で割り切れるほどわかりやすい生き物ではありません。私の設計はそういうものを細かく拾いあげてゆく設計なのだとよく思います。だから焦点はぼやけるし、わかりにくくなる。
でもいろんな諸条件や建て主の思いと世間の評価とが、ロイヤルストレートフラッシュのようにピタリと嵌まる瞬間もあるのです。こんなことは長く仕事をしていてもそうは多くないし、それを求めてもいけないと思っていますが、この「緩斜面の家」はそんな私のキャリアの中でも、特にいろんなことが嵌まった私の代表作であることは間違いありません。
緩斜面の家
https://www.riotadesign.com/works/13_kanshamen/#wttl
今回のそもそものきっかけとなっている建て主Mさんとの出会いに感謝すると共に、選んでくださった審査員の伊礼さん、堀さん、そしてタニタハウジングウェアの関係者の皆さまにも心より感謝致します。
突然額装された写真が届いた。送り主は古い友人である根津修平からだった。私の本の出版祝いにとのこと。彼らしい熱い長文のメッセージも添えられていた。
湖の彼方の森には塔のようなものが見える。普通であればこれが日本なのか、外国なのかすらも判別できる人はいないかもしれない。けれども私にはすぐにわかった。
場所はフィンランド中部、塔はアルヴァ・アールト設計によるムーラメの教会(1929)の先端だ。
しかもこれはどこから撮影されているかというと、ムーラッツァロにある「夏の家」と呼ばれるアールトの別荘の湖畔から。どうしてそれがわかるのかというと、それを教えたのは私だからだ。
◇
修平と出会ったのは17年前、留学していたヘルシンキでだった。彼はフリーの写真家で、お互い根無し草のような立場だったこともあり、すぐに意気投合して無二の親友となった。
お互いあり余る時間をもて余し、当時は二人でフィンランドの建築巡りをした。行き先は私が決めて、彼が写真を撮る。それに私がテキストを載せて、私のホームページに定期的にアップしていた。
https://www.riotadesign.com/FA/Fin_Arch.htm
こういうお金にもならないようなことばかりやっていたけれど、それが今にすべてつながっているような気もする。
私が創刊号の現地コーディネーターを務め、彼にも当時アシスタントとして協力してもらった「Xknowredge HOME」という雑誌はその後廃刊になってしまったけれど、あれから17年後、同じ出版社から自らの本を出すことになるとは誰が想像できただろう。
彼からの写真を見ていたらいろんなことを思い出してしまった。私の原点ともいえる写真。初心を忘れないよう、事務所の目立つところに飾っておきたいと思う。
17. 10 / 20
カフェmoiでのイベント終了!
author
sekimoto
category
> イベント
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昨晩、カフェmoiでのトークイベントが無事終了しました。小さな会場ながら、先週まで申込みが3人しかいないと脅かされていましたが、蓋を開けたらほぼ満席でホッとしました。
今回はカフェの常連さんが多いということで、いつもは封印している(触りしか話さない)フィンランドの話や、私にとって独立後の初仕事であるmoiの設計裏話など、思う存分話せて楽しかったです。
参加者が15人で本が10冊も売れました。編集者さんもびっくりです!ありがとうございました。
書籍の出版やトークイベントといったキラキラしたことばかりではなく、設計事務所を主宰するということは一方でとても重い責任を背負うことでもあります。
私は今年で独立して15年になりますが、それはある意味、独立して手がけてきた住宅が一斉に10年以上もの時間の洗礼を浴びてゆくことも意味します。最近では過去に手がけた住宅の改修や、ちょっとした”困った問題”についてのご相談を受けることも多くなってきました。
困った問題…。
ひとつはわかりやすく雨漏りですね。あってはならないこととはいえ、建築の仕事をしていたら避けては通れない問題です。経験のなさは、ある意味先鋭的な仕事を残す原動力にはなりますが、一方で…。
あの頃私は若かった、とばかりに言い訳をしていてもはじまりません。
雨漏り対応は本当に大変です。施工は一瞬ですが、そこにミスやボタンの掛け違いがあった場合、そのボタンをひとつひとつ掛け直してゆく作業は、途方もない手間と時間がかかります。我々も原因を究明するために、現場にも何度も何度も足を運ばなくてはなりません。
逆に言うと、この雨漏りを経験すると「もう絶対に嫌だ!」と思いますから、設計にも監理にもより一層注意を払うようになります。もちろん若い頃だって払っていましたよ。でもだめです。建築は圧倒的に経験がものを言うのです。
経験って何の経験だかわかりますか?ここでは失敗の経験のことを差します。
ちなみにこの案件、まだ原因特定に至っておりません。じわじわと犯人を追い詰めているのですが、「犯人は、、お前だ!」とやった後に冤罪が確定したりして、肩すかしが続いています。でも背中は見えているといったところでしょうか。
雨漏りだけではありません。今別件で対応しているのは床下の漏水です。ある日床下点検口を開けたら、床下が海のようになっていた…という恐ろしいケースです。
これはかれこれ半年がかりで対応を続けています。なかなか原因が掴めず、迷宮入りしかけていたのですが、ようやく糸口が掴めました。銅管です。
当時設備工事屋さんが給湯配管に銅管を使っていたようで、これが劣化してお湯を大量に漏らしていました。なぜ今までわからなかったかというと、配管が水に浸かっていて、漏れているかどうかが判別できなかったからです。
水をどう掻き出したかわかりますか?これはもう語りたくもないです。本当に、超~大変だったんですから!だからここでも誓いました。床下なめたらいかんと。皆さん、ちゃんと床下にも潜れる設計にしないとダメですよ!
現在この二つの難事件が、私の中では新規の設計や進行中の現場案件と同じくらいのウェイトで占められています。
この事件を難事件にしている要素がもうひとつあります。それは、当時施工した工務店にお願いできなくなっているという点です。一社はこの10年で倒産してしまいました。もう一社は、工務店の方が高齢化し、機動力のある動きをしてもらえなくなってしまったということがありました。
最初の工務店がやらかした不始末を、好んで対応する工務店などなかなかいるものではありません。実際、後者の住宅でも何社も対応を断られました。でもいるんですね、請けて下さるところが。
こういうのを神対応というのだと思います。ようやく素晴らしい後継の工務店と巡り会うことが出来て、事件は少しずつ解決に向かっています。H建設さん、D工務店さん、本当にありがとうございます!
だから今つくづく思うのです。
当時は予算が厳しくて、背に腹変えられず、相見積もりをして一番安い工務店にすがる思いでお願いしたりしていましたが、そういう現場はことごとくトラブルが頻発したりして、その後の対応も何度連絡しても来てくれないとか、そんなことが続いてクライアントを怒らせてしまった家もたくさんあります。
工務店は大事です。予算オーバーをすると、見積り調整の時はなかなかそんな気持ちになれませんが、少し高くても、良心的な信頼の置ける工務店にすべきです。なんといっても家は一生ものですから!
そしてもう一つはクライアントとの信頼関係ですね。工務店の対応が神なら、クライアントの対応も神です。本来なら「訴えてやる!」とばかりの叱責を受けそうですが、寛容にこちらにもお気遣いを下さいます。
そんなとき、10年という生活の時間と当時の設計プロセスは、一部にエラーはありましたが、あながち間違ったものではなかったのではないかと救いを感じる瞬間だったりするのです。
ともあれ、設計スキルが飛躍的に伸びるのは、書物からではなく、こうしたリアルな実地体験からだったりします。クライアントさんには申し訳ない思いですが、今もなお大変貴重な勉強をさせて頂いています。
私は今年で独立して15年になりますが、それはある意味、独立して手がけてきた住宅が一斉に10年以上もの時間の洗礼を浴びてゆくことも意味します。最近では過去に手がけた住宅の改修や、ちょっとした”困った問題”についてのご相談を受けることも多くなってきました。
困った問題…。
ひとつはわかりやすく雨漏りですね。あってはならないこととはいえ、建築の仕事をしていたら避けては通れない問題です。経験のなさは、ある意味先鋭的な仕事を残す原動力にはなりますが、一方で…。
あの頃私は若かった、とばかりに言い訳をしていてもはじまりません。
雨漏り対応は本当に大変です。施工は一瞬ですが、そこにミスやボタンの掛け違いがあった場合、そのボタンをひとつひとつ掛け直してゆく作業は、途方もない手間と時間がかかります。我々も原因を究明するために、現場にも何度も何度も足を運ばなくてはなりません。
逆に言うと、この雨漏りを経験すると「もう絶対に嫌だ!」と思いますから、設計にも監理にもより一層注意を払うようになります。もちろん若い頃だって払っていましたよ。でもだめです。建築は圧倒的に経験がものを言うのです。
経験って何の経験だかわかりますか?ここでは失敗の経験のことを差します。
ちなみにこの案件、まだ原因特定に至っておりません。じわじわと犯人を追い詰めているのですが、「犯人は、、お前だ!」とやった後に冤罪が確定したりして、肩すかしが続いています。でも背中は見えているといったところでしょうか。
雨漏りだけではありません。今別件で対応しているのは床下の漏水です。ある日床下点検口を開けたら、床下が海のようになっていた…という恐ろしいケースです。
これはかれこれ半年がかりで対応を続けています。なかなか原因が掴めず、迷宮入りしかけていたのですが、ようやく糸口が掴めました。銅管です。
当時設備工事屋さんが給湯配管に銅管を使っていたようで、これが劣化してお湯を大量に漏らしていました。なぜ今までわからなかったかというと、配管が水に浸かっていて、漏れているかどうかが判別できなかったからです。
水をどう掻き出したかわかりますか?これはもう語りたくもないです。本当に、超~大変だったんですから!だからここでも誓いました。床下なめたらいかんと。皆さん、ちゃんと床下にも潜れる設計にしないとダメですよ!
現在この二つの難事件が、私の中では新規の設計や進行中の現場案件と同じくらいのウェイトで占められています。
この事件を難事件にしている要素がもうひとつあります。それは、当時施工した工務店にお願いできなくなっているという点です。一社はこの10年で倒産してしまいました。もう一社は、工務店の方が高齢化し、機動力のある動きをしてもらえなくなってしまったということがありました。
最初の工務店がやらかした不始末を、好んで対応する工務店などなかなかいるものではありません。実際、後者の住宅でも何社も対応を断られました。でもいるんですね、請けて下さるところが。
こういうのを神対応というのだと思います。ようやく素晴らしい後継の工務店と巡り会うことが出来て、事件は少しずつ解決に向かっています。H建設さん、D工務店さん、本当にありがとうございます!
だから今つくづく思うのです。
当時は予算が厳しくて、背に腹変えられず、相見積もりをして一番安い工務店にすがる思いでお願いしたりしていましたが、そういう現場はことごとくトラブルが頻発したりして、その後の対応も何度連絡しても来てくれないとか、そんなことが続いてクライアントを怒らせてしまった家もたくさんあります。
工務店は大事です。予算オーバーをすると、見積り調整の時はなかなかそんな気持ちになれませんが、少し高くても、良心的な信頼の置ける工務店にすべきです。なんといっても家は一生ものですから!
そしてもう一つはクライアントとの信頼関係ですね。工務店の対応が神なら、クライアントの対応も神です。本来なら「訴えてやる!」とばかりの叱責を受けそうですが、寛容にこちらにもお気遣いを下さいます。
そんなとき、10年という生活の時間と当時の設計プロセスは、一部にエラーはありましたが、あながち間違ったものではなかったのではないかと救いを感じる瞬間だったりするのです。
ともあれ、設計スキルが飛躍的に伸びるのは、書物からではなく、こうしたリアルな実地体験からだったりします。クライアントさんには申し訳ない思いですが、今もなお大変貴重な勉強をさせて頂いています。
さて、今回会場となった書店、ブックスキューブリックさんについても少し書きたいと思います。
今回の会場はエクスナレッジさんが決めて下さったものですが、博多にありながら書店業界では全国にその名を知られる有名書店とのこと。建築で例えれば、鹿児島にありながら全国にその名を知られる工務店、ベガハウスさんのようなものかな?
そのキューブリックのオーナー大井実さんも当日いらしていて、私の著書と引き換えに、ご自身の著書もプレゼントして下さいました。
ローカルブックストアである福岡ブックスキューブリック
http://amzn.asia/2mGswnN
こちらを帰りのフライトでじっくり読ませて頂きました。まだ読了はしていないのですが、すでに心の中では「しまった!」と後悔がはじまっています。
この本、とっても面白くて、できれば行く前に読んでおきたかったです。大井さんの取り組みや志のようなものに触れて、とても共感すると共に、僭越ながら私のこれまでの経歴とも重なるところもあり、事前に読んでいれば当日もっとお聞きしたかったことや、お話ししたかったこともいろいろありました。
またこの日ご案内下さった花山という屋台は、過去には角田光代さんなどを招いてのブックイベントで打ち上げを行った場所とのことで、この辺りのエピソードも著書に書かれています。大井さんの著者との打ち上げを大切にする考えなども読み、なんだか漫然と打ち上げに参加してしまったことも少し反省しています。
◇
以下はちょっとまじめに。
今回あらためて思ったのは、人との一期一会ということについてです。
私もけして人との出会いを疎かにしているつもりはありませんが、またいつでもお会いできる方々とは違い、こうした地方のイベントではその時その場所が全てで、中にはなかなかもうお会いする事のない(かもしれない)関係者も多くいらっしゃいます。
来場者もそうだと思うんですね。私のことをよく知って下さっている方なら、そういう素地の上に私を見てくれますが、そうではない方との限られた時間で、どれだけ相手の心を打つことができるかというのはとても大切なことだと思うのです。
最近はこういうイベントにひっぱりだこになってきて、私はそれをとても光栄なことだと思っているのですが、一方では私が場慣れしてきてしまっているということも、自分の中では問題意識も持ちつつあります。
聞いている方にとっては流れるような話のほうが聞きやすいとは思いますが、例えば大学の授業を聞いていると無性に眠くなるという経験はないでしょうか?時には朴訥な話し方の方が人の心を打つこともあります。
だから慣れって怖いな、と思うのです。これからも丁寧に、足を運んで下さる方のためにも言葉を選び、一期一会を心がけたい。これはもちろん設計においてもそうですね。今回なお一層、そんなことを思いました。
今回のイベントでセッティングに奔走して下さいましたエクスナレッジの皆さま、一緒に登壇して下さいました横関さん、そして会場をご提供くださり、このような気付きを与えてくださいましたキューブリックの大井さんには、この場をお借りして深く御礼申し上げたいと思います。
皆さまお疲れさまでした。そしてありがとうございました。
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