保険のCMなどで「人生設計」という言葉をよく聞く。
大学を出て就職し、結婚そして夢のマイホーム。そんなあなたにはこんな保険。はたしてそんなシナリオ通りの人生などあるのだろうか?
しかし建て主と打合せをしていると、私はよくこの「人生設計」という言葉がよく頭に浮かぶ。我々が行っているのは単なる間取りの設計ではなく、その方の人生の設計そのものではないかと思うのだ。
建て主にとって「家を建てる」ということはどういうことか、ということをいつも考える。そのパートナーとして我々を選んだという意味についても同様に。
家づくりをする上で最も大切なことは、これから自分たちが「どういう暮らしをしてゆきたいか」ということで、それはその人が「どう生きてゆきたいか」ということでもある。いわば、建て主の「こうありたい、こうなりたい」を形にするのが家づくりの本質であると思う。
ところが、往々にして「これまでがそうであったから、これからもそうだろう」という過去の経験からの未来予測が、住宅の計画を支配してしまう。
だから我々はその方達の「どうしたいか」を拾い上げながら、「こうあるべき」を説き、「こうなりたい!」につなげてゆかなくてはならない。勇気を持って、建て主の背中を押してゆかなくてはならないと思う。
建て主は家を建てることによって生まれ変わるのだ。ヒアリングは単なるアンケート調査ではない。ところが世間一般では、建て主のご要望をそのまま聞くことが、建て主に寄り添うことのように思われている気がしてならない。
よほど自己プロデュース能力に長けた建て主ならば、相手に正確に自分たちの「こうありたい」を表現することが出来るだろう。でも実際には「どう表現してよいかわからない」というケースがほとんどではないだろうか。それを引き寄せて、言葉にならない空気のようなふわふわしたものに輪郭を与える、それこそが設計ではないかと思う。
目の前の精緻に描き込まれた図面は、その方の人生設計そのものだ。日々の食事がその人の体をつくるように、日々の生活がその人の人生をつくる。
自分たちの「こうありたい、こうなりたい」を具体的な形で表現できた人は、それからの人生でも具体的なビジョンが描けるようになるだろう。無理だろうと思っていたことが実現できた人は、これからも自分を信じることができるようになるに違いない。
私もそうして生きてきたから、間違いないと思う。
家づくりは人生そのものなのだ。
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