14. 02 / 02

建設受難の時代

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sekimoto

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> 社会


建設受難の時代がやってきた.

肌で異変を感じ始めたのは,一昨年ごろからだ.とある現場で型枠大工がいないという問題で,工期が延びて先行きが見えないということがあった.

これまでのキャリアで,型枠大工がいないなどあり得ないことで,何かの間違いだろうと思ったのだけれど,実際調べると深刻で,同様の問題があちこちで起こっていた.型枠大工がいないとコンクリートが打てない.住宅でも基礎が打てなければ話にならない.

型枠大工の不足は今もなお深刻だ.でもそれだけではない.今建築業界はあらゆる職人が危機的に不足している.住宅の現場では心臓を担う大工さんもいない.内装業者も不足している.設備業者も手薄になっている.

原因の背景にあるのは,短期的には消費増税による駆け込みももちろんあるのだけれど,構造的に高齢化した職人がどんどん廃業し,若い職人が育っていなかったり,東北の復興に取られてしまっているという事情もあるようだ.

加えて,今資材がガンガン値上がりしている.そして不足もしている.

合板や断熱材がないといった震災直後のような状況に加えて,耳を疑うのは柱や土台に使う桧や杉も不足しているということ.かつて,日本の建築の歴史において,木造の柱や土台がないなどということがあっただろうか.もちろん,これも短期的には消費増税による駆け込みもあるけれど,日本の林業の衰退,そして投機目的で意図的に木材を買い占めたり出し惜しんでいるという,嘆かわしい背景もその構造にはあると言われている.

うちの事務所で現在進んでいる現場もまた,深刻な工程遅延に悩まされている.この流れを読み切れていなかった工務店にも非はあるだろうが,話はそう単純ではない.

先日聴きに行ったとある建築家の講演会でも,設計は終わっているのに,職人がいなくて未だに着工することすらできない住宅があるとおっしゃっていた.金額の問題ではなく,今本当に大工さんがいないのだ.あぁ同じ問題だと思った.

先日見た報道では,安藤忠雄さん設計による小中学校も,同様の背景から,着工はおろか見積りの入札すら入らず,業者が辞退してしまう事態が続いているという.もちろん安藤さんだけではなく,現在全国的にこの問題は広がっている.

[安藤忠雄さん設計の校舎、入札不成立3度の事情]
2014年1月29日 YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140129-OYT1T00551.htm

先に消費増税の影響と書いたが,では4月以降は解消されるのかと問われたら,私は楽観できないと思う.なぜなら来年10月には消費税が再び上がる可能性もあるし,東京オリンピックも決まった.2020年に向けて,都内では数年後から空前の建設ラッシュがはじまるのが目に見えているからだ.

今設計のご相談に見えている方には,数年前まではかろうじて可能だった厳しい予算帯の住宅も,今は悲観的なお伝えの仕方をせざるを得ない状況にある.資材に加えて職人の労務費も高騰し,どこを見渡しても楽観できる要素がないのだ.

それでも,「いつが建て時か?」と問われれば「今しかない」となる.
理由は前述の通りである.我々もとにかく目の前の仕事に全力投球するほかないのだ.

景気が上向きになったからといって浮かれているのはごく一部の人たちだ.現場はそれどころではない.本来の「ものづくり」の本質とはかけ離れた場所で起こっている現在の社会状況と,それがしばらく続くであろう見通しに,私はつい暗い気持ちになってしまうのだった.

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sekimoto

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> 仕事
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新年早々,素晴らしいお知らせを頂きました.
2012年に竣工した『DONUT(K邸/ふじみ野市)』が,
東京ガス「住まいの環境デザインアワード2014」において,

[環境デザイン優秀賞]を受賞しました!
http://www.gas-efhome.jp/prize/index.html

とっても嬉しいです!クライアントのKさん,施工してくださった堀尾建設さん,その他大勢の家づくりを支えてくださった関係者の皆さま,アワード関係者の皆さま,誠にありがとうございました.心より御礼申し上げます.

実はこの東京ガス主催の「住まいの環境デザインアワード」には,もう何年も前から応募しているのです.実は我が自邸「OPENFLAT」でも応募していましたが,かすりもしませんでした(苦笑).本当に上位入賞が難しい賞で,落選した年も入賞作を見るとがっくりとうな垂れるしかありません.そんなレベルの高いアワードなのです.

今年の応募点数はなんと198点!さすがにグランプリや最優秀賞は逃しましたが,それでも上位6点に入ったことは,個人的には快挙として素直に喜んでいます.

実は私のクライアントには東京ガス関係者もいらっしゃり,毎年のように応募を促されていました.ただ,落選があまりに続くと人間はヘコむもので,今回も正直出そうかどうか迷ってもいました.

先にレベルが高いと書きましたが,個人的な印象としてこのアワードの上位入賞の傾向には,どうも「特異な敷地や環境条件を相手に,高度な温熱環境テクニックを駆使した住宅」という印象(偏見?)があって,そういう飛び道具を使わない「フツーの住宅」代表選手のようなうちの仕事は,とても評価してもらえないだろうと諦めてもいたのです.

でも諦めなくてヨカッタ!毎年励ましのお言葉とお声がけをくださったクライアントAさんにも,心から感謝しています.


審査のウラ話を書きます.
このアワードは二段階の審査になっていて,一次は書類審査,二次は現地審査です.一次審査通過の連絡を11月に頂き,12月に現地に審査員の宿谷昌則先生と建築家の千葉学さんがお見えになりました.


千葉学さんなどは,私が駆け出しの頃から第一線を走り続けているスター建築家です.千葉学さんにまさか自作を案内することになるとは思わなかったので,当日は相当緊張していました(クライアントのKさんは全然そう見えなかったそうですが笑).

実は当日灯油のストーブが置いてあったんですね.
今だから言いますが,ちょっとまずいんじゃないかと思いました.だって,後からストーブを置かなくても良いように設計するのが環境デザインだと言われたら,リビングに置かれた灯油ストーブは設計に失敗した象徴として見られないだろうか.そう頭によぎりました.

でもここで意図的に撤去したら何か嘘になるような気がして,そのままで審査に挑もうと腹をくくりました.案の定,審査員の目に留まり,なぜ灯油のストーブを置いているのかと質問されました(万事休すか).すると,クライアントのKさんはこともなげにこうおっしゃったのです.

「この家はとっても断熱性能が良く,陽当たりも抜群なので暖房はほとんどいらないんです.冬期エアコンをつけたこともないし,実は床暖房もつけてもらったんですけどスイッチを入れたこともないんです.だから朝30分だけ灯油ストーブをつけています.前の家で使っていたもので捨てるのがもったいないからです.そもそもエネルギーは電気だけとか,ガスだけという具合に限定しないほうがいいと思うんです.当時東北で体験した地震でもそう思いました.だから,それぞれのエネルギーの良さを活かした生活をしたいと思うんです」

これには関係者一同,大きく頷くほかありませんでした.本当にその通りですね.このKさんの素晴らしいプレゼンに大いに救われたような気がします.そう,飛び道具ではなく「フツー」の,生活者目線での環境デザイン.それはもはやデザインと呼べるものですらないのかもしれませんが,この住宅の魅力を過不足なく言い得ていたように思います.

これはちょっと後日立ち話で関係者からお聞きしたことですが,この「気負いのないクライアントの自然体の環境意識と,それに誠実に寄り添う建築家との関係性を見たことがとても印象的だった」とのこと.まさに幸運の灯油ストーブですネ.(もちろん,それだけじゃないでしょうが笑)

この日は審査が終わってからもKさんとずいぶん長く話し込んでしまいました.
この家に生活されてのあれこれ.本当にこの家を気に入って下さっていることが,会話の端々から伝わってきてとても幸せな一日となりました.まさに設計者冥利に尽きるとはこのことです.

さて,この勢いに乗って今年もバリバリいきますよ!

[DONUT]
https://www.riotadesign.com/works/12_donut/


13. 12 / 28

棚おろし

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さて昨日は仕事納めでした.

いつも通りの仕事と,最後にちょっとお掃除をして今年の仕事が終わりました.事務所も10年を越えてくると,なにかと垢が溜まってくるものです.この年末はそんな一部を棚卸しして整理をしています.

写真は本棚に入りきらなくなった建築雑誌を大放出の図.みんな勉強熱心ですね.見て下さいこの嬉しそうな顔.おかげでこちらはだいぶ捌けました.

そして長年埃をかぶっていた独立以来のノート群も棚卸し.初期プランを検討するためのエスキース帳もそうなんですが,独立して以来頑なに同じものを使い続けています.

頑なといっても,今のところこれを上回る使い勝手のものがないというだけのことなのですが,10年以上も使い続けられるものに最初に出会えたのもラッキーですし,廃番にしないで変わらず売り続けて下さっている製造メーカーの方にも感謝です.


数えたら,エスキース帳が22冊,ノートが17冊でした.
開けば今でも当時にタイムスリップすることができます.

中でも傑作だったのは,独立当時のノートに記されたリオタデザインのロゴマーク笑.きっと念願の独立に胸を躍らせていた時期だったのでしょうね.なんだか,当時の青かった自分を微笑ましく思ってしまいました.

13. 12 / 23

パンドラの箱

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sekimoto

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> 仕事
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溢れる書類をなんとかしようと、つい出来心で開けてしまったパンドラの箱。
10年ほど前、独立当時のプロジェクトファイルが入ったダンボール。当時ろくに整理もしないまま放り込んでいたのが逆に生々しく、思わず「うぎゃっ!」となってしまいました。

もう全力で消し去りたいものばかり。全力でなかったことにしたい。
見込みがないのに何度もプレゼンしてやっぱりダメだった案件。見下されて悔しくてプレゼン中に涙が出てきた案件。電話で大げんかしてそれきりになった企業。苦労ばかりでお金なんてほとんどもらえなかったプロジェクト。もう、そんなんばっかです。

あーもう破棄破棄!わーわーわー(耳をふさぎながら)

仕事がなかったから卑屈になっていたんでしょうね。本意ではないこともいろいろやりました。悔しくても頭を下げました。よくもまあ「独立当時はお金はなかったけど楽しかった」なんて言ってたもんです。思い出しました。楽しくなんてなかった。本当につらかった。毎日生きるのに必死だった。あの頃の思いが缶詰の蓋をあけたように溢れ出してきました。

思い出は美化されるから人は生きてゆけるんですね。もう二度とあの頃には戻りたくない。あんな時代もあったのに、よくもまあ今までやってこれたものです。

10年前の自分へ。あなたは今でも生きています。そして仕事は楽しく、幸せな人生を歩んでいます。がんばったな今の自分。よくやった今の自分。

13. 12 / 22

柿の木移植

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都内某所の計画。ビルの谷間に窮屈そうに伸びる柿の木。でも昔は隣にはビルなんてなくて、2階建ての家だったそうです。70になるお父さんが小さい頃に苗木で買ってきたこの木は、毎年美味しい柿を実らせてきたとのこと。この日は耕水の湊さんに、計画にかかるこの柿の木をなんとか移植できないかのご相談。

柿の木は移植が難しいとされています。活着の可能性は20%もないかもしれません。けれどもこれが我が子なら、万が一にも助かる見込みがあるなら誰しもその可能性に賭けることでしょう。執刀医の湊さんからも大変難しい手術(オペ)になる旨の説明がありました。皆祈るような気持ちで見守ります。