
先週末は小平にある武蔵野美術大学(通称ムサビ)の学園祭に行ってきました。ムサビは我が母校でもあります。ウソです。私の出身校は日大です。
美大は私の憧れです。一般的に建築を目指すには、美大系か工学系かに分かれます。私は日大の理工学部に進学しました。特に理系科目が得意だったわけではなく、建築をやりたいから理系に進んだわけですが、どうしてそこで美大に進もうと思わなかったのか、今から思うと不思議でなりません。
きっと、自分にはそこまでの美術の才能はないと当時の自分なりに思っていたのかもしれません。あるいは、美大卒では食えないだろうと現実的に考えたのかもしれません。
ところが大学に進んですぐに思いました。美大に行けば良かったと。
私は工学系の授業が大嫌いだったのです。ずっとデザインのことだけを考えていたかった。今ではそれが叶ってこんな仕事をしていますが、やりたいことだけしかやりたくないという性格は、大学で工学系の単位を落としまくるという形で私に試練を与えました。
だから今でも、美大や藝大出身の建築家に会うと憧憬の念に駆られます。一方の彼らは彼らで、工学系に弱く、建築士試験などでは苦労をしたそうですが。でもそれは同じです。私も工学系はサッパリなのですから。
ムサビの学園祭は最高に楽しい学園祭でした。理系の地味な学園祭には在学中一度も参加したことがなかったので、あんなにも学生が輝いている姿を見るのはとても新鮮で、眩しく思えました。
息子も本当に楽しかったようです。そこには彼の興味の中心にあるものが全て揃っていました。しかもどれもが高いレベルで。美大に行くかどうかは彼の自由ですが、彼の全てを受け入れる世界がここにはあるんだということを教えてあげたいです。
常識やしがらみから離れ、美術は人を自由にしてくれます。

150918・朝日新聞
1.隈研吾x梓設計x大成建設
2.伊東豊雄x日本設計x竹中・清水・大林JV
3.ザハ・ハディドx日建設計x?
仕切り直しとなった新国立競技場の公募に、応募者がほぼ出揃いましたね。
記事の見出しに「新国立公募に大成」とあります。
なんで大成がそんなにフューチャーされるかというと、旧計画でも関わっていたゼネコンのうち、一番作業員や資材などの動員力があるからなんですね。
今回の公募は金額もさることながら、人材や資材の調達力が問われています。つまり大成の動向を、業界は固唾をのんで見守っていたわけです。その山が動いた。
そして梓は、旧計画の設計JVの中では超大手の日建設計・日本設計の影に隠れていましたが、実はすごい実力を持っています。旧設計JVの中では、フィクサー的な動きをしていたとも言われています。
そこにきて隈研吾さんなわけです。
持っていくな-、と正直思いました。隈さんが持っていったというより、大成x梓が獲りに行った、もっと言うと「置きに行った」といったところでしょうか。しかし悔しいかなこの布陣、この中では間違いなく大本命でしょうね。
そして伊東豊雄さん。
今国内では名実共に最強の建築家。なによりイメージがいいです。そしてゼネコンチームに業界の雄、竹中を擁しています。強い、これは強いです。先ほどの裏事情を知らずに居並ぶ名前だけを見たら、大本命はこちらと目されてもおかしくありません。
しかし、まだ何が起こるかわかりませんよ?
そしてザハです。一度は王位につきながらも失脚し、もう立ち上がれないだろうと思わせておきながら、またやってきました。まさに不死鳥。正確に言うと日建設計からの熱いオファーに応えた形のようです。ザハ本人も言っているように、この2年間の蓄積は伊達ではありません。
旧計画では、日本側の盛りだくさんすぎる要望に図体ばかり大きくなってしまいましたが、本来のザハの実力はこんなもんじゃありません。今回大きなプログラムの見直しがありましたので、きっと体脂肪をロッキー並みに絞って、再び鮮烈な案を示してくれることでしょう。
しかし痛いのは、大手ゼネコンに一斉にそっぽを向かれてしまったことです。ゼネコンはシビアです。負けた将には用はないとでも言わんばかり。
私はザハ・日建は竹中と組むだろうと予想していました。ところが竹中は伊東さん側に付いた。義理・打算・裏切り・・。さながらリアル三国志を見ているかのようです。
一体誰が勝つのか、最後まで目が離せません。要するにこれなんですね、旧計画になかったのは。布陣を公開したわけですから、ここからの審査も可能なかぎりガラス張りでやってほしいものです。
いっそ東京ドームでやってくれたら、観戦に行くのになあ!
※追記
その後ザハ・チームが応募を断念したとの報道がありました。結局組む相手(ゼネコン)が見つからなかったということですね。残念なニュースでした。
建設受難の時代がやってきた.
肌で異変を感じ始めたのは,一昨年ごろからだ.とある現場で型枠大工がいないという問題で,工期が延びて先行きが見えないということがあった.
これまでのキャリアで,型枠大工がいないなどあり得ないことで,何かの間違いだろうと思ったのだけれど,実際調べると深刻で,同様の問題があちこちで起こっていた.型枠大工がいないとコンクリートが打てない.住宅でも基礎が打てなければ話にならない.
型枠大工の不足は今もなお深刻だ.でもそれだけではない.今建築業界はあらゆる職人が危機的に不足している.住宅の現場では心臓を担う大工さんもいない.内装業者も不足している.設備業者も手薄になっている.
原因の背景にあるのは,短期的には消費増税による駆け込みももちろんあるのだけれど,構造的に高齢化した職人がどんどん廃業し,若い職人が育っていなかったり,東北の復興に取られてしまっているという事情もあるようだ.
加えて,今資材がガンガン値上がりしている.そして不足もしている.
合板や断熱材がないといった震災直後のような状況に加えて,耳を疑うのは柱や土台に使う桧や杉も不足しているということ.かつて,日本の建築の歴史において,木造の柱や土台がないなどということがあっただろうか.もちろん,これも短期的には消費増税による駆け込みもあるけれど,日本の林業の衰退,そして投機目的で意図的に木材を買い占めたり出し惜しんでいるという,嘆かわしい背景もその構造にはあると言われている.
うちの事務所で現在進んでいる現場もまた,深刻な工程遅延に悩まされている.この流れを読み切れていなかった工務店にも非はあるだろうが,話はそう単純ではない.
先日聴きに行ったとある建築家の講演会でも,設計は終わっているのに,職人がいなくて未だに着工することすらできない住宅があるとおっしゃっていた.金額の問題ではなく,今本当に大工さんがいないのだ.あぁ同じ問題だと思った.
先日見た報道では,安藤忠雄さん設計による小中学校も,同様の背景から,着工はおろか見積りの入札すら入らず,業者が辞退してしまう事態が続いているという.もちろん安藤さんだけではなく,現在全国的にこの問題は広がっている.
[安藤忠雄さん設計の校舎、入札不成立3度の事情]
2014年1月29日 YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140129-OYT1T00551.htm
先に消費増税の影響と書いたが,では4月以降は解消されるのかと問われたら,私は楽観できないと思う.なぜなら来年10月には消費税が再び上がる可能性もあるし,東京オリンピックも決まった.2020年に向けて,都内では数年後から空前の建設ラッシュがはじまるのが目に見えているからだ.
今設計のご相談に見えている方には,数年前まではかろうじて可能だった厳しい予算帯の住宅も,今は悲観的なお伝えの仕方をせざるを得ない状況にある.資材に加えて職人の労務費も高騰し,どこを見渡しても楽観できる要素がないのだ.
それでも,「いつが建て時か?」と問われれば「今しかない」となる.
理由は前述の通りである.我々もとにかく目の前の仕事に全力投球するほかないのだ.
景気が上向きになったからといって浮かれているのはごく一部の人たちだ.現場はそれどころではない.本来の「ものづくり」の本質とはかけ離れた場所で起こっている現在の社会状況と,それがしばらく続くであろう見通しに,私はつい暗い気持ちになってしまうのだった.
肌で異変を感じ始めたのは,一昨年ごろからだ.とある現場で型枠大工がいないという問題で,工期が延びて先行きが見えないということがあった.
これまでのキャリアで,型枠大工がいないなどあり得ないことで,何かの間違いだろうと思ったのだけれど,実際調べると深刻で,同様の問題があちこちで起こっていた.型枠大工がいないとコンクリートが打てない.住宅でも基礎が打てなければ話にならない.
型枠大工の不足は今もなお深刻だ.でもそれだけではない.今建築業界はあらゆる職人が危機的に不足している.住宅の現場では心臓を担う大工さんもいない.内装業者も不足している.設備業者も手薄になっている.
原因の背景にあるのは,短期的には消費増税による駆け込みももちろんあるのだけれど,構造的に高齢化した職人がどんどん廃業し,若い職人が育っていなかったり,東北の復興に取られてしまっているという事情もあるようだ.
加えて,今資材がガンガン値上がりしている.そして不足もしている.
合板や断熱材がないといった震災直後のような状況に加えて,耳を疑うのは柱や土台に使う桧や杉も不足しているということ.かつて,日本の建築の歴史において,木造の柱や土台がないなどということがあっただろうか.もちろん,これも短期的には消費増税による駆け込みもあるけれど,日本の林業の衰退,そして投機目的で意図的に木材を買い占めたり出し惜しんでいるという,嘆かわしい背景もその構造にはあると言われている.
うちの事務所で現在進んでいる現場もまた,深刻な工程遅延に悩まされている.この流れを読み切れていなかった工務店にも非はあるだろうが,話はそう単純ではない.
先日聴きに行ったとある建築家の講演会でも,設計は終わっているのに,職人がいなくて未だに着工することすらできない住宅があるとおっしゃっていた.金額の問題ではなく,今本当に大工さんがいないのだ.あぁ同じ問題だと思った.
先日見た報道では,安藤忠雄さん設計による小中学校も,同様の背景から,着工はおろか見積りの入札すら入らず,業者が辞退してしまう事態が続いているという.もちろん安藤さんだけではなく,現在全国的にこの問題は広がっている.
[安藤忠雄さん設計の校舎、入札不成立3度の事情]
2014年1月29日 YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140129-OYT1T00551.htm
先に消費増税の影響と書いたが,では4月以降は解消されるのかと問われたら,私は楽観できないと思う.なぜなら来年10月には消費税が再び上がる可能性もあるし,東京オリンピックも決まった.2020年に向けて,都内では数年後から空前の建設ラッシュがはじまるのが目に見えているからだ.
今設計のご相談に見えている方には,数年前まではかろうじて可能だった厳しい予算帯の住宅も,今は悲観的なお伝えの仕方をせざるを得ない状況にある.資材に加えて職人の労務費も高騰し,どこを見渡しても楽観できる要素がないのだ.
それでも,「いつが建て時か?」と問われれば「今しかない」となる.
理由は前述の通りである.我々もとにかく目の前の仕事に全力投球するほかないのだ.
景気が上向きになったからといって浮かれているのはごく一部の人たちだ.現場はそれどころではない.本来の「ものづくり」の本質とはかけ離れた場所で起こっている現在の社会状況と,それがしばらく続くであろう見通しに,私はつい暗い気持ちになってしまうのだった.
とある計画で,土地を買ったクライアントより「不動産取得税の軽減措置」のための必要書類について問合せを受けた.不動産取得税の軽減措置というのは,土地を取得してから3年以内に住宅を新築すると,土地の減税措置が得られるというもの.
ところが問題はここからはじまる.
クライアントによると,都税事務所からは地方税法73条にもとづき,これらの手続きは土地を取得後30日以内にやらなければならず,しかもその際の提出書類には平面図に加え,確認申請書と工事契約書が必要になると言われているのだという.
ちょっと待ってください.
都税事務所の要求を言い換えるとこういうことになる.
「土地を買ったら1ヶ月以内に,設計を完了し,確認申請を下ろし,工務店と契約して,書類を提出しなくてはならない」
実際には確認申請にももろもろ2週間くらいかかるし,工事見積りだって2~3週間はかかる.確認申請と工事見積り・契約を同時に進めたとして,差し引くと「設計は土地取得後1~2週間以内にはすべて完了しなくてはならない」ことになる.
こんな馬鹿な話ってあるだろうか.
ただ巷にはこういう話は事欠かない.例えば銀行.
銀行に至っては住宅ローンを組む場合,土地の取得時に銀行への提出書類として「図面と工事見積書」が求められる.つまり土地を取得すらしていないのに,そこにはすでに図面が存在していて,工務店が決まっていて,見積書まで揃っている必要があるのだ.
トータルするとこういうことになる.日本では官民あげて,
「住宅を建てる際は,建て売り住宅かハウスメーカーでなくてはならない」
(設計事務所?へぇ,おたく変わってますね)
これっておかしくないですか?
どうして問題にならないのだろう?
ところが問題はここからはじまる.
クライアントによると,都税事務所からは地方税法73条にもとづき,これらの手続きは土地を取得後30日以内にやらなければならず,しかもその際の提出書類には平面図に加え,確認申請書と工事契約書が必要になると言われているのだという.
ちょっと待ってください.
都税事務所の要求を言い換えるとこういうことになる.
「土地を買ったら1ヶ月以内に,設計を完了し,確認申請を下ろし,工務店と契約して,書類を提出しなくてはならない」
実際には確認申請にももろもろ2週間くらいかかるし,工事見積りだって2~3週間はかかる.確認申請と工事見積り・契約を同時に進めたとして,差し引くと「設計は土地取得後1~2週間以内にはすべて完了しなくてはならない」ことになる.
こんな馬鹿な話ってあるだろうか.
ただ巷にはこういう話は事欠かない.例えば銀行.
銀行に至っては住宅ローンを組む場合,土地の取得時に銀行への提出書類として「図面と工事見積書」が求められる.つまり土地を取得すらしていないのに,そこにはすでに図面が存在していて,工務店が決まっていて,見積書まで揃っている必要があるのだ.
トータルするとこういうことになる.日本では官民あげて,
「住宅を建てる際は,建て売り住宅かハウスメーカーでなくてはならない」
(設計事務所?へぇ,おたく変わってますね)
これっておかしくないですか?
どうして問題にならないのだろう?

先週土曜日(14日),笹塚にある富士見丘学園という中高一貫校にて,「町の中のデザイン」というタイトルで建築の特別授業をさせて頂きました.
受講生は中学部と高校部に所属する生徒さん約20名.富士見丘学園では毎週土曜日には今回のような自由な講座枠があり,外部講師を招いたり,教頭先生自らも哲学などをテーマとした対話型授業などをされているとのことでした.
今回は教育系コンサルタントをされている友人(清水葉子さん)のご紹介で建築やデザインにも造詣の深い大島規男教頭とお会いし,お互い意気投合して今回の授業の話となりました.大島教頭は事前に竣工間近の「隅切りの家」にも足を運んで下さり,その様子を編集してプロ顔負けの告知動画を作って下さったことは先にブログでも紹介させて頂いたとおりです.
さて建築の授業といっても,建築学科の大学生や建築家に向けて話すようなことは通用しません.建築の素養を持たない子達に「建築ってなんだろう?」という問いかけを,どうやったら易しく話すことが出来るだろうという点にはずいぶん苦心しました.大島教頭とも何度か議論をし,今回の授業は「対話型」にしようということ,そしていつも目にしている日常の風景から”デザインの芽”のような,気づきを促すような授業にしようということになりました.
授業は三部構成で,まず第一部は私の仕事の紹介ということで「隅切りの家」の話をさせて頂きました.
隅切りの家は一見すると八角形で,見たことのないような形をしているのですが,実際にはあたりまえの気づきから,ひとつひとつを風景や生活シーンに当てはめていった結果なのだということをお話ししました.持参した模型を見せると,皆さん興味深そうに見入ってくれていました.
第二部では,事前に参加する生徒さんから町中で気になった風景写真を提出してもらい,その紹介とそこにどういう気づきがあったかという点をそれぞれ発表してもらいました.事前に渡された段階ではそれがどういう意味の写真なのかわかりにくかったのですが,直接語ってもらうことでその意味がはっきりした部分もありました.あるいはシャッターを押した本人も意識していなかったことも,他の現象と組み合わせてみると意外と深い意味を持っているということも,第三部につなげてここで伏線を張らせてもらいました.


第三部では,今度は私の視点から街中でよく見かけるなにげない風景の写真を映し,それに対してそれがどういう意味を持つ写真なのか,その意味や問題点,あるいはそれを解決する方法などについて,参加してくれた生徒さんと一緒にディスカッションしてゆきました.
ところが,ここでちょっとしたハプニング.
この時に映し出した意味深な写真群は,実は一般の大人に見せると皆首をかしげて,その意味するところをほとんどの方が答えられないのですが,生徒さんに振ると実に鮮やかに皆さん答えてしまいます.私としてはもっと悩ませて,最後にその意味を説明しようと考えていたのですが,生徒さんの頭の柔軟さには本当に驚きました.
この授業の主旨は,先入観を捨てて,純粋に物事と向き合うことの大切さを教えたいと思っていたのですが,我々大人よりもよほど先入観なく純粋な目でこの子達は社会を見ているのだなということに,逆に私の方が気づかされ教えられたような気がします.
今回教室に集まってくれた20名弱の生徒さんだけを見て判断するのは早計かもしれませんが,富士見丘学園の生徒さんは皆さんとても純粋で,感性豊かな生徒さんの集まりなのだなという印象を強く持ちました.
今回の特別講義のように,外部の講師を招き,それも高校のカリキュラムとは関係ない建築家を招いてデザインの話をさせるなど,一般の中学高校では私が知る限り聞いたことがありません.
今回この講義をお受けさせて頂いた背景には,事前に動画で大島教頭の対話型授業風景を見ていて,それがとても印象的だったこともありました.感性豊かな生徒さんを育む,学校側の教育の土壌というものも今回強く感じたことです.生徒さんはこのような自由な校風の学校で,今後ものびのびと個性を伸ばしていってもらいたいと思います.
今回このような機会を設けて下さいました大島教頭とコアネットの清水さんにも,この場をお借りして深く御礼申し上げます.


