
クライアントでもある、グラフィックデザイナーで装丁家の小口翔平さんの主宰するデザイン事務所tobufuneさんの、初の個展があるということで昨日初日にお邪魔してきました。
第1回 tobufune 展「船と装丁」
2017年3月7日~19日 @神保町 gallery福果
http://tobufune.blogspot.jp/2017/01/blog-post_28.html
仕事柄いろんな職業の方にお会いします。その中で、建築をやっていなかったらこの仕事をやりたい!とたまに思える職業があり、編集者さん、写真家さんなどいろいろあるのですが、グラフィックデザイナーはそのひとつでもあります。
こんなことを言うと、その職業の方にはそんな甘いもんじゃないよと諫められそうですが、もちろんそんなことは百も承知の上で、みなさんが「建築って楽しそうなお仕事ですね」とおっしゃるのと同じようなノリで言わせてもらえれば、グラフィックは楽しそう!とついつい思ってしまいます。

この個展の主旨がとってもユニークなのですが、普段tobufuneさんはビジネス書の装丁をおもにデザインされているそうで、小説の装丁というのはほとんどやらないのだそうです。
そこで、自分たちで”勝手に”小説の装丁をデザインしてみようということで、tobufuneにちなんで”船”が登場する小説を何冊か選び、それを題材としてスタッフ全員がそれぞれ装丁を作られたそうです。

まぁここまでなら、美大の課題制作などにもあるかもしれませんが、ここからが違います。それぞれのテーマを割り振られたスタッフの皆さんは、プロのイラストレーターさんに表紙画を発注。
それを素材としてデザインを起こし、さらにそれを印刷所で高度な印刷技術を駆使して制作されています。この時点で、かなり完成されたプロの業を見ることができます。
またそのどれもが、一般の人があまり見たことのないような技法で作られており、現代の印刷技術はここまで進んでいるのかという驚きと、本当にこんな装丁があったら楽しいだろうなとわくわくする思いで手に取らせてもらいました。

ここに載せているのは小口さん自らの装丁によるものですが、この「老人と海」などはこれを数部刷るだけで途方もない費用がかかっているそうです。文字は金箔。この崩し文字もたまらないですね。
ほかにも、スタッフさん渾身の装丁が勢揃いしています。「ウレタン発砲印刷」や「UVインクジェットを使って絵の具で描いたような文字」など、素人には想像もつかない技術で作られているものも多数あります。
これらはもちろん量産には向かないでしょうが、だからこそこうした個展の題材とするに相応しいテーマであるように思います。なにより発注主のいない仕事をするという気概と自由さにやられました。

小さなギャラリーで開催中ですが、グラフィックに興味のある方、本の好きな方は必見です(あ、だから神保町で開催なのか)。行かれた方は是非在廊のスタッフさんに話しかけてみて下さい。きっと面白い話を聞かせてもらえますよ。
そんな小口さんの家を我々が設計しているということは、小口さんご家族の立体装丁を作っているということになるのかもしれませんね。そんな小口さんの家はどんな住宅なのか、また想像されてみて下さい。

