何年かに一度の社員旅行に出かけていました。行き先は福島のホテリ・アアルト、建築家の益子義弘先生が設計されたホテルです。
ホテリ・アアルト|www.hotelliaalto.com
今回の目的は、山口くんの卒業やスタッフとの親睦ももちろんあったのですが、一番の目的は、建築におけるホスピタリティとはなんだろう?という問題を、みんなと共有し、それぞれが考えてもらいたかったということがありました。
ホスピタリティとは、日本的にわかりやすく言えば「おもてなし」ということになるでしょうか。我々は日々住宅設計においてクライアントと向き合っていますが、クライアントにただヒアリングして、それを叶えればそれで良いかと言われれば、私はそうではないと思っています。
レストランで頼んだものが出てくれば誰も文句を言う人はいません。一夜を過ごすベッドさえあれば宿泊の目的は達せられるでしょう。ファミレスや、ユースホステルならそれで十分だと思います。
ところが我々の仕事はそれではだめなのです。クライアントが言葉にしない潜在的な欲求にこそ本質がある。それを掘り起こすのがホスピタリティであり、そこにこそ我々は応えなくてはならないのです。
若い頃はお金がなく、旅行はいつでも貧乏旅行です。うちのスタッフも例外ではないでしょう。しかし素泊まりに近い安いホテルしか知らない者が、どうして最高のホスピタリティある空間を作ることができるでしょうか。
今回益子先生のお取り計らいもあり、オーナーやホテルスタッフの皆様に宿泊以外の部屋や、まだ非公開のロッジなども見学させて頂くことができました。
巷の名の通った外資系ホテルなどでは最高のサービスを提供しています。ホテリ・アアルトのサービスももちろん申し分ありませんが、この両者の質には少し違いがあるような気がしました。
ホテリ・アアルトにある空気はどこまでもパーソナルで、住宅のような温かみがあるのです。至れり尽くせりなのに鬱陶しくない。困ったときにすっと現れて、またすっといなくなってしまうような、そんな絶妙な間や距離感があるのです。
そばに居るわけではないのに、ずっと自分に寄り添ってくれているような安心感。
「私はあなたのことを大切に想っていますよ」というメッセージのひとつひとつを受け取るたびに、宿泊者はとても満たされた気持ちになります。
宿泊者が、そんなメッセージのひとつひとつを宝探しのように探すような、そんな宿泊体験でした。
建築のホスピタリティとは、いわば親の愛情みたいなものなのかもしれません。
押しつければ拒まれる。目を離せば問題を起こす。自由な振る舞いを許しながらも、ずっと後ろからハラハラと見守り続けるというのは、本当に世話が焼けるのですが、それができるのは無償の愛がそこにあるからなのかもしれませんね。
ホテリ・アアルトはオーナーが益子先生に惚れ込んで設計をお願いされたそうです。そんな相思相愛の関係を空間の至る所に見ることができました。幸せな建築ですね。
スタッフの皆さん、おつかれさまでした。
また益子先生、今回の旅行へのご協力とお心遣いに心より感謝申し上げます。
スタッフの山口純くんが本日を最後に事務所を退所することになりました。彼の入所は2013年のFPの計画がはじまる少し前でしたので、約3年半の勤務でした。
山口は私と同じくフィンランドのアールト大学に留学経験があり、留学から帰国するとすぐに事務所に面接にやって来ました。
彼は実家が愛媛のため、面接に来た山口を一旦帰してしまうとまた上京してこなくてはならず、そのため面接ではその場で採用を即決し、その足でアパートを契約させて帰したということもありました。
◇
無口な性格もあり、最初は彼も苦労したようでしたが、仕事の進め方を心得てからはメキメキ頭角を表して、うちのエースとして多くの住宅を担当してくれました。
彼の持ち味は、図面の正確さと、なんといっても仕事の早さ!
短気な私も彼に関しては「もう終わったの!?」ということで、私の中のスタッフレベルのスタンダードが山口によって作られてしまったことは、他のスタッフにとっては不幸なことかもしれません。
退所後は彼は地元の愛媛に戻り、別の環境での修業を考えているようです。リオタデザインで修業を積むと、大谷翔平のストレートが止まって見える、蝿が箸でつかめるようになる、とのもっぱらの噂ですので、このキレッキレの設計スキルを手に、地元でも変わらぬ活躍を期待したいところです。
山口くん、長い間お疲れさまでした!
と言いたいところですが、実は明日より山口を含めスタッフ全員と社員旅行に出かけて参ります。山口くんにとっては卒業旅行といったところでしょうか。こちらの顛末もまた後日書きたいと思いますのでお楽しみに。
事務所のOBスタッフで、akimichi designを主宰する柴秋路くんの住宅「にびいろの舎」のプレ内覧会に、事務所スタッフを連れてお邪魔してきました。
柴くんは過去、百日紅の家やかたつむりハウスなどを担当してくれたスタッフで、OBスタッフの中でも古参スタッフのひとりです。これまでなかなか都合が付かず、新築の仕事をじっくり拝見させてもらったのは、この日が初めてでした。
とにかく細部に至るまで破綻なく丁寧に納められており、また柴くんらしい建築観も芯にあって、それがとても新鮮な印象を持つ住宅でした。光の採り入れ方もきれいでしたね。
リオタデザインのOBスタッフは皆図面巧者で、細部に至るまで繊細な仕事が見て取れるのが、私のささやかな誇りになっています。
我々はディテールという言葉をよく口にしますが、それはなにも取るに足らないものへこだわりや、オタクっぽい作り込みのことを指すのではありません。
むしろその逆で、骨格のあり方や成り立ちを整理し、線をとことんまで少なくしてゆく作業こそが我々の目指すディテールの思想なのです。
柴くんの仕事にも、そんな”ディテールの流儀”を感じることができ、その真摯な仕事の向き合い方にも清々しさを覚えました。
また良くも悪くもまだ確立されていない手法の端々に、迷いとも試みとも取れる作法も読み取りましたが、やがて洗練へと向かう過程で、それがどのように化けてゆくのか今後が楽しみです。
柴くん、今日はご案内ありがとうございました!
先週末、新座市で進めて参りました「大和田の家」のオープンハウスがありました。
大和田の家は計画から竣工までおよそ2年を費やしました。2年と聞くととても長いとお感じになるかもしれませんが、実際には計画は段取りよく順調に進められました。
整理すべき事が山ほどあったので、結局設計だけで1年を費やしましたが、おそらく建て主側はもっと時間がかかることも、当初覚悟されていたのではないかと思います。
本計画はお寺の庫裏になります。庫裏というのはお坊さんのお住まいのことで、お寺の付属施設という位置付けになります。経緯を話すと長くなるので省きますが、実際には計画が始まるまで10年近くの準備期間がありましたので、実際には構想から完成まで12年くらいはかかったことになります。
庫裏といっても、実質的にその機能は住宅と何ら違いはありません。お寺の施設ということで、当初私は”和風建築”が求められるなら自分にはできないと思っていたのですが、ご住職側は形式的なことに囚われない革新的なお考えをお持ちでしたので、我々の計画はとても自由にやらせて頂きました。むしろご住職側もそれを望み、楽しまれていたように思います。
外壁にはガルバリウム鋼板の横葺きを採用しています。お寺の施設にガルバリウムとはずいぶん思い切ったことをしたものだと思われるかもしれませんが、ご住職を含め我々も何ら抵抗はありませんでした。お寺という悠久の時間を生きる施設は、その時代の知恵と技術を結集してつくるべきだと思うからです。
ですが実際には、この横葺きはただの横葺きではありません。私が今持っているすべての経験とノウハウを投入して、ほぼ完璧に近い仕上がりとなったと考えています。手掛けてくれたのは日本一の板金職人、新井勇司さん。その卓越した仕上がりは、誰でも知っている、でもおそらく誰にも真似のできない仕上げかもしれません。
住宅の中心に据わるリビングには、高い吹き抜けを設けて自然光をのびのびと取り込んでいます。
随所の仕上げや設えは、正統的なリオタデザイン仕様。カーブもシュートも使わない、まさに直球ど真ん中といったところです。その精度を極限まで高め、我ながら完成度の高いものになったと思います。
大工工事は過去にDONUTも手掛けてくれた新井棟梁で、家具と建具は新潟の藤沢木工所さんが担当してくださいました。請負は堀尾建設、監督はリオタデザインの仕事を知り尽くした陸名勝尋さんです。
今回個人的に気に入っている子供部屋のロフトです。
これまで子供部屋は最小限サイズでやってきましたが、面積に余裕があるときはこんな作りも楽しいですね。家の中にいて一人暮らしができると思いました笑
またこちらも普通の住宅ではなかなかできない広い和室、仏壇を安置するお部屋です。この辺が唯一の庫裏らしい設えの部分かもしれません。
廊下の突き当たりには、客殿側へと抜ける裏出口があり、下部に切った窓からは中庭の造園を楽しむことができます。
そして外構工事には耕水の湊さんに入って頂きました。これまで湊さんとのお付き合いは長いのですが、今回は過去最大規模となります。
今回の湊さんのお仕事には正直鳥肌が立ちました。ボリュームが大きく、敷地に対してやや唐突なあり方であった建物が、湊さんの造園によって見事に着地することができたと考えています。
常日頃思うことですが、建築工事の方がはるかに工費も工期も大きく長いのですが、最後の仕上がりのウェイトは、皮肉なことに建築と造園はイコールになります。そのくらい、造園の持つ力は大きいと湊さんとの仕事ではいつも思わされます。
湊さんとの出会いがこういう仕事に結びついたことを、心から嬉しく思います。
オープンハウスには遠路はるばるいらして下さった方もおり盛況でした。幸い天気も良く、お庭も含めて楽しんでいただくには絶好の日和だったと思います。
中でも、先週引き渡したばかりのTOPWATERのクライアントまでいらしたのにはびっくりでしたが笑。同業の設計者からもいろいろな貴重なご意見を頂けて大変励みになりました。足を運んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
◇
前述の通り、今回の仕事には大変な時間と手間が投入されました。
工期には実に11ヶ月を費やしました。これはちょっとした集合住宅を作るような工事期間です。ところがそこに使われた素材は宮殿を作るようなものではけしてなく、シナベニヤや板金といったローコスト素材ばかりです。おそらく市井の住宅と同じか、もしかしたらそれよりも安いものばかりを使って建てられているのではないかと思います。
それを人の手仕事によって、途方もない手間をかけて作りました。我々も、最高のおもてなしの心で図面を引きました。建築にとって、私はこれ以上贅沢で豊かなことはないのではないかと思います。
そしてそれこそが現代の庫裏として最も相応しいあり方なのではないかと、作り終えた今しみじみと実感するのです。千年を越える歴史を持つこのお寺の、この時代最高の庫裏が作れたのではないかと思います。
計画を通して、普段は触れることのないご住職やその奥様の日常やお考えに触れ、とても勉強になりました。また私にとって”ドリームチーム”とも呼べるような最高の職人さん方と協働できたことも、かけがえのない経験でした。
関係者の皆さまには、この場をお借りして深く御礼申し上げます。
本当にお疲れさまでした!
私は体が硬い。私もという方もいるかもしれないけれど、比べないで欲しい。私の硬さは尋常ではなく、これまで私より硬いという人に会ったことがない。
たとえば脚を揃えて前屈をしたとする。その際の私の指先は膝上に届くのがやっとである。嘘でしょ?とか冗談でしょ?と言われるが、嘘でも冗談でもないのである。絶望的すぎて、体質改善など端からやる気も起きなかった。
そう、去年の末までは。
人の勧めもあって、年が明けてお正月からストレッチをはじめた。最初はまさに前述の通りである。ほぼ絶望的。そこから私は毎晩ストレッチを続けている。文字通り毎日、一日も休まずに。
今、私はもう少しでつま先に手が届く。はじめてまだ2ヶ月だ。
それは45年生きてきて初めての体験である。諦めていた自分の体がこんなにも劇的に変化するなんて思いもしなかった。本当に嬉しくて、今では毎晩のストレッチが楽しみにすらなっている。
ストレッチをすると体が悲鳴を上げる。それと同時に、あぁここがこんなに縮こまっていたんだなあと気付く。それを数日続ける。そうするともう痛くなくなる。もう少し負荷をかけてみる。また体が悲鳴を上げる。これを毎日続けると、少しずつ少しずつ伸びてゆく。
◇
これはきっと仕事力にも言えることなんだろうと思う。
その仕事力は最初はみんなカッチカチだ。嘘でしょ?とか冗談でしょ?というくらい柔軟性にも注意力にも欠けている。ほら、こうやるんだよと手本を見せても、異生物を見るような目で見られてしまう。
そう、それが去年までの私。でも痛い痛いと思いながら少しずつ、少しずつ延ばしていると、いつしかつま先に指が届くようになる。そこが本当のスタートライン。
自分では毎日の自分の変化には気付かない。続けることが大事。続けることが大事なのだ。ルーティーンは確実に力になるのだから。
たとえば脚を揃えて前屈をしたとする。その際の私の指先は膝上に届くのがやっとである。嘘でしょ?とか冗談でしょ?と言われるが、嘘でも冗談でもないのである。絶望的すぎて、体質改善など端からやる気も起きなかった。
そう、去年の末までは。
人の勧めもあって、年が明けてお正月からストレッチをはじめた。最初はまさに前述の通りである。ほぼ絶望的。そこから私は毎晩ストレッチを続けている。文字通り毎日、一日も休まずに。
今、私はもう少しでつま先に手が届く。はじめてまだ2ヶ月だ。
それは45年生きてきて初めての体験である。諦めていた自分の体がこんなにも劇的に変化するなんて思いもしなかった。本当に嬉しくて、今では毎晩のストレッチが楽しみにすらなっている。
ストレッチをすると体が悲鳴を上げる。それと同時に、あぁここがこんなに縮こまっていたんだなあと気付く。それを数日続ける。そうするともう痛くなくなる。もう少し負荷をかけてみる。また体が悲鳴を上げる。これを毎日続けると、少しずつ少しずつ伸びてゆく。
◇
これはきっと仕事力にも言えることなんだろうと思う。
その仕事力は最初はみんなカッチカチだ。嘘でしょ?とか冗談でしょ?というくらい柔軟性にも注意力にも欠けている。ほら、こうやるんだよと手本を見せても、異生物を見るような目で見られてしまう。
そう、それが去年までの私。でも痛い痛いと思いながら少しずつ、少しずつ延ばしていると、いつしかつま先に指が届くようになる。そこが本当のスタートライン。
自分では毎日の自分の変化には気付かない。続けることが大事。続けることが大事なのだ。ルーティーンは確実に力になるのだから。
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