ログインの際にAIが出してくるこの「なぞなぞ」が苦手だ。たとえばこの「オートバイのタイル」を選択せよという場合、サイドミラーのみのタイルもやっぱりオートバイの一部なのか、バイクの右側が微妙にはみ出しているタイルは選ぶべきなのかを真剣に悩んでしまう。
この真剣に悩んでいるという時点で私はAIではないといえるのだが、信じてもらえない。また別の画像が出てきて「なぞなぞ」がはじまる。いつまでたってもログインできない。
こんな屈辱あるだろうか。「お前それでも人間なのか?」とAIにばかにされているような気もする。
中にはひどく歪んだ数字や文字列が出てきて「さぁ、なんて書いてあるでしょうか?」というのもある。
「l」なんて出てくるともうお手上げで、もはや大文字のIなのか、小文字のLなのか、数字の1なのかもよくわからない。間違えるとまた別の文字列が出てくる。九九ができない小学生が延々と居残り勉強させられているみたいだ。
これはきっとあれだ。映画によくあるAIが人間を挑発してくるやつだ。どこかにラスボスみたいなのがいて「愚かな人間どもめ」みたいに我々を試しているに違いない。その時点で我々を人間だと認めているはずなのに許してくれない。お願い許して。私のこと認めて!
そのうち「3回まわってワンと言え」とかいう設問になって、我々はだんだんAIに支配されていくのだ。
朝事務所に入っていくと、その日の打合せの準備がピシッと整っている。日々の光景だけれど、とても気持ちが良い。こっちも気持ちよく一日が始められる。
左官職人の久住有生氏に、仕事で大事にしていることは何か?と訊ねたら「慣れないこと」だとおっしゃっていた。仕事は毎日のルーティンだけれど、慣れていくとそのうち基本的なことから忘れていく。だから弟子の職人にも毎日同じ事を繰り返し言うのだと。大切なのは技術ではなく所作なのだとおっしゃっていた。
新人は先輩の仕事をつぶさに見て覚える。技術は口で教えられるけれど、所作は背中で教えるものだ。私が何も言わずとも、先輩スタッフが後輩に仕事はこうやるのだと背中で伝えてくれているようで、とても嬉しい。
我々の活動の原資となるモチベーションには、誰にでもわかる「わぁすごい」と、わかる人にはわかる「おぉすごい」とがあるような気がしています。
昨年11月に竣工した「越屋根の家」の向かいに改修設計をした納屋が完成したタイミングで、タニタハウジングウェアの皆様をご案内させて頂きました。様々な切り口のある建物ですが、その一つの切り口である「板金」という側面について、わかる人に見てもらいたかったからです。
谷田さんを通じて希望者を募って頂いたら、17名もの社員さんがお越し下さいました。「今日は休みなんですか?」と思わず聞いてしまったのですが、バリバリ営業中とのこと。お忙しい中会社をもぬけの殻にさせてしまい申し訳ありません!
しかし、自社製品とはいえ、こんなに嬉しそうに外装のZiGをご覧下さる様を見て、ご案内の機会が設けられて良かったと思いました。
メーカーさんは時に誰のために製品を作っているのか、見失う瞬間があるような気がするのです。届ける先はどこなのか?工務店なのか、設計事務所なのか。発注先や採用権者に届けるのなら工務店であり、設計事務所なのでしょうが、我々がそうであるように、本当に届けなくてはいけないのは依頼主である建主さんであるはずです。
そんな当たり前の事実と、実際の建物の佇まいがどうであったかを胸に刻むことは、きっとその後の製品開発にも活きてくることと思います。
この日の最後の懇親会ではそんな熱い会話が飛び交う場となりました。また初対面であった真壁智治さんにもお越し頂き批評を頂けたことも励みとなりました。取り仕切ってくださった代表の谷田泰さんにも感謝です!こちらもありがとうございました。
昨日は午後から高野保光さんのオープンハウスへ。高野さんは私が憧れを持つ建築家の一人。実作を見せて頂くのは今回が2回目でしたが、本当に素晴らしく、深く感動した住宅でした。
高野さんのお仕事で自分には到底真似ができないと思うのは、そのディテールに向けられた繊細なまなざしです。
私は設計者の技量のひとつに「見えないものが見えているか」ということがあるように思っています。
たとえば霊能者に霊が見えるように、建築家には建築が見える。しかし建築は霊とちがって物理的に存在している訳だから、誰の目にも見えるはずなのに、実はごく限られた人にしか見えていない。
見える人にははっきり見えているので、どうしてそれが見えていないのか理解が出来ない。建築とは本来そういうものかもしれません。
高野さんの空間にあるのはグラデーションなのだと思います。それも無段階のグラデーション。
設計は抽象化することで合理性を獲得します。寸法をわかりやすく切りの良い数字にしたり、色や素材を統一したりと、最小限の要素で建築を作っていこうとする考え方が支配的です。
けれど、自然界にモジュールが存在しないように、その場その場の空間のあり方を最適化していけば、本来は統一の原理はそこには存在し得ないのだともいえます。
高野さんの空間に存在する無段階のグラデーションは、まるで水彩画の世界を見ているかのようです。隣り合う微妙な“色”のコントラストを決定的に見分ける高野さんの感覚は、私にとってはアールトのそれに近いものです。
自分の今登っている山は富士山の五号目くらいかと思っていたら、まだ高尾山だったみたいな…。まだまだ先は長そうです。高野さん、ご案内をありがとうございました!
先だって某所でセミナーを行ったときのこと、とある工務店さんから納まりについての質問を受けた。うちでは一般の工務店さんがやらないような素材の納め方をすることも多いので興味を持って下さったようだ。
しかしうちの納まりは手が込んでいるようでいて、実はほとんど図面指示はしておらず、現場で職人さんと筆談のようにスケッチを交わしたり、過去の写真を見せながらイメージ共有をしていることが多い。だからどうやって納めたのかと訊ねられても、その施工の詳細については正確に答えられないことがほとんどだ。
だからより良いものをつくるためには、現場で職人さんのハートに火を付けるような言葉をかけながら作るんだという話をすると、「うちではそういうことはできないんです」という答えが返ってきた。効率重視の設計施工型ビルダーでは、理不尽に手間がかかるような納め方は職人さんに露骨に嫌がられてしまうのだそうだ。
確かに素地として、決まりきった素材や納まりで手早く作ることを良しとしてきた職人さんにとって、思いつきでいきなり時間のかかる面倒くさいことを言われたら拒みたくなるのも人情だろうと思う。そんな場面に触れると、我々が日頃向き合っている建築のつくりかたは、いかに純粋にもの作りと向き合った取り組みであるかがよく分かる。
そんな風に向き合ってくれる工務店や職人は時代と共に減る一方だけれど、我々とチームを組んで下さる工務店さんはどこもそんな気概に溢れ、それを思うといかに我々は恵まれた環境で仕事をしていることかと感じる。
◇
我々のような設計事務所は施工部隊を持たない。純粋に設計と現場監理だけを行い、施工は工務店に請け負ってもらうことになる。
一般的に言われる設計専業事務所のメリットは、設計と施工を分離させることで建築主の立場や利益をまもり、第三者の視点で適切な現場監理が行えることなどが挙げられる。しかし、どうもそれだけじゃなさそうだ。
我々が施工を行わない専業の設計者であるということは、現場においても一定のアドバンテージを持つことになる。それは立場だけではなく、その言葉が現場でもとても強い影響力を持つのだ。
設計者の意志ある言葉やこだわりは、時に「わがまま」とも受け止められることもあるかもしれないけれど、それが心に届けば現場の職人を発奮させる起爆剤にもなる。実際現場に行くと、私がそうしてくれと頼んだわけではないのに、先回りしてより繊細な納まりにしてくれていることも多々ある。
そんな部分に気づいて職人さんに声をかけると「関本さんの現場なので」という言葉が返ってくる。私がどんな反応を示すか思い浮かべながら作っているとも。自分ではそんなに難しいことを言っているつもりはないのだけれど、どうも現場の受け止め方は違うようだ。
我々の現場の神施工の職人さんたちは、大変そうだけどいつも楽しそうだ。自分の持てる技術を惜しげもなく使い、それを超える納まりを模索し、乗り越えてまたひとつスキルアップする。これこそが仕事の醍醐味であり、ものづくりの本懐ではないかと思う。
これはもしかしたら私が設計専業でずっとやってきていることとも無縁ではないのかもしれない。施工部隊を持たないことが施工に対する自由度を生み、施工者にとっても自社案件にはない飛躍の機会と捉えてくれるとしたら、ものづくりにとって、また設計者施工者双方にとって、この上ない幸せのかたちではないだろうか。
それはもちろん設計施工型のつくりかたを否定するものではない。コスト高や設計施工型ビルダーの勢いに押されている我々設計事務所にとって、これは大きな希望になる生き残りの道ではないかと思えるのだ。
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