25. 05 / 08

その人の住まい

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと



今日は久喜の「双庭の家」の撮影があった。建主さんは70代の女性。自分なら70代から家づくりをできるだろうか?家づくりは、ある意味自分の人生をリセットするような出来事に近い。

でもこの女性にとってはリセットではなかった。より活き活きと生きるための通過点、そんな気もした。本当に若々しく10歳は若く見えるのに、おっしゃることはいつも人生経験に裏打ちされた含蓄ある言葉で説得力がある。

この日は五月晴れの絶好の撮影日和。この住宅は庭のあり方に住宅のコンセプトの大半を割いたような住まいだったのだけれど、それに応えるように庭は隅々まで手入れが行き届き、光に輝く新緑は本当にため息しか出なかった。

家の中だってちり一つ落ちていない。随所に観葉植物が置かれ、ちらっと覗いた納戸の中だって完璧に整っている。覗かれて困る部屋なんてひとつもない。

うちの建主さんは皆さんおしゃれ番長ばかりで、撮影といえばビシッと整えた住まいにしてくれる。この建主さんも例外ではなかったけれど、なんというか別格だった。

高価なデザイン家具が並んでいるわけではなく、むしろ無名の家具であったり民芸品のようなものが棚には飾られているだけなのだけれど、その方の生きてきた人生の深みや見識の高さ、人としての品格のようなものが滲み出ていて、唯一無二の空間を作り出していた。そのことに心から感動してしまった。

あぁ住まいって、その人そのものなんだ。

いつもそう思っているし、何度もそう語ってきたけれど、この日は心底そう思った。我々設計者が設計したことなんて、これっぽっちのことしかないのだ。それを我々の作品だなんて、どう逆立ちしたって言えるはずがない。

あるいはこうも言えるかもしれない。その方は、自分だけの住まいを手に入れたことで、ようやく自分本来の姿になれたのだと。そうであったら嬉しい。