昨年の夏、うちの事務所にオープンデスクに来ていた学生からメールが届いた。オープンデスクを終えて取り組んだ大学後期の設計課題ではじめての教室選出、そしてその中で更に1位に選ばれたとのこと。そのメッセージを嬉しく読んだ。

オープンデスクというのは建築業界の言葉で、いわゆるインターンのことだ。大学生が夏休みや春休みなどの長期休み中に、設計事務所などに無償の研修を願い出る制度のことを指す。

ただこれが業界では良いように使われることもあって、設計事務所の中には「オープンデスク募集」などと堂々とサイトに書いているところもある。オープンデスクは募集するものではなく願い出るものだ。つまり、業界的には、「タダ働きしてくれる都合の良い労働力」の隠語となっている側面もあるように思う。

私の考えとしては、事務所の戦力となる働きをしてもらうのであれば、対価としてお金を払いたいと思う。しかしわずかな期間やってくる学生に、責任の発生する仕事など触らせられるはずもなく、結局うちでは毎回私が設計課題を出し、それをほぼ毎日設計指導をするという、タダ働きならぬ、タダ建築講座を開講することになる。

私も設計塾やセミナーに呼ばれば、ちょっとしたお金を頂く身分であるにもかかわらず、学生さんには大盤振る舞い。毎日数時間の設計指導に、現場への帯同や解説、その他私の行く先々に連れて行ってはお金もすべて私が払うのだから、うちに来る学生はずいぶん恵まれていると思う。大学の設計指導なら週に一度、一人あたり10分程度というのが相場だ。

けれど学生の方も、勇気を出して設計事務所にアプローチし、バイトも休んで無償の研修を申し出るのだからそれなりの覚悟はいる。私としてはその覚悟に応えたいと思う。

うちの元スタッフ砂庭さんも、うちのオープンデスク生の一人だった。彼女もオープンデスク後の設計課題は、常に最優秀賞が取れるまでになったという。また現スタッフの佐藤くんも元うちのオープンデスク生だ。大学をはなれて取り組むオープンデスクは、時にその人の人生を決めることもあるということかもしれない。

オープンデスクの良さは、建築のリアルに触れられるということに他ならない。大学で学ぶ建築は、良くも悪くもフィクションだ。そこに住まう人の人物像も、時にはその設計条件ですらも、都合よく自分で変えることができる。構造なんて考えなくても、模型やCGならなんでもありの世界となる。ところが現実は違う。それが社会であり、我々が生きる世の中だ。

そこを知ると、無責任な線は描けなくなる。その建築を使う人は自分ではない誰かなのだと考えれば、そこに思いやりや共感、愛着や愛情が生まれる。そしてそれが線に乗ったときにはじめて良い建築が生まれる。物事の本質はあっけないほどシンプルで、凡庸な日常の中にこそあるのだ。

去年の夏に来た学生は、わずか一週間の中でその糸口を掴んだのだろう。
おめでとう!前途ある未来にエールを送ります。

24. 01 / 06

仕事はじめ

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sekimoto

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リオタデザインも5日より仕事始めとなりました。この日はスタッフを連れて地元の敷島神社に初詣ののちは水子貝塚公園へ。

ここは東上線沿線に点在する貝塚のひとつで、園内に竪穴式住居も復元されているスポット。

ここに来る目的の一つは、縄文時代の埼玉の陶板地図があること。これによると、東武東上線は昔の海岸線、浦和は岬の先端、そこから先はすべて海の底だったことがよくわかります。

海なし県の埼玉も、6000年前は見渡す限りの海があって、我が家の少し先にはビーチが広がっていたわけです。もうちょっと早く生まれていれば、志木は葉山だったのかも!

ようこそ葉山へ。今年もよろしくお願いします!



「越屋根の家」オープンハウス2日目終了。

2日を通して多くの方にお越し頂きました。朗らかな陽気の中、普段仲良くしていただいている建築家仲間、尊敬する大先輩、学生さん、建て主さん、また工事に関わってくれた監督や大工さんまで!皆さまと楽しくお話しできて、スタッフ共々幸せな二日間を過ごさせて頂きました。お越しくださった皆さま、本当にありがとうございました。

今回多くの方から「集大成」というお言葉を頂きました。言われると確かにそうかもしれません。もしかしてオレ死ぬのかな?やりきったところでぽっくりも悪くないかもしれませんが、まだまだやるべきことが山積みです!汗

来場者がすべてお帰りになったところで、建て主さんからサプライズのプレゼントがありました。スタッフ一同大喜び!お手紙が添えられており、事務所に帰ってから開封したのですが、涙で読めませんでした、、。

本当に長かった。けど楽しかった!!そんな思いが建て主さんと共有できて本当に良かった。我々の仕事の目的でありゴールは、建て主さんに喜んで頂くこと。これ以上でもこれ以下でもありません。

このたびのご縁とお仕事に心から感謝いたします。
関係者の皆さまお疲れさまでした!!








23. 09 / 21

椅子張り講座

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sekimoto

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今日はスタッフを連れて、秦野市にある北欧家具taloまで。たびたび書いていますが、オーナーの山口太郎くんとは幼なじみの間柄でもあります。

北欧家具talo | https://www.talo.tv/

訪問の目的は、今進めている案件についての意見交換と、椅子座面の張り替え講座!なんで椅子の座面の張り替えを学ぶ必要があるのかというのはまた追々ご説明しますが、この日はスタッフ揃ってプチ遠足気分で秦野までやってきました。


まずは太郎先生のレクチャーから!

当たり前ですけど、さすがプロ。北欧家具taloの座面張り替えはほぼ1人でやっているというだけあって、ツールの使い方や選び方、シワの入らない生地の張り方まで実に細かくレクチャーしてもらいました。

事前にYouTubeでもやり方を調べていたのですが、やっぱり色々と違いがありました。百聞は一見にしかず。やっぱり実演に勝る学びはないですね。




私もスタッフも早速の実践です。流れるような太郎くんの手順を見ていたのに、自分でやるとなかなかうまく行きません。隣からも厳しい太郎くんからの叱責が飛びます!

最後はようやくぐるっとステープルを打ち終えて、失敗はあったものの、なんとか張り地を張り終えることが出来ました。もう少し練習が必要ですが、スタッフも張り字交換のコツや勘所をだいぶ学べたようです。

リオタデザインは家具屋でもやるのかって?まぁまぁ、それもそのうち話します。


太郎くんは先週までフィンランド。そしてまた2週間後にはふたたびフィンランドと、日本にいる暇がありません。そんな中ピンポイントに押しかけたというのに、この手厚さ!ほぼ神です。

taloには太郎くんに会いに定期的に押しかけて、お互いの近況報告をするのが私にとっても何よりの楽しみになっています。お互いほぼ同年代ということもあって、これからの仕事のしかたや展望、お互いの夢なども語り合って、この日もとっても実のある時間となりました。

太郎くん、本当にありがとう!!来るべき協働の機会も楽しみにしています。

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sekimoto

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私は「関本さん」と呼ばれるのがあまり好きではない。
もちろん私は「関本さん」なので、そう呼ばれることは間違いではないのだけれど、私は「関本さん」よりも「リオタさん」と言われた方が嬉しい。関本は私のファミリーネームだけれど、リオタ(フィンランド時代のニックネーム。Ryota⇒Riota)は私だけの名前だからだ。

リオタデザインという事務所名にした時はそこまで考えていなかったけれど、独立後、結果的に私は「リオタさん」と呼ばれることが多くなった。呼んでいる方の多くは私のことというより、リオタデザインを短縮してそう呼んでいたりするのだけれど、そう呼ばれると私は少し嬉しくなる。

フィンランドでは、私はずっと「リオタ」だった。あの国で苗字で呼ばれることなどほとんどない。目上の人だろうと、大学の先生だろうと、呼び合うのはファーストネームだ。そのフラットさが好きだった。出自や肩書を離れて、相手のパーソナリティと直接繋がれるような気がするからだ。

そんなことをずっと考えていたのだけれど、この夏スタッフが入れ替わったことを機に、所内でもファーストネーム制を導入することにした。私のことを「関本さん」と呼ぶことを禁止した。スタッフも苗字じゃなくて下の名前で呼ぶことにした。

ある日突然そう宣言したので、最初はスタッフも戸惑いぎこちない空気も流れたけれど、1週間もするとすっかり馴染んだ。

相手を下の名前で呼ぶと、急に親近感が湧くから不思議だ。スタッフも「部下」というより「仲間」という感じになる。そして「リオタさん」と呼んでもらうと、やはり「上司」感がなくなってフラットになるように感じる。スタッフもお互いを下の名前で呼び合うようになった。

これはやってみると劇的ともいえる効果があって、所内の風通しや雰囲気は格段に良くなったように感じる。私も立場上彼らに厳しいことを言うこともあるけれど、下の名前で呼べばフォローもしやすくなる。

この夏休みは、オープンデスクの学生もみんな私のことを「リオタさん」と呼んだ。私も相手の名前は下の名前で。これは最高!お互いすぐに打ち解けるし、緊張していた学生も一気にほぐれてくれる。

私が理事を務めるSADI(北欧建築・デザイン協会)では、理事にも大学の名誉教授のような重鎮の方がたくさんいらっしゃるのだけれど、相手に「先生」をつけるのはやめようと”先生”自らが言い出し、すべての理事が「さん」付けになった。こんな組織って素晴らしい。世の中、地位や肩書にしがみついている人たちばかりだからだ。

結婚すれば苗字も変わるけれど、人としての本質は変わらない。だから職場でも下の名前を標準にすればいいのにと思う。いちいち言い訳しながら旧姓を名乗る必要もないわけだし。苗字も肩書も世間体も外して、もっと人と人とがフラットに、そしてフレンドリーにつながる世の中になれば良いのにと思う。