24. 06 / 01

設計者の条件

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと


銀座久兵衛の板前の条件。そのまま設計者にも当てはまる。こうありたい。

1. しっかりした料理をつくれる「料理人」であること。
2. お客さま一人ひとりのご注文とお会計が常に頭に入っている「キャッシャー」であること。
3. 料理に合わせて飲み物を的確におすすめできる「ソムリエ」であること。
4. 店を代表してお客さまに接することができる「マネージャー」であること。
5. つねに客席に目配りをし、お客さまを楽しませることができる「エンタテイナー」であること。

24. 05 / 11

なぞなぞ

author
sekimoto

category
> 思うこと
> 社会



ログインの際にAIが出してくるこの「なぞなぞ」が苦手だ。たとえばこの「オートバイのタイル」を選択せよという場合、サイドミラーのみのタイルもやっぱりオートバイの一部なのか、バイクの右側が微妙にはみ出しているタイルは選ぶべきなのかを真剣に悩んでしまう。

この真剣に悩んでいるという時点で私はAIではないといえるのだが、信じてもらえない。また別の画像が出てきて「なぞなぞ」がはじまる。いつまでたってもログインできない。

こんな屈辱あるだろうか。「お前それでも人間なのか?」とAIにばかにされているような気もする。

中にはひどく歪んだ数字や文字列が出てきて「さぁ、なんて書いてあるでしょうか?」というのもある。

「l」なんて出てくるともうお手上げで、もはや大文字のIなのか、小文字のLなのか、数字の1なのかもよくわからない。間違えるとまた別の文字列が出てくる。九九ができない小学生が延々と居残り勉強させられているみたいだ。

これはきっとあれだ。映画によくあるAIが人間を挑発してくるやつだ。どこかにラスボスみたいなのがいて「愚かな人間どもめ」みたいに我々を試しているに違いない。その時点で我々を人間だと認めているはずなのに許してくれない。お願い許して。私のこと認めて!

そのうち「3回まわってワンと言え」とかいう設問になって、我々はだんだんAIに支配されていくのだ。

24. 05 / 10

所作

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと



朝事務所に入っていくと、その日の打合せの準備がピシッと整っている。日々の光景だけれど、とても気持ちが良い。こっちも気持ちよく一日が始められる。

左官職人の久住有生氏に、仕事で大事にしていることは何か?と訊ねたら「慣れないこと」だとおっしゃっていた。仕事は毎日のルーティンだけれど、慣れていくとそのうち基本的なことから忘れていく。だから弟子の職人にも毎日同じ事を繰り返し言うのだと。大切なのは技術ではなく所作なのだとおっしゃっていた。

新人は先輩の仕事をつぶさに見て覚える。技術は口で教えられるけれど、所作は背中で教えるものだ。私が何も言わずとも、先輩スタッフが後輩に仕事はこうやるのだと背中で伝えてくれているようで、とても嬉しい。

我々の活動の原資となるモチベーションには、誰にでもわかる「わぁすごい」と、わかる人にはわかる「おぉすごい」とがあるような気がしています。

昨年11月に竣工した「越屋根の家」の向かいに改修設計をした納屋が完成したタイミングで、タニタハウジングウェアの皆様をご案内させて頂きました。様々な切り口のある建物ですが、その一つの切り口である「板金」という側面について、わかる人に見てもらいたかったからです。

谷田さんを通じて希望者を募って頂いたら、17名もの社員さんがお越し下さいました。「今日は休みなんですか?」と思わず聞いてしまったのですが、バリバリ営業中とのこと。お忙しい中会社をもぬけの殻にさせてしまい申し訳ありません!

しかし、自社製品とはいえ、こんなに嬉しそうに外装のZiGをご覧下さる様を見て、ご案内の機会が設けられて良かったと思いました。



メーカーさんは時に誰のために製品を作っているのか、見失う瞬間があるような気がするのです。届ける先はどこなのか?工務店なのか、設計事務所なのか。発注先や採用権者に届けるのなら工務店であり、設計事務所なのでしょうが、我々がそうであるように、本当に届けなくてはいけないのは依頼主である建主さんであるはずです。

そんな当たり前の事実と、実際の建物の佇まいがどうであったかを胸に刻むことは、きっとその後の製品開発にも活きてくることと思います。

この日の最後の懇親会ではそんな熱い会話が飛び交う場となりました。また初対面であった真壁智治さんにもお越し頂き批評を頂けたことも励みとなりました。取り仕切ってくださった代表の谷田泰さんにも感謝です!こちらもありがとうございました。


昨日は午後から高野保光さんのオープンハウスへ。高野さんは私が憧れを持つ建築家の一人。実作を見せて頂くのは今回が2回目でしたが、本当に素晴らしく、深く感動した住宅でした。

高野さんのお仕事で自分には到底真似ができないと思うのは、そのディテールに向けられた繊細なまなざしです。

私は設計者の技量のひとつに「見えないものが見えているか」ということがあるように思っています。

たとえば霊能者に霊が見えるように、建築家には建築が見える。しかし建築は霊とちがって物理的に存在している訳だから、誰の目にも見えるはずなのに、実はごく限られた人にしか見えていない。

見える人にははっきり見えているので、どうしてそれが見えていないのか理解が出来ない。建築とは本来そういうものかもしれません。

高野さんの空間にあるのはグラデーションなのだと思います。それも無段階のグラデーション。

設計は抽象化することで合理性を獲得します。寸法をわかりやすく切りの良い数字にしたり、色や素材を統一したりと、最小限の要素で建築を作っていこうとする考え方が支配的です。

けれど、自然界にモジュールが存在しないように、その場その場の空間のあり方を最適化していけば、本来は統一の原理はそこには存在し得ないのだともいえます。

高野さんの空間に存在する無段階のグラデーションは、まるで水彩画の世界を見ているかのようです。隣り合う微妙な“色”のコントラストを決定的に見分ける高野さんの感覚は、私にとってはアールトのそれに近いものです。

自分の今登っている山は富士山の五号目くらいかと思っていたら、まだ高尾山だったみたいな…。まだまだ先は長そうです。高野さん、ご案内をありがとうございました!