16. 08 / 01

確信犯

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sekimoto

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今月から着工する住宅の現場に工事看板が立てられた。

一般的に工事看板には「○○様邸新築工事」などと書かれる。ところが今回は「TOPWATERの家新築工事」とある。私なら間違いなく二度見するだろう。

この看板の表記からは様々な解釈が生じる。

まずTOPWATERがバス釣り用語で言うところの、”トップウォータープラグしか使わない(ちょっとヤンチャな)アングラー”を意味していることを瞬時に理解した者は、ニヤリと笑い、「まじか」もしくは「この人大丈夫か」となるだろう。まぁ狙い通りと言えよう。

しかしほとんどの人は、TOPWATERの意味が分からず、「なにコレ?」もしくはやはり「この人大丈夫か」となるだろう。少し不本意であるが仕方あるまい。

またある人は、元ピンクフロイドのRoger Watersを連想し、Top Watersさんという外国人ミュージシャンの家であると思うかもしれない。しかし、なぜゆえに看板にフルネーム?その謎解きのために、いつまでも看板の前から立ち去ることができないであろう。

そもそも「TOPWATERの家」ってなんだ?

たとえば故篠原一男氏の住宅に「白の家」というのがある。建築のタイトルにありがちな「形容詞+の家」パターン。この場合、形容詞にはその家のあり方やコンセプトを象徴する言葉が置かれることになる。今回はこの「TOPWATER」がこの家のあり方を、コンセプトを象徴しているのだろうか。そうか、そういうことなのか?

こう考えた人はもう目が離せない。基礎が始まり、上棟し、その全容が次第に明らかになるにつれ「これなのか?これがTOPWATERなのか?」と、ひとつひとつのプロセスやエレメントに意味を見いだし続けることだろう。

そもそも、この家のタイトルは「TOPWATER」であって、「TOPWATERの家」ではない。誰だ間違えたやつは!

最初から書式として「の家」が印刷されていて消せなかったというのなら許そう。しかし「様邸」という文字をわざわざ消して、その上から「TOPWATERの家」という文字を上書きしているではないか。

確信犯。
私の頭にそんな言葉がよぎる。目的は何だ?
妙にじわじわくる。

16. 07 / 20

TCC

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TCCというのはTokyo Copywriters Clubの略で、東京で活躍するコピーライターさんの団体です。ただこの団体、お金を払えば誰でも入会できるわけではなく、TCCが毎年表彰するTCC新人賞を受賞した者でなくては入会できないという秘密結社、いやちがった、かなりハードルの高い格調ある団体のようです。

だからきっとTCCの会員だと言えば、コピーライター界では鼻高々、会員証(なるものがあるのか知りませんが)をひとたびかざせば、水戸光圀公ばりにかなりドヤの入った顔をしても許されるのでしょう。(あぁ、かざしてみたい!)

所属メンバーには大手広告代理店所属から個人の方まで、日本のトップクリエイター達がひしめきあっているわけですが、その中でもさらに「殿堂入り」している人達というのがいます。トップオブトップ。野球で言えばベーブルースとか長嶋さんみたいな人、建築で言えば丹下健三さんや安藤忠雄さんのような方でしょうか。


なるほど。皆さんお馴染みの糸井重里さんの名前もありますね。

前置きが長くなりましたが、そんな日本のコピーライター界の”レジェンド”を表彰した部屋(つまり殿堂/Hall of Fame)をTCCの中に作ってほしいという依頼を、縁あって私がまだ駆け出しだった2004年に頂きました。

なぜ私がという説明は省きますが、当時そんな依頼に応えて、時代の感性を映す鏡としての殿堂の設えを、ガラスとワイヤーだけで作りました。下にはキャスター付きの家具が納められています。

そんな家具のキャスター部分が摩耗して動かなくなってしまったという相談をTCC事務局から頂きまして、それを今回交換工事を行うことになったというわけです。


簡単な作業ですので、今回の交換は我々だけで行うことにしました。よく見ると経年のせいか樹脂がボロボロになっています。10年ちょっとでこんなになるんだということにある意味衝撃を受けましたが、首尾良くすべてのキャスターを交換し終えました。

このHall of Fameをデザインしたのは2004年ですから、今から12年前、まだ事務所を立ちあげて2年くらいの頃でしょうか。TCCには当時の担当者の佐藤さんもいらっしゃって、お互い本当に久しぶりの再会となりました。

当時はまだいろんな意味で若かったけれど、今あらためて当時の仕事を見るとなかなか悪くないと思ってしまいます。こうして12年経って見てもデザインも古い感じがしませんし、細部まで丁寧なディテールで作られています。(やるな、俺)

佐藤さんにも当時は駆け出しであったことをお話ししたら、当時の私はとても駆け出しには見えなかったとのこと。そうか、根拠なく自信のありそうな振る舞いは昔からだったのですね。でもあらためてTCCさんには良いお仕事をさせて頂いたのだなとしみじみ思いました。また当時の自分の仕事にも会えてそれもまた嬉しかったです。

TCC事務局の佐藤さん、ありがとうございました!

16. 06 / 29

骨組み

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骨組みの空間を見るとイイなぁ、といつも思う。骨組みの空間はどんな空間にも化けることができる。可能性をいっぱい秘めた産まれたばかりの赤ん坊のように。

この骨組みの魅力に触れるたびに、自分はいかに常識に縛られているかを思い知る。私はこの空間があれば十分だ。金物なんて見えていて構わないし、仕上げだっていらない。

でも実際には、季節の変化に耐えられるよう断熱材が、安全のために手摺りが、快適性のために設備機器が、美観のために仕上げが施されて無事クライアントに引渡される。

私はいつか骨組みだけの家に住んでみたい。それはきっと原始人のような生活かもしれない。何もないから不具合も起こりようがない。秘密基地のようできっと楽しいと思う。

16. 06 / 24

作家と職人

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先日友人の建築家と呑んでお互いの建築観について話をした。以前から薄々気づいてはいたけれど、どうも私の考える建築というのは少し違うのかもしれない。

たとえば、私は自分の仕事を「作品」と呼ばれることに抵抗がある。
世間的には設計事務所の仕事は「作品」と呼ばれることが多いし、私のサイトにもやはり「これまでの作品」などと書かれている。けれども、本当は少し違和感がある。私は自分の仕事を「作品」ではなく、ただ「仕事」だと思っている。

作品を作る人が「作家」だとすれば、私は「職人」なのだと思う。
作家とは表現したいことがあり、自らの表現のために資金を作る人のことだ。職人は表現はせず、依頼に対してただ忠実な仕事をする人である。

私には表現したいことはなく、自分はからっぽだといつも思う。
関本さんの建築ってどんな建築ですか?と聞かれるのが一番困る。私は依頼主のことにしか興味がない。その人がどういう人で、住まいや家族に対してどういう考えを持っているのか。それを聞き出し、咀嚼することが私の仕事である。

板前が目の前の活きの良い魚に鮮やかな手さばきで包丁を入れてみせる。目の前にさっと皿が出てくる。私はそんな仕事に憧れる。自分の仕事もそうありたいと思う。

16. 06 / 12

梅雨空に

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ここ一ヶ月ほど、ブログもなかなか更新できずにいました。珍しく更新が滞ったので、一部の方からは「最近忙しいみたいですね」と声をかけられることも多かったのですが、物理的な忙しさというよりも、メンタル的に追い詰められた状態でした。

そういうときは何事にも積極的になれず、とことんネガティブに、何をやってもうまくいかないような気分になってしまうものです。私にもそんな時があります。

もう梅雨明けくらいまで土日もびっしり仕事のスケジュールが埋まり、半ば強制的に仕事に向き合わざるを得ない状況。この辺で気分をアゲていきたいところです。


そんな折り、目下見積調整中で来月からは着工を控えているTOPWATER(I邸)のクライアントがやってきました。この日は最後の見積調整の日です。

ところが事務所の入口を入ってくるIさんが見えた瞬間、思わず笑ってしまいました。Tシャツに短パン、トートバッグを下げたその姿に、思わず「海びらきですか!」と心の中で突っ込んでしまいました。

そう、Iさんはそういう人なのです。

無類のルアーアングラー、しかも最もギャンブル性の高いトップウォーターしか狙わないというスタイル。プカプカと自らも水面に浮かんで釣るそのスタイルのために、計画の住宅にもカヤックが2艇吊れるようにしてあります。(同じくカヤックを吊った「暁の家」のクライアントも、実は同類のトップウォーター・アングラーです)

まさかカヤック積んできたんじゃないでしょうね?と冗談交じりに突っ込むと、そのまさかでした。家づくりに対する気負いや緊迫感が全く感じられない(ように私の目からは映る)その姿に、私も脱力状態。もう笑うほかありません。


なんでしょう、このIさん。このノーガード戦法でこれまで連戦連勝、家づくりのプロセスにおいてはこれまで負けなしの快進撃を続けているのです。

我々との出会いからはじまり、ローン、ご家族、お仕事、いろんなものが狙ったようにこの時期全てがハマってゆきました。まるで今、ここに家を建てるために、すべては仕組まれていたのではないかと思うほど。

そして、工務店からの金額も予算にぴたりとはまり、いつもはシビアな予算調整の打合せも、ものの30分で終わったのでした。こんなこと、滅多にあることではありません。

Iさん曰く「自分はきっと面倒くさい施主になる」と思っていたそうですが、我々からの提案を受け、予想に反して?ほぼ何の抵抗も抱かなかったのは「奇跡に近い」感覚だったそうです。

図面はPDFで常に持ち歩き、電車の中や出張先でも、隅々まで読み込みを続けたとのこと。それはIさん曰く「長編小説を読むような」気分だったようで、それが本当に楽しかったのだそうです。

会社でも同僚に図面を見せ、デザイナーの多い職場では、Iさんの家づくりネタで大いに盛りあがっていたとのこと。時には上司までプランに口を出してくることもあったとか?全ての線がぴちっ!と納まっているのが快感だったというマニアックさは、もはやクライアントとしては”変態”の域と言えるでしょう。(もちろんIさんへの最高の賛辞です)

予算調整のはずがほとんど雑談で終わり、Iさんはカヤックを積んだ車でこの日のメインフィールドへと発っていったのでした。笑う門には福来たる。梅雨空にも、私の心にも晴れ間が覗いたそんな日でした。