やっと来れた。なかなかタイミングが合わず、気づけばこの歳になってしまった。ただ今来れたことに意味がある気もした。きっと良いだろうと想像はしていたけれど、想像以上だった。ブルーノ・タウトの言葉を借りれば「泣きたくなるほど美し」かった。
シークエンスとメタファー、そしてストーリー。それを確かにするためのディテール。そんな建築的所作の最高到達点が桂離宮なのだということもよくわかった。
一番見せたいものを見せないために巡らせた垣根や土盛り。灯籠の灯りを池に映して螢とした見立て。御幸(みゆき)と呼ばれる最高の客人をもてなすためのアプローチ。パースを効かせた通路。仄めかしのためにわずかに曲げて架けられた太鼓橋。川石を無数にこば立てた舗装。
もうきりがない。いちいち泣きたくなる。
分かち難く一体と思っていた中書院と新御殿は増築だと聞きまた驚いた。独特のプロポーション。持ち上げた床はまるでコルビュジェのサヴォア邸のように軽やかだ。屋根も田舎の農家のように素朴なのに、こんなにも気品ある佇まいになるとは。建築とはやはりプロポーションなのだろう。
細かすぎて伝わらないことを積み上げることでしか伝わらない世界があるのだということ。いま、桂離宮が見れてほんとうに良かった。
予約なしには見れない宮内庁管理の庭園と山荘。約370年前に後水乃尾上皇により造営された皇室の別荘、と聞いてもっと浮世離れした近寄りがたいものを想像していた。
ところが下離宮を抜けて門をくぐると、そこにあったのは棚田だった。思わず拍子抜けした。その畦道を抜けた先に上離宮がある。そこにも絢爛な宮殿があるわけでもなく、素朴な作りの休憩所や池があるのみ。
一方では遠く東山の山々や京都の街並みを壮大な借景の中に取り込み、近景の池や棚田の風景とともに、そこに壮大な宇宙をつくっている。
雅というのはこういうことを言うのだろう。素朴に見える建屋にも隅々まで美意識が行き届いている。その見識と文化度の高さに唸らされる。しかも造営にかけられた時間はわずかに3〜4年だという。それが300年以上も残るというのは奇跡としか言いようがない。
後水乃尾上皇というのは、幕府に抵抗する反体制の芸術家であると同時に建築家、そして一流のアートディレクターでもあったのだろう。
江戸時代初期に享年84歳、こちらも尋常ではない。
坂倉準三氏設計の旧上野市庁舎は市民による保存運動の末、2022年にPFI事業の公募が行われ、MARU。architectureの設計により図書館と宿泊施設を持つ施設【SAKAKURA BASE/泊船】へとコンバージョンされた。
同市に残されていた坂倉建築は過去に次々と壊され、この旧市庁舎は最後の砦のようになっていた。写真で見ても実にプロポーションがよく、一度実際に空間体験と宿泊をしてみたかった。
図書館は今年の4月にオープンしたばかりだというが、すでに多くの市民によって活用され、愛されているのがひしひしと伝わってくる。夜は21時まで空いているので、高校生は遅くまで粘って勉強しているし、仕事帰りの会社員も多くの人が利用していた。
2階に設けられた「泊船」と名付けられた宿泊施設は、元は市長室や会議室などの執務スペースだったものを客室にコンバージョンしたもの。とても上質な改修で、照明計画も美しい。シングルガラスによる熱損失を障子やハニカムスクリーンで補っている。入口のドア枠は当時の枠を再利用しているとのこと。
2階の中庭に向けてはコルビュジェばりの象鼻のガーゴイルが伸びていて、これもとてもチャーミングだった。中庭に繁ったクローバーと薄いグリーンのカーペットもとても空間に合っていた。とにかく改修に当たっては隅々にまで坂倉建築へのリスペクトが感じられ、心を打たれた。素晴らしい仕事だと思った。
まさかこれを解体しようだなんて議論が起こっていたこと自体が信じられない。この建物は市民の誇りそのもの、地方都市に残る至宝だと強く感じた。旧香川県立体育館も、絶対にこういう施設に生まれ変わらせることができるはずだと思う。
丸山弾さんの芳賀町の家へ。不思議な佇まいの家。和でも洋でもない感じ。地面から生えたのではなく、空から降ってきたみたいな、そんな印象の家だった。
室内も抽象化されていて、視線を外に導くための設えだという意図も伝わってきた。「船みたい」田園風景に囲まれた環境を海だとするなら、そんな例えがしっくりくる。たぶん、弾さんが感じた敷地の印象はまさにそんな感じだったのではないか。戦わずに浮かべた。それが導いた答えだったのではないかと想像した。
私なら何ができただろう、と考えるともしかしたらもう少し風景の見え方にヒエラルキーを付けたかもしれない。風景を等価に捉えるというのは弾さんの住宅の特徴なのかもしれない。
空間の抽象化は、同時間に来ていた若原さんに似ているようで違うこともわかった。若原さんは視点が動的で、弾さんは静的なのだ。同じく同時間にいらした石川素樹さんはもっと違う。風景との距離の取り方、視点など気づきがいろいろあってとても楽しかった。
最後はそんなたまたま居合わせたおじさんたちで記念撮影。弾さん、今日はご案内ありがとうございました!
左から、私・石川素樹さん・若原一貴さん・丸山弾さん
category








