12. 07 / 20

足の裏の米粒

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sekimoto

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> 建築・デザイン
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今週末は一級建築士の試験があるようで,うちからもスタッフが2名ほど受験する.この季節になるとみんなそわそわ,思わず自分が受験した遠い昔のことをふと思い出す.

当時僕は大学を卒業して2年が経ち,ようやく一級建築士の受験資格を得られることになった時期だった.将来は独立と決めていた僕にとって,一級建築士はまさに悲願であり,それが取れなかったら始まらなかった.だから受験資格が得られるその年,僕は1月のお正月と共に勉強を始めると決めていた.年末に参考書を買い込んで,予定通り年明けから決意も新たに受験勉強に勤しんだ.

3月を迎えた頃からだろうか,独学に限界を感じ始めて,かといって大手予備校に通うお金もなかった僕は,某専門学校が主催していた週末講座に申し込み,毎週土曜日はそこで講義を聞くことにした.1月から勉強を始めた用意周到な僕とは対照的に,この時点で勉強を始めている友人は周りには皆無に近く,勉強はGW明けから始めるという人たちが圧倒的だったように記憶している.

勉強でなにが一番大変だったかというと,仕事を最優先として,深夜まで残業して帰ってきてから,また参考書を開かなくてはいけないという二重生活だった.それはほぼ全ての受験生が直面する悩みだろうと思う.でもどうしても取りたい資格だったし,こんな生活は絶対に1年で終わりにしたかったので,かなり真剣に取り組んだつもりだった.

しかし試験直前に大手予備校の模試を受けて愕然とした.難しすぎて全くわからない.一方でその予備校の受験生たちは余裕の顔で問題を解いて退席してゆく.大手の強みとレベルの違いを見せつけられた瞬間だった.

結局その年の試験は,予備校の自己採点でもわずか一点足りずに不合格となった.そしてGWから勉強始めたという友人はストレートで合格した.頭のデキの違いもまた実感した年だった.何より来年もまたやらなくてはいけない!という事実が,落ちたことよりもずっしりと重くのしかかった.

翌年の受験でようやく学科をパスした僕は,まさか2次試験である実技では落ちないだろうと高をくくっていた.CADで仕事をしている人たちや現場監督さんと違って,自分は設計事務所勤務で,毎日鉛筆で図面を描いている.また図面なら誰にも負けないという自負もあった.専門学校の製図講座にも通ったし,自信もあった.ところがそう甘くはなかった.

その年の実技試験では見事落とされてしまった.プレッシャーからか,受験の1週間前から熱が下がらず,朦朧と会場に向かったこともあるけれど,その要因は翌年に明らかとなった.

翌年の受験は学科が免除となり,実技だけを受験できる最後の年.いわゆる角番というやつだ.ここを落とすと後がないと危機感を感じた僕は,大枚をはたいてようやく大手予備校の製図講座を申し込むことにした.背に腹は替えられないと思った.

その講座での指導方針は…まったく違った.これまで通った講座では何も言われていなかったのに,前年と同じ要領で図面を描いて持って行くと真っ赤に添削されてしまう.「こんなんじゃ落ちますよ!」とも言われた.建築士試験には,やはりテクニックが必要で,それを最高レベルに高め,情報を蓄積している大手予備校にはやっぱり敵わないとその時もまた思い知らされた.それからの僕は徹底的に受験テクニックとしての製図法を身につけていった.

この年の秋には僕は結婚を控えており,また仕事では大きな仕事を任されていて,毎日のように終電で帰っていた時期だった.家に着くととっくに0時を過ぎている.そこから風呂に入って,製図の宿題をこなし,最後に結婚式の準備をして,床に就くのが午前3時頃.翌朝のつらかったこと!もう本当にボロぞうきんのように疲れ果てた体を引きずって毎日会社に通っていた.

もう二度とこんな生活はごめんだし,できないと思った.なにより,ここで落ちたら,折角の新婚生活も受験勉強と共に始まることになってしまう.いやだ,絶対いやだ!!というのが当時の精神状態.12月に合格の知らせを受けた時は本当に嬉しかった!それまで生きてきた中で一番嬉しかったかもしれない.

一級建築士はよく,「足の裏の米粒」と揶揄される.そのココロは,「気になるから取ってはみるけれど,食えない」というもの.取ってみてわかるのは全くその通り.けれど,足の裏についた米粒を取らずして生きていくのは,この世界で生きる者としては酷な選択肢だ.

相当なプレッシャーをはねのけて結果を残すことができれば,その経験は自信となって,建築士という資格以上にその後の人生で心の支えとなってくれると思う.建築士のタマゴの皆さん,今週末はがんばってください!

12. 05 / 02

スタディ模型

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sekimoto

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> 建築・デザイン
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建築の形を決めてゆくプロセスで,プランニングよりも膨大な数のボリューム模型を作り,外側から形を決めてゆくというのが最近主流の作り方のようです.

実際大学でも,学生には図面よりも模型を作らせることに重きが置かれています.建築は常に立体で考えないといけないので,2次元の発想から抜け出ることのできない学生には,スタディ模型を一つでも多く作らせることはある意味意義ある試みとも言えます.

ところが私がかつて勤めていた事務所では,プランも固まっていないのに模型を作っているとよく怒られたものでした.模型は平面図と立面図を描いてから作るものだと.当時の僕は図面よりも造形から入る傾向があったので,自然と模型から入るクセがついていたのですが,やはりプロの世界は違うのだなとその時は思いました.

その影響かどうかはわかりませんが,うちでは今でもプロセスでスタディ模型というものをあまり作りません.計画は徹底的にプランニングに向き合うことで作ってゆきます.2次元のスケッチは描いているそばから頭の中で3次元に変換されてゆきます.それはある意味これまでの鍛錬の賜とも言えるかもしれません.

模型を作るのはプレゼン模型を作る直前にラフを作り,イメージのすりあわせをするのと(その段階で大きくメスが入ることは多々),その後にプレゼン模型を一発勝負で作るというのがウチのやり方です.

その後も徹底的にプランと断面,スケールに向き合うことで全体のプロポーションを詰めてゆきます.プランや断面が美しい建築は必然的に美しい建築になると今では信じていますが,それは若かったあの頃にはわからなかった境地とも言えるかもしれません.

カタチから入る弊害としては,目先の形に引っ張られて,こうしたいと願うあまりプランが不自然な形にゆがんだり,建築家の恣意性のようなものが前面に出てきやすいことなどがあります.今ではそういう要素を可能な限り排除したいと思っているので,よりストイックに図面と向き合う作業に時間を費やすようにしています.

とまあ,ここまで書いてきてなんですが….

今向き合っているプランニングにあたっては,珍しくプロセスを逆転して試行錯誤中.ラフにプランニングしては模型を作り,それを切り刻んではプランに反映し…という具合に.これまで封印してきた手法ですが,複雑な空間をいろんな角度から検証するには,あらためて有効な手法のひとつとも言えるかもしれません.

スタッフが皆図面作業に没頭しているので,現在所長自ら模型と格闘中.僕自身が模型を作るというのももう何年ぶりだろう.仕上がりを気にせず,ラフスケッチのようにザックザックと目の前の模型を切り刻んでいます.

日曜日にオープンハウスを開催した「川風の家」の,昨日は引渡しがありました.今日は今頃お引越しをされている頃でしょうか.

この仕事は,もともとうちの子とお施主さんの息子さんが幼稚園の同級生で,通称”問題児2人”を子に持つ親同志が結束したところから話がはじまりました.
というのは冗談ですが笑,私にとっても地元で,面識のある方の住宅を設計するというのはとても楽しみで,実際お施主さんのお人柄もあり,スタッフ共々最後までそのプロセスを楽しく堪能させて頂いたお仕事でもありました.

今回の仕事で強く感じたことが二つあります.

ひとつは「素材」について.
素材と言っても仕上げのことではありません.敷地が置かれている状況や地域性,近所の人達との目に見えないつながり,そしてお施主さんの持つ個性や世界観のようなもの.それらをひとまとめにして「素材」と呼ぶならば,我々はそれらを使って料理する料理人であり,素材が良ければ良いほど,そこには余計な味付けはいらないのだということを今回は強く感じました.

我々の設計の特徴でもある「余計な線は省き,シンプルに構成する」というアプローチも,言い換えれば素材に軽く塩を振っただけで出しているにすぎないのかもしれません.しかし素材に対していかに謙虚でいられるかということは,建築を作る上ではとても大切なことのように思います.

もう一つは「波紋」ということについて.
今回のオープンハウスでは,何人かの人に「近所の人たちは,みんなこういう家に住みたいと思うんじゃない?」と言われました.私もそうあってほしいと思いますが,実際一件の住宅が地域に及ぼす影響というものは計り知れないものがあると思います.

一つの小住宅を建てるという行為は,例えると水面にひとつの小石を放るような行為かもしれません.そこに生じた波紋やさざ波は,やがてその地域を意識/無意識にかかわらず包みこんでゆくことになります.我々はそうした波紋が跳ね返ってできた複雑なさざ波の重なりを受け止められる存在でありたいと思います.

街並みに放られた”小石”による「ハウスメーカーじゃない家」という波紋が,やがて「じゃあ,うちも」になっていったら街は少しずつ変わってゆきます.我々建築家が真にやらなくてはいけない仕事はそこにあるのだと思います.

以下は25日のオープンハウスの様子.この日も沢山の人たちが足を運んでくださいました.最後は我々の家族,スタッフにご主人が手料理を振る舞ってくださり,楽しい宴となりました.最後まで我々の設計に理解と共感を示してくださったお施主さんには,感謝の気持ちでいっぱいです.最後までありがとうございました.



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デザイナーの坂啓典さんに出会ったのは,今から10年くらい前の雑誌社主催のとある会合でのことだった.

坂さんの名刺の肩書きには「ペーパーエンジニア」と書いてあって,これはどういう仕事かと尋ねたら,いわゆる雑誌の付録などについているペーパークラフトを作る仕事なのだと話してくれた.そんなジャンルの仕事があったことにまず驚き,また興味を持った.

坂さんはグラフィックデザイナーにして,無類の北欧好き.そして家具・建築好きだったことから僕ともすっかり意気投合し,勢いから当時設計していたILMAという住宅のペーパークラフトを作って欲しいとお願いしたら,しっかりと応えて作って下さった.それが上の写真.リクエストはしなかったのに,ちゃんと施主の愛車だったミニまで再現してくれているところが,なんとも坂さんらしい.

そんな坂さんが,久しぶりに家具のペーパークラフトを担当したということで,掲載誌をわざわざ送って下さった.エル・デコ最新号の巻末にプルーヴェのアームチェア「Cite Armchair」.坂さんらしい美しいレイアウトと色使いのペーパークラフトで,折角送って下さったもののもったいなくて未だに切り取れずにいる.

ちなみに先のILMAのペーパークラフトは,当時100枚くらい刷っていろんな人にあげていたらほとんど無くなってしまった.これをお蔵入りさせておくのはもったいないので,これを期に急遽増刷で印刷にかけることにした(刷り上がったら,ご希望の方には無償でお譲りします!).

坂啓典さんの仕事はこちらから.>>図工室

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先の震災より1年が経ちました.

本住宅はちょうど1年ほど前に計画がはじまり,施主は震災のショックにもへこたれず,我々も震災やその後の原発問題にも直面しながら今住宅に何ができるのかを問い続けた家づくりとなりました.

地域とつながる家.
家族がひとつになる家.
自然エネルギーを自然体で受け止める家.

ようやく竣工しましたので,是非お越し頂き皆様のご批評を頂きたく思います.

『川風の家/K邸』

日時:3月25日(日) 11:00~18:00 ごろまで
場所:埼玉県志木市柏町
(東武東上線志木駅よりバス/柳瀬川駅より徒歩20分)

木造地上3階建て
敷地面積:66.30m2/20.05坪
建築面積:35.30/10.67坪
延床面積:84.51m2/25.56坪
設計監理:リオタデザイン|関本竜太・三浦美紗子
構造設計:GAEA|佐々木大輔
施工:堀尾建設|鳥越豊

☆ご見学をご希望の方は, >>メール にて関本までご連絡下さい.
折り返しご案内をお送りします.