一流のサッカー選手は、他人のプレーを一目見て盗むという。

人聞きは悪いけれど、「盗む」という行為はかなり高度な行為だと言える。実際我々はサッカーのすごいプレーを見たところでそれを真似することはできないのだから。それを見て自分のプレーにできる人というのは、それなりのスキルとセンスを併せ持つ人だとも言える。

大学では、学生は人と"かぶる"ことを極端に嫌う傾向がある。過去に同様の作品があったり、建築家の作品があったりすると、その時点でそのアイデアを捨て去ってしまう。僕に言わせれば、それを見たところでそれを自分のものにできるわけではないし、結局は違うものになるのだから構わず進めてしまえばいいのに、と思う。

誤解を恐れずに言えば、我々は建築を見に行くのに少なからず何かを盗みに行っている。盗むものがなければ窃盗未遂で終る。そのかわり我々は「つまらない建築だ」などとと毒づくことになるわけだけど。

目で見た、体験した空間を消化して自分の空間のエッセンスにできる人のことを、我々は「建築家」と呼んでいるのかもしれない。