26. 04 / 12

さっちゃん

author
sekimoto

category
> はまりもの
> 生活



むかし赤坂にある事務所に勤めていた頃、たまに所長に連れていってもらった広島焼きのお店があった。目の前の大きな鉄板で焼いて、そのまま食べさせてくれるお店。私は広島焼きというものをそこではじめて食べたのだけれど、当時そのおいしさがとにかく衝撃的だった。

その後いろんなところで“広島焼き的なもの”を食べてきたものの、どこか違う。おいしいけどこれじゃない。あの時の衝撃は一体なんだったんだろう?あれから30年経った今でも、あの味が忘れられなかった。

ある日、ふと端末で赤坂のたしかこの辺りだったよなとマップを辿っていたら、あった。びっくりした。お店の名前は「さっちゃん」とあった。たしかに言われるとそんなお店だったような気がする。

あの時のマスターはたしか40〜50代くらいに見えたから、今はすでに70〜80代?これは早く行かないと!

久しぶりに歩く赤坂はいろんな部分で変わっていた。あの頃よく通った定食屋やお店はすでになく、その中に昔のビルがところどころに取り残されている。そこを抜けた先にそのお店はあった。時空に迷い込んだような感覚だった。

お店の中も時間が止まっていた。けれどオーナー夫婦だけは健在だった。30年前によく来ていたことを話すととても喜んでくれた。お店は40 年続けているのだそう。目の前で焼いてくれる手つきは、40年間目の前の鉄板だけに向き合ってきた人の手つきだった。

ほんとうにおいしかった。これだ!と思った。30年間この味を忘れていなかったことに驚いたし、お店の味が変わらないことにも感動した。これはいったい広島焼きなのだろうか?ここでしか食べられない何か別の食べ物のようにも思える。

振り返ったらもうそのお店は煙のように消えているかもしれない。もう二度と食べられなくなる前にもう一度足を運びたい。