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sekimoto

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> 仕事
> 思うこと


このところ週末に新規のご面談が続いている。大変ありがたい。

私の場合、初回面談の際には我々に依頼下さった場合のメリットはもちろん、デメリットもすべて包み隠さず話す。通常初めていらしたお客さんには都合の良いことしか話さないのが普通かもしれないけれど、すべてにおいて素晴らしい選択肢なんてこの世の中にはないと思うから。

包み隠さず話すことのひとつに建築コストの話がある。設計事務所に相談に来る人の不安の9割はコストだと思っているので、最近の弊社設計の住宅の建築コストの相場についても私は包み隠さず話している。あとでだまし討ちのようになるのが嫌だからだ。しかし、これが最近なかなかつらいことになっている。

ここ数年の資材インフレによって、工務店から出てくる見積りがそれ以前とは比べようもなく上がってしまった。うちはこれまで、クオリティの割には高いコストパフォーマンスを維持してきたという自負があったのだけれど、最近ではなかなかそうも胸を張れなくなってきた。現在の市場のコスト感を正直に話すと多くの人はどん引きしてしまう。

「え、そんなに高いんですか!?」
ええ、まあ、その、、そうですね。

コストを引き上げている張本人は我々ではないのだけれど、なんだかとても罪深い気持ちになる。

手練れの営業担当者なら、きっと初回は一番安くなるパターンのことしか話さないのだろう。知人が「結婚式場の手口と同じ」と言っていた。最初に提示されたノーオプションのまま挙式を挙げる人はいないように、好みのものを選んでいくとどんどん高くなってゆくシステムで世の中はできている。自分も駆け引きして、そういうずるい説明が出来ればどんなにいいだろうと思うのだけれど、できない。私はいつも正直者なのだ。



そこにきてこんな報道。これには心が折れる…。
ここ20年で大工が半減したという。ここ40年では1/3だそうだ。あと20年後には…大工さんはいるのか?その前に我々はいるのか?まさにそんな時代がきている。

我々の設計を施工するには手間がかかる。むしろ手間しかかからない。建築工事費は手間賃の塊だ。材料費なんてたかが知れている。

だから我々は少しでもコストを抑えようと安い素材を使って、しかし手間のかかった家を作る。だから結果としてそこそこお金がかかる。我々と同じように安い素材を使って、一方で最も手間のかからないやり方をすると、建築費はすごく安くなる。なんてわかりやすいのだろう。こういう家にはコストでは勝てない。勝つべきじゃないけど、なんか悔しい。

こうして、いつしか当たり前と思っていた職人さんの手による家づくりが、どんどん工業製品に置き換えられてゆく。工場で作られた建具やシステムキッチンやユニットバスが、最小限の手間でどんどん取り付けられてゆく。先見の明のある企業は、きたる職人さん絶滅の「Xデー」に向けたつくり方にどんどんシフトしている。皮肉なことに、それがどんどん職人さんを絶滅(レッドリスト)へと追い込んでいることに気づいているだろうか。

我々が設計した家にお住まいの方、とてもラッキーだったと思います。大工さんという、未来には存在しないかもしれない人が建ててくれたのだから。

そこのあなた、早く頼まないと僕らもいなくなっちゃうかも知れませんよ?