23日と25日にかけて、「高円寺の長屋」のオープンハウスを開催させて頂きました。のべで100名ほどの方がお越しくださり、大変盛況のうちに終えることが出来ました。やはり都内で、しかも駅から徒歩7分というアクセスの良さも良かったようです。

こちらは北側の外観。左が賃貸を予定している部屋、そして右側がオーナー邸(子世帯)の玄関になります。


敷地にはもともとアパートと、その大家さんの家が建っていました。今回はその建て替え計画です。計画のはじまりは2020年の5月でしたので、足かけ3年の計画だったことになります。いやはや長かったような、短かったような。途中計画の中断期間もあったりして、ようやく完成の日を迎えられたことは、我々も建て主さんにとっても感慨深い出来事になります。

計画は計3戸の住宅が立体的に組み合わさりながら、それぞれが独立して道路に面した玄関を持つというのが特徴になります。いわゆる長屋形式の住まいです。


親世帯の玄関は南側に面しています。親世帯は1階部分に平面的に計画されています。

内部は持込の家具が最小限で済むように、また収納効率を最大に上げるため、可能な限り作り付けの収納としています。木塀に囲まれた、小さなお庭を持つコンパクトな住まいです。




一方の子世帯は2~3階に展開しています。玄関は1階にあって、入ってそのまま2階へと上がります。

壁紙やシナベニヤの塗装色は、今回はグレー色に統一しています。建て主さんのお好みからそうしたのですが、とても大人っぽくてクールな雰囲気になりました。個人的にもとても気に入っています!


子世帯は吹抜けのあるリビングダイニングスペースが特徴です。小上がりのスペースがあり、畳座や作り付けのソファなどを組み合わせて多様な居場所を作りだしています。

ダイニングテーブルを造作で造り付けるというのは、ここ最近様々な住宅で試みている設えのひとつですが、床段差と組み合わせることで椅子のいらない生活にできたり、コンパクトなダイニングスペースでも大きなテーブルを置けたりするメリットや、テーブルの下にも収納が作れるのも大きな魅力です。





キッチンは対面式として、ダイニングやリビングとも正対できるつくり。このあたりはかなり定番化してきていて、うちの標準的なキッチンの作りになりつつあります。



ほかにも開放的な洗面スペースと、テレワーク&オンライン会議が出来るコンパクトな書斎の作りも、オープンハウスでは人気を集めていました。




今回の住宅では3つめの住宅、賃貸住宅が最も注目を集めていました。

玄関前のアプローチ部分にはテラス状の通路スペースがあります。想定ではここに自転車を置いてもらったり、趣味のもの(サーフボードなど)を置いてもらうといったことが可能です。

もちろんここに椅子を置いてぼんやり佇みながら本を読むなんていうのも素敵ですよね。



住戸の特徴はなんといっても、この広い土間玄関!

自転車が好きな人なら、ここで週末自転車いじりをしても良いですね。他にもちょっとした日曜大工や、デザイナーの方なら作品を飾って街にアピールするのも良いかもしれません。

玄関扉脇のガラスは透明ですが、ロールスクリーンが標準で取り付いていることや、室内側にもアクリル障子があるので、これでプライバシーの調整が出来ます。冬の冷風対策にもなります。




内部はメゾネット形式になっていて、内部階段により上下階にフロアが分かれています。1階にミニキッチンがあり、2階の奥にユニットバスがあります。上下階あわせて約54m2(16.3坪)ほどの床面積です。

想定としては、単身~3人家族くらいまでの方なら可変的に住める作りです。ですが土間玄関部に特徴があり、外部に対して開放的な作りとなっているため、家で仕事をするような方がSOHO的に使ってもらえると良いかなとも思っています。

1階部分を事務所にして、2階をプライベート空間にするのもアリかもしれません。想像するだけでいろんな生活スタイルが可能で、お店のような作りになっても面白いのかなとか、こちらはオーナーさんのお考え次第でしょうが、是非住みこなしてほしいなと思っています。




また賃貸部には、上記とは別に個人的に込めた思いがあります。

賃貸というと、一時的な住まいであるが故に作り込みはなるべく排除して、建築費を少しでも安くあげるということがあります。水回りも既製品のキッチンや洗面ユニットを置いておしまいというケースですね。

それはある側面では正しいと思うのですが、どうも雑な作りで、入居者の快適性を担保する繊細さに欠けるような印象を持っていました。賃貸であっても、オーナーであっても、生活をするという意味ではそこに求められる快適性は同じであるべきではないかと思います。

この住戸では、キッチンや洗面台は既製のユニットを使用していますが、ひと手間だけかけて、少しでもすっきりと洗練した印象になるように丁寧に設計しました。



たとえば冷蔵庫上にパネルを付けて冷蔵庫上を収納にできるようにしたり、洗面台脇のパネルにちょっとしたナラ材の笠木を付けたり、照明幕板をつけたりといったことですね。

洗濯機上に洗剤置き場を設けたり、ユニットバスのグレードも(差額がわずかなものに)少しだけグレードアップするということもしています。こういうことの積み重ねで、全体にはあまりお金をかけていないのですが、見た目としてはそこそこ高級感のある作りになったと思います。

間接照明のある賃貸住戸というのも珍しいですよね笑。これも大した費用ではありませんがちょっとしたひと手間という意味で、戸建てを長年やってきた我々ならではのディテールだと思います。

こういうストックには必ず良質な入居者が入ります。ここでいう良質な入居者というのは、デザインの意図を理解して空間を大切に使って下さる人であったり、街とつながるようなクリエイティブな生活をして下さる方という意味です。建物前の通りの先には、近い将来に図書館もできるそうです。そうなればこの路地にも活気ある人の流れができあがることでしょう。

数年後の建物周辺の変化にも思いを馳せています。どうか街にも受け入れられる、そして街をポジティブに変えてゆく建物となりますように!

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写真ご提供:塚本浩史さま、中村健一郎さま、ありがとうございました!