20. 08 / 02

べた凪と大津波

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと


我々のような「アトリエ」と呼ばれる小設計事務所というのは、経営の安定とはほど遠く、これまでの事務所の歴史は自転車操業の歴史でもある。仕事は来ればあるし、来なければない。果たして仕事はどこからやって来るのか?その永遠の問いを考え続けるというのは、どの企業でもフリーランスでも同じに違いない。

仕事はないときは本当になくて、比較的コンスタントにご相談を頂けていたものが、ピタッとべた凪の湖面のようになくなることがある。

それが6ヶ月も続くといわゆる「干された」状態となり、自分には心当たりはないものの、どこか自分の知らないところで炎上していてネガティブキャンペーンが張られているんじゃないかとか、ご相談のメールだけがフィルターに引っかかって届かなくなっているんじゃないかとか、いろいろ考えるものである。

建築の仕事はスパンが比較的長いので、半年仕事が入らなくても先行している仕事をこなしている状態で、外から見れば相変わらず忙しくしているように映っているかもしれないが、事務所の主宰者としては無給油で車を走り続けているようなものだ。給油ランプが点灯したまま次のガソリンスタンドを探している状態というのは、精神的にはかなり追い込まれていて、焦燥感にも駆られる。しかもひな鳥(スタッフ)は口をあけて待っているのだ。

かと思いきや、何のきっかけかはわからないが、設計相談が短い期間に集中して、仕事を受けきれなくなってしまうこともある。我々の仕事のキャパはびっくりするくらい小さい。ピッチャーかと思ったら、実はおちょこだったみたいな。先の干された状態がべた凪なら、今度は大津波である。

これが不思議なもので、示し合わせたように同じ日だったり、連日立て続けに設計相談のメールや電話を頂くこともあり、裏で相談日程を示し合わせているのではないか、私の知らないところで朝のZIPで紹介されたんじゃないかと思うこともしばしばだ。

昔厨房でバイトをしていたことがあったが、注文が示し合わせたように殺到する時間帯があった。不思議なことに午後の2時すぎに急に混み始めるとか。それが過ぎると今度は殺人的にヒマになる。人間のバイオリズムなのかもしれないが、それともよく似ている。

事務所の決算も、ある年は黒字となり、またある年は大赤字になる。税理士さんからは、経営の安定のために大手から下請けの仕事をもらった方が良いと何度も忠告をもらったが、それは駆け出しの頃にやって二度とやるまいと心に決めたのでやるつもりはない。だからこのジェットコースター状態は今後も変わらないのだろう。


ところで今うちの事務所はどういう状態にあるかというと、後者の「大津波」に呑み込まれている状態である。なにがどうした?もしかしたら、私の知らないところで王様のブランチで特集が組まれたのかも知れない。

前述のように、この大波が去ったら次にはまた干されるかもしれない。だから頂ける仕事はありがたくすべて受け入れたいのが本心であるが、我々はAmazonのように商品を梱包して発送する仕事ではないので、とにかくすべてのプロセスに本当に時間と手間がかかるのである。

どの案件にも分け隔てなく、同じだけの時間と労力を投入するので、スタッフの負担を考えても同時進行できるプロジェクトには限りがある。そのため、順番待ちのためにお待たせするということが発生してしまう。

こういう時、経営に嗅覚のある人なら人を増やすのだろう。あるいは支店を増やすとか。しかし私はそれはやるまいと思っている。私は設計が好きでこの仕事を続けているので、自分自身がすべての案件に主軸で関われないとしたら、この仕事を続ける意味はないと思うからだ。

こういうことを書くと、必ず「リオタデザインは忙しくて仕事を請けられないらしい」的な噂が立ち、結果としてまた干される可能性が高くなるのだが、最近頂くご相談に言い訳のようにこうした事情を書き連ねなくてはならないことが続いていて、かなりつらい状況になってきたので、この場をお借りして正直な胸の内について書いてみた。


ということで、ここ最近ご相談下さった皆様にはご迷惑をおかけしております。申し訳ありません、、。どうか干されませんように!