刑事が犯人を追い詰めるプロセスはどうなのだろう。そんなことをふと考える。事件が起こって、たまたま同時刻に現場近くにいたというだけで逮捕ができるだろうか?いや、きっとこれは冤罪の匂いがする。

指紋が検出された。これはもう犯人に違いない!いや、数日前にたまたま触れただけかもしれない。なんといっても彼には当日のアリバイがあるのだ…。よくある推理小説の展開である。

大学で学生のエスキス(設計指導)をしていてよく思うことだ。彼らは血気盛んな新米刑事みたいなものである。敷地特性のごく一部だけを切り取って、それがあたかも全てであるかのように思い込む。

これは、たまたま通りかかった人相の悪い男を、それだけの理由で犯人だと思い込むようなものだ。「ヤマさん、奴が犯人ですよ!間違いないっす」

まあまあ、待ちなさい。状況証拠では逮捕はできないのだよ。捜査(設計)の基本は地道な聞き込みと物的証拠の収集だ。

我々は敷地に残された小さな痕跡を集める。敷地形状、方位、眺望、高低差、そして隣家位置。前面道路の交通量は?都市的な文脈は?そしてプログラム(要求事項)は?

君はそこまで調べた上で、その案がベストだと思っているのかね?もしかして、南に窓つけりゃ良いとか単純に思ってないかい?そりゃあ、冤罪ってもんだ。

あぁ、世の中に冤罪案件のなんと多いことか。
証拠不十分で釈放。あなたの家が不当に狭く、暗く、家族が不調和で物が片付かないのは、おそらくはあなたのせいではない。

「ヤマさん、裏が取れました!やっぱり玄関は北入りで間違いないっす」よし確保だ、確保!

こんなやり取りが理想なのですが…。