19. 01 / 24

罪深い仕事

author
sekimoto

category
> 仕事
> 思うこと



新宿駅の構内を歩いていて、ふと強烈な違和感を覚えて足を止めた。

なにこれ、ひどくない?床タイルが曲面のラインで張り分けられているのだけれど、そのラインはいびつで、まるで鉛筆で書き殴った下書き線のよう。


今日はこの「罪深い仕事」について考えてみたい。

まず、これを設計した担当者は床タイルの張りパターンを検討する中で、曲面によって異なるタイルを張り分けることを思いついた。悪くないアイデアだ。

しかし彼には決定的に欠けているものがあった。それは「タイルは曲面できれいに切ることはできない」という初歩的な知識(もしくは経験)である。これは無知という罪にあたる。

きっと入社間もなかったのだろう。わかる、わかるよ。それなのに新宿駅の床タイルをデザインするなんて光栄な仕事じゃないか。島根のお母さんもきっと喜んでいる。僕は君は悪くないと思う。悪いのは君の上司だ。

なぜ、この若者が描いた未熟な図面を見て「おい、こんなデザインにしたら輪郭がガタガタになるぞ!」とたしなめなかったのか。もしくは確認すらしていなかったのか。あるいは確認したけど気付かなかったのか?おいおい、まさかあなたも…?

まあ良い。そんなこともあるさ。
私も人のことを言えたものではない。

現場も現場だ。
設計者からこのような指示があった際に、熟練の現場監督ならたちどころに気付いて指摘をするだろう。「先生、お言葉ですがこの納まりは破綻しています」と。

きっと監督も若かったんだろう。もしくは工期と予算の狭間で、図面の詳細まで気が回らなかったのかも知れない。あるいは奥ゆかしい性格ゆえに、設計者に意見することが憚られたのかもしれない。君は昔からそういうところがあるからな。仕方ない、今回は許そう。

次に職人だ。タイル職人こそ、この図面を見た瞬間に嫌な予感がしたはずだ。そしてそれを口に出せば、監督を通じて問題点がたちどころに設計者と共有されたに違いない。

しかしそれもなかった。職長は忙しく、また深刻な人手不足に悩んでいたからだ。未熟な見習い工に指示だけ出して、次の現場に大急ぎで向かったに違いない。家には先月産まれたばかりの子供もいるのだ。

だよね、わかるよ。生活あるよね。板挟みだよね。
悪いのはあなたじゃない。


かくして、このようなタイル張りができあがったわけですが、えっと発注者見てますか?そこの事業担当者、そうあなた。これ見てなんとも思いませんでしたか?

え、見てない。コストとスケジュール管理しか興味がない?
そんなぁ…。

それと設計者、そうあなた。さっきは許したけど、もう許しませんよ。現場来てますか?最後チェックしたよね?お願いだからしたって言って!

で、見たならザワッとしなかった?あなたの心にザワッと。なんていうか、これは設計者の良心みたいなやつなんだけど。これがなかったら設計やっちゃダメみたいなやつなんだけど!島根のお母さんは泣いてるよ。

そして…。
そこの足早に歩いてるあなた!そうあなたですよ。
気付いて。足元、そう足元!これやばくないですか?

え、全然気にしないって?
こんな床撮ってるお前の方がやばい?

失礼しました…。でもこれは無関心という罪。
どうせ誰も見ちゃいないんだからって、こんな罪深い仕事をさせちゃだめですよ。