ギフトの本質は時間そのもの。
誰かがそんなことを言っていました。誰かのことを思って何を贈ったらと悩む時間や、特別な品をお取り寄せする時間、あるいは出来あいのものではなく敢えて手作りするという時間…。
贈られたものそのものよりも、その向こう側に見えるそんな”時間”にこそ、我々は心が躍り、幸せな気持ちで満たされるのかもしれません。そう考えると我々の作る住宅はまさに「時間そのもの」と言えるかもしれません。
昨日、TRという住宅の内覧会がありました。建て主さんのご希望もあり、告知は行わず内輪だけの内覧会とさせて頂きました。その中で多くの方に今回の住宅における施工精度や密度のようなものについて、多くのお褒めのお言葉を頂きました。
今回の住宅はいつも通りの設計で、いつもと同じような素材を使った住宅です。建て主さんも特殊なお仕事をされているような方ではありません。敷地にもとりたてて特殊な条件はありませんでした。とにかくいつもと同じ。家を建てようという方、全ての方が同じようにお持ちの条件の上に建っている家だと思って下さい。
その上で、この家を特殊たらしめているのは、建て主さんが手っ取り早く建てる方法はいくらでもあるこの世の中で、我々のような設計事務所に設計をご依頼くださったこと。それに尽きると思います。
とにかく打合せにも時間がかかりましたが、それもすべて建て主さんが望んだことでした。建て主さんは心からプロセスを楽しみ、そしてその様は、まるで我々との家づくりが永遠に続いて欲しいと願っているかのようでもありました。
前述のように、この住宅には特別な素材は使っていません。きわめていつも通り。しかしそれをきわめて丁寧に設計し、そして施工して頂きました。
今回の施工にあたっては、建て主のご要望を受けて望みうる最高の施工チームを編成しました。大工、板金、塗装、建具、家具、そして植栽。それらを束ねる工務店。すべてが私が認める一流の仕事人達です。
一流は高いのか?と言われると実は必ずしもそんなことはありません。ただ時間はかかります。よくありがちな”レンジでチンすればできあがり”みたいな仕事ではないからです。
最後に棟梁に「この家で最も手間がかかったのはどの部分か?」と訊ねたら「子ども部屋」だと答えました。これはある意味我々の作る家を象徴しています。
子ども部屋はローコストに仕上げるために、今回壁と天井はすべてシナベニヤで仕上げました。シナベニヤは確かにローコストな素材ですが、石膏ボードの上から塗装したり、クロスを張ってしまうような仕上げと違ってごまかしが利きません。
だから細心の注意が要求されます。ちょっと採寸を誤ったら、それだけで材料はロスになります。同時にシナの色味や節などが、見る人に違和感を感じさせないように吟味しなくてはなりません。それは新鮮な食材を、最小限の包丁入れと味付けだけで成立させる料理が最も難しい、という領域とよく似ています。
それが一分の隙なく完璧に納められた瞬間、シナベニヤ仕上げは漆喰仕上げにも劣らない、背筋が伸びるような気品溢れる仕上げへと変わります。その向こう側に途方もない手間(時間)を封じ込めているからです。さもなくば、ただの”安っぽい仕上げ”に成り下がるばかりです。
外装の板金仕上げもそうです。ガルバリウム鋼板と言えば少しは聞こえは良いですが、要は”トタン”です。かつては安普請の代表選手のようにも言われていました。実際ガルバリウム鋼板はとても安い素材です。
それがどうでしょうか。この外壁を見て安普請だと思う人はあまりいないかもしれません。これは私が板金職人を指定して葺いて頂きました。今この仕上げができるのはこの人しかいないからです。どこがどうという説明はここでは省きますが、これをそのまま真似して施工できる職人は、かなり限定されるはずです。
スーパーで買ってきたキャベツでも、最高の料理人が調理すれば気品溢れるフレンチになるということになりましょうか。申し添えれば、火加減(施工)だけでなくレシピ(設計)が重要だということは言うまでもありませんが。
これもまた、安価な素材であっても、その向こう側に膨大な手間(時間)を封じ込めることによって、タダモノではない佇まいになるという一例でもあります。
こんな風に書くと、なんだ安い素材だけで作られているのかと。
「安い素材x安い素材=安い工事費」ですか?と言われると、必ずしもそうではないというのも不思議なものです。すごく高いということはありませんが、住宅メーカーさんの坪60~70万円の家というわけにはいきません。どうしてでしょうか?
それは手間(時間)がかかっているからです。
ここまで書いてわかって頂けたでしょうか。我々の家づくりは「時間にお金を使う」家づくりなのです。我々は素材そのものというより、手間という名の時間にお金をかけているのです。時間こそが最高のギフト、そして時間こそが価値なのです。
スマホでポチッとすれば翌日に物が届く時代だからこそ、我々の家づくりは貴重なのだと思います。今回建て主さんは、どんな裕福な方よりも豊かな体験をされたに違いありません。今回の家づくりを通してつくづく感じたのはそのことです。
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