「さつきの家」のオープンハウスを昨日開催し、無事終了しました。遠方にもかかわらず、多くの方に足をお運び頂きました。ご来場下さった皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。

この住宅は建て主の育った家の建て替え計画で、ゆったりとした広い敷地全体を活用する配置計画からはじまり、予算計画、法的な整理に時間がかかりました。そしてなにより既存の環境と建て主やそのご両親の記憶や歴史をどのように留め、継承するかというテーマも大きなものでした。


道路からのファサードは、片流れ屋根を組み合わせたリオタデザイン鉄板のデザインアプローチでまとめています。

外装はガルバリウム鋼板の立はぜ葺き。サステイナブルに建物を次代へつなぐ性能を担保した上で、色も周囲の環境から浮き上がることなく馴染むよう、注意深く選びました。



先にブログでもご紹介した、製作による手作りカーポートと、地面から浮かせた軽やかな妻壁をくぐるようにして玄関にアプローチします。

建物は庭側から見ると「コの字」型の開放的な表情で、軒を深く出し雨から躯体を守った上で、庭に開放的にひらいた作りがその特徴です。



内部のリビングは、基準の床面より40cmほど下げています。これは庭との関係を考え、より直接的に空間と庭とをつなげたいと考えたことと、重心を低く、リビングに落ち着きを持たせたいと思ったことがありました。

一方のダイニングは天井を低く抑え、窓先からはシンボルであるサツキツツジを眺めることができます。


リビングから家具で仕切られた畳コーナー。子供たちがここで遊んだり、勉強したり、はたまた昼寝をしたりというシーンをいろいろ想像しながら作りました。仕切りとなる家具の高さにも工夫を凝らしています。

ここでどんな振る舞いをするかはもちろん家族に委ねられるものですが、ただ「自由にやってください」と突き放すのではなく、家族の居場所を丁寧に作ってゆくことが大切です。それが住宅を設計するということではないかと思いますので。


住宅を貫く15mの廊下。家族の営みを一本の串で串刺しにしたようなこの眺めが、この家を象徴しています。



玄関には既存住宅の欄間を再利用してはめ込んだハイサイド窓と、大きな地窓いっぱいに切り取ったサツキツツジが家族を出迎えます。夜になると、その欄間からの灯りも外にこぼれます。


こちらはトイレの引戸のガラス。ある年代以上の方には懐かしいと思える型ガラスですね。もう新しい住宅には使われませんので、お子さんにはとても珍しいガラスに映るかもしれません。

こういう演出にはデザイン的な意味はなく、理屈を越えて家族の心の”ひだ”と結びつく部分であると考えています。いわば遺伝子のようなものでしょうか。

我が子に自分のアイデンティティの欠片を見いだして愛おしく感じるように、この現代的な住宅が宇宙船のように突如として舞い降りたものではなく、自分たちの記憶や人生の延長線上に継承されたものであるということを、建て主に感じてもらいたいという思いがあります。こういうものの集積が、その家を世界に一つだけのその人だけの家にしてゆくのだと思います。


このお庭もそうです。既存の住宅のいくつかの樹を大切に移植して利用しています。切って新しいものを植えた方がよっぽど楽でしたが、造園家の湊さんにも意気に感じて頂き最大のご協力を下さいました。湊さん、ありがとうございました!


建て主さんは当初設計の相談にいらしたとき、自分たちが設計事務所(建築家)などに設計を頼むなどおこがましいのではないか、という控えめのご発言をされていたのを覚えています。現実的にも、もっと安く早く建てる方法はいくらでもあったはずですが、最後まで悩んで我々との家づくりを選んで下さいました。

時間も手間もかかりましたが、建て主さんの思いには正面から100%お応えできたのではないかと思います。最後に心から喜んで下さり、また何よりご両親がこの敷地が活かされたことに本当に喜んで下さったと聞いた時には、胸が熱くなりました。

社会に対して、住宅を作る以上の素晴らしい”何か”を成し遂げたのではないかと束の間でも思えることは、我々にとって忍耐強く仕事を遂行する上で大きなモチベーションとなります。”仕事以上の何か”をしていると感じることが、我々にとって「建築」という行為なのだとあらためて思います。





見学には過去のOBクライアントさんをはじめ、現在進行中の方、また同業の建築家や工務店、メーカーの方など、みなさんに熱心に見て頂きました。遠方だったこともあり、適度な参加者数で理想的な見学会でもありました。

ちなみに、この住宅の温熱性能はUA値で0.62(W/m2K)となっています。2020年の義務化基準である0.87よりもはるかに高性能な数字が出ていますが、ただ欲を言うともう少し工夫できた点もあり、我々としては今後更なる設計の改善を考えたいとも思っています。デザインと性能との両立は、リオタデザインの今年の大きな設計テーマの一つです。


最後に建て主のOさん。

最後まで家づくりを楽しまれている様子が伝わってきて、またその誠実なお人柄にいつも助けられていました。いろいろありましたが、楽しかったですね!最後までお気遣いを頂きありがとうございます。今後とも、末永いお付き合いをよろしくお願い致します。