一昨日、昨日と開催しました「路地の家」のオープンハウスでは大変多くの方々にお越し頂きました。まずは足をお運び下さった皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

「路地の家」では細い路地に生まれた小さなオープンスペースを活かした開放的な作りにすること、またただ収容量があるだけでなく、見て楽しめる”見せる書架”としての本棚を作るというのが、クライアントから求められた二つの大きなご要望でした。


前者の路地に開放的な作りにするという点に於いてはプランニングが、後者の見せる書架にあたっては、安全かつ機能的に出し入れが出来るという点に於いて、美観と高い技術的解決とがそれぞれ求められました。

北側玄関側のファサードは、ストイックな切妻屋根とガラス窓、そして玄関扉だけがあります。対照的に、南側路地には大きく開かれ、上部に小さな小窓がアクセントのように付いています。



通常ファサードというものは意図的に作る部分と、”そうなってしまった”部分とがありますが、この住宅のファサードはかなり意識的に、意図的に作られています。

うちの事務所はなぜかグラフィックデザイナーのクライアントが多いのですが、この方達はまず例外なく線の美しさにこだわり、理屈をこねる前に手が動き、こういうものが良いということを直感的に導かれる傾向があるような気がします。

グラフィックデザインで言えば、ある意味窓位置は”文字組み”であり、その大きさは”フォントの級数”みたいなものです。それらが溶け合い、違和感なく”気持ちよい”と感じる状態に落ち着くことが、住まう方の空間の気持ち良さにもつながるような気がします。

前述のグラフィックデザイナーのクライアントが多いという理由は、きっと私自身、とても”グラフィックにうるさい(=めんどくさい?)"人間であるということとも無関係ではないかもしれません笑




リビングの建具を開け放つと、外部と大きくつながります。更に木製の門扉も開け放てば、路地空間とも一体でつながります。オープンハウス時は最高の天気に恵まれましたので、この気持ちよいつながりを皆さんに体感して頂けて良かったです。

リビングは敷地の高低差を利用して床をスキップさせ、玄関側より360mm床を下げています。そのことと併せ、階高を通常より高めの2,910mmにすることで、リビングの天井高を3.2mまで確保しています。

いわゆるこうした住宅密集地で、住宅のリビングを1階に設けると、光が入らず暗く陰鬱な感じになることがありますが、この住宅では開口部を大きく取ったことや、天井を可能な限り高くしたことで、1階であっても明るく開放的な作りにすることが出来たと思います。



一方の書架には、昨日のオープンハウスではクライアント自ら、ご自身のこれまでのお仕事の一部を展示下さいました。これが入ったことで、俄然この空間が引き締まりました。こうしたお仕事を巡っての思考についてもお話が伺えて、とても楽しかったです。



そしてこれがいよいよ目玉の”見せる書架”です。これについては、写真ではなかなか説明しきれないので、以下に動画をアップします。是非こちらで見てみて下さい。

【床パネル開閉動画】

本棚全景(上から)
本棚全景(下から)
可動パネル機構(上から)
可動パネル機構(下から)
パネルを固定する




30~40kgにもなる床パネルの上げ下げには、ガスダンパーという機構を使っています。車のハッチバックなどに使われている機構で、建築に使われることは少ないのですが、今回この機構に出会ったことで、ようやくアイデアが実現に向けて動き始めました。最初に言い出したクライアントですら、本当に実現したことに驚かれていたほどです笑

機構の調整にあたっては、メーカーのスガツネさんにも多大な技術協力を頂きました。こちらもこの場をお借りして御礼申し上げます。



個人的には、この最上部に設けた小部屋が気に入っています。

こういう部屋って、意味もなくワクワクしますよね。色使いにもちょっと遊びを入れたりして、小さなお子さんがいるお宅だと、こういう所で想像力が育まれるような気がします。


あとは随所のこんなスイッチや小物、引手などにも反応された方がいっぱいいらっしゃいました。こういう部分は、我々の趣味というよりはクライアントのご趣味に委ねている部分です。今回こうしたアンティーク系のものがお好きな方でしたので、自由に選んで頂き現場に取り付けて頂きました。

家づくりでは、こういうちょっとしたスパイスの部分もとても重要だと常々感じています。



今回の住宅は、去年入社したばかりの新人・砂庭さんに担当してもらいました。私ですら腰が引けるほどの難しい住宅でしたが、既に退所した山口くんのサポートなども借りながら、最後まで立派に務めあげてくれました。上の写真は、見学にいらして下さった建築家の伊礼智さんに労いの言葉をかけて頂いているところです。

彼女は大学の卒業設計に、こうした街に開かれた住宅のあり方をテーマに選んでいましたので、彼女にとっても建築の理想と現実について学ぶ良い機会になったことと思います。けれども、一方では学生が思い描いた夢物語も、しっかり積み上げてゆけば実際にもちゃんとできるのだ、ということも学んでもらえたかなと思っています。


最後に、今回の素晴らしいお仕事の機会を下さいましたクライアントのOさんには心より感謝しております。最後までドキドキしながら現場監理をしていましたが、最後に心から喜んで下さったことが何よりでした。いつもこの瞬間のために仕事をしていると思える瞬間です。

最後に記念写真をパチリ!
関係者の皆さま、お疲れさまでした。