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sekimoto

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昨日、小金井市で進めていました住宅「TOPWATER」の引渡しとオープンハウスがありました。

TOPWATERについては以前にも書きましたが、トップウォータープラグという水面に浮くルアーを使ってバスを釣るという釣りスタイルを愛するクライアントのために設計した住宅です。ある意味、”魚を釣る”という目的そのものよりも、その”手段”にこだわったそのスタイルは、極めて趣味性の高いスタイルといえるかもしれません。

とはいえ、我々が設計する住宅ですので、遊びを優先して機能を犠牲にしたような住宅はやりません。厳しい建築制限の中でストイックに空間の贅肉をそぎ落とした、結果的に機能美とも呼べるような住宅ができあがったように思います。



23坪という小さな敷地に、駐車スペースを2台確保しています。その上空に大きく2.2mはね出したバルコニーを設けました。多くの方に鉄骨ですか?と聞かれましたが、すべて木造です。

そしてそのバルコニーの下には、クライアントの趣味であるカヤックが吊られています。こんなちょっとした部分に、クライアントのキャラクターや生活感がにじみ出ていて、個人的に好きな設計のチャームポイントです。

また、全面をガルバリウムで覆っていますが、人の手が触れるような場所には木を使う(気を遣う?)というのも、我々の設計のこだわりポイントです。外壁のレッドシダーはラフ面を使って、クールなガルバリウムとの対比も狙っています。


ガルバリウムもなんてことないように見せていますが、実はかなり高度な納まりをしています。毎回決まった職人さんを使うことで、現場を重ねるごとにお互いのスキルアップを図っています。ですが、この話は長くなるので省きます笑

内部は一転して高く、開放的な作りとしています。



ハイライトは、天井梁から吊られたロフト床でしょうか。結果的にアクロバットな構造になっていますが、もちろんアクロバットを狙ってやっているのではありません。それが最も合理的だからです。下に柱があったら邪魔ですよね。

実は鉄骨の階段も上部ロフト構造の一部になっています。この斜めの斜材はロフトの揺れを押さえる”筋交い”にもなっているのです。このように、ひとつのエレメントが、いくつもの意味や働きを持つように考えてゆくというのが、我々の設計の真骨頂です。

そしてお気づきでしょうか。あらゆるところで顔を出す、この”吊り”というキーワードが、”釣り”とも掛かっているということに。



地味すぎて誰も気付いてくれませんでしたが、この鉄骨手摺りも現場でどのように固定しているかなども、今回うまくいったポイントです。

パイプはまだサネで納めるとして、フラットバーの端部処理は?などなど、本当は同業の方々にもっと突っ込んで欲しかったのですが、まあいいです。ちなみに、階段側の手摺りは家電搬入のために外れるように加工しています。


こちらは、はねだしバルコニーに設置された物干しバー。多少たわみはありますが、洗濯物を干すくらいなら問題ありません。ハンガーで傷が付きますので、メッキ仕上げが正解だと今のところ思っています。

そして収納。
今回床面積が限られているので、大きな納戸を設けることができません。とにかく分散して取る!ということで家中のありとあらゆる隙間が収納と化しています。いろんなところが開きます。それぞれに、目的と意味と機能がありますがここでは省きます。



これまた地味なポイントですが、これはキッチン脇の洗濯機収納。言いたいのは洗濯機じゃありません。折戸の吊り元側の内部壁を地味にふかしているということです。この辺のニュアンスを、昨日はどのくらいの人が気付いてくれたでしょう。


これも気を抜いていると設計者が陥りがちなミスあるあるポイントです。実際過去に何度か痛い目に遭っています。今回のような場合は、折戸の吊り元側をどうしてふかさなくてはいけないか。あえてこれ以上書きませんが、経験ある設計者にはもうおわかりでしょう。


つまらないことばかり書き連ねていますが、要は私が言いたいのは、吹き抜けがどうだとか、空間が、素材がとかいろいろありますが、そういうものばかり追い求めていると大きな落とし穴がありますよということなんです。

住宅の設計というのはバントを打つように確実に塁を進めなくてはいけない。無数の、語るに値しないほどのディテールの積み重ねがあってはじめて成立するものだと思うのです。それでも完璧にはほど遠い。住宅設計が奥が深いと言われる所以です。


こちらは玄関脇の”納戸”という名のご主人の秘密基地。
わずか1.3畳ほどですが、贅沢を言わなければ狭小住宅でも十分に夢を叶えることはできます。目の前にはコレクションのルアーがずらり。


そしてレッドシダー張りの浴室。
こちらは定番のハーフユニットバスとの組み合わせによるものです。なぜ木を使うかわかりますか?なぜなら、タイルより木の方が安いからです笑。それなのに贅沢な空間になる。こういうのをオイシイ話と言います。木の種類を変えると、また違った雰囲気になります。

カビが生えるという人がいますが、常時換気を併用させているので、過去に壁や天井にカビが生えたことはありません。木製引戸の下框だけ、入浴後にちゃんと拭いてくださいとお伝えしています。

ちなみにこのお風呂、クライアントのお子さんには”温泉みたい!”と大好評のようです。



これは地下収納。
地下室というよりは、一部を深基礎にして床下空間を大きく取っているというニュアンスに近いです。これだけで3畳くらいありますから、季節の家電や、生活空間を圧迫するような雑収納を床下に放り込んでおくだけでも、部屋を広く使うことができます。

湿度の問題もあるので常時換気を回します。もちろん物事には絶対ということはありませんので、半地下を作るリスクも含めて、事前にクライアントときちんと共有する必要があると思います。


昨日のオープンハウスは、久しぶりにオープンで告知したこともあり、本当に多くの方にいらして頂きました。お越し下さった皆様、誠にありがとうございました。

ただ小住宅だったので、一時期は室内が銀座か竹下通りかというような混雑ぶりになってしまい…主催者としてかなりヒヤヒヤしていました。ゆっくりご覧頂けなかった方もいらしたかもしれません。申し訳ありませんでした。




オープンハウス終わりでは、関係者を交えてクライアントさんとの恒例の打ち上げがありました。

打ち上げの席では、お施主さんからサプライズのプレゼント。メガネ掛けのフィギュアにはお施主さんがカスタマイズで手を入れて下さっていました。目には赤いメガネが描き加えられ、服にはなんとシールを貼って私のトレードマークであるドットシャツに!



もう一つのプレゼントは住宅タイトルの由来にもなったトップウォータープラグ。そこにはお子さんの字で「いえをつくってくれてありがとう!」
嬉しいなあ!こういうことがあるから、住宅設計はやめられないんです。

クライアントのIさん、最後まで明るく楽しい家づくりを共有させて頂きありがとうございました。家づくりを遊びに例えては怒られてしまうかもしれませんが、Iさんの遊び心溢れるライフスタイルになぞらえて言うならば、「遊びは真剣にやるから楽しい!」ということになりましょうか。

今回ご紹介した細かい、取るに足らないような無数のディテール話なども、こちらがお話しする度にとても喜んで下さいました。トップウォーターのスキッピング・キャストのように、勢いを失うことなく水面を跳ねるようにして進んでいったプロジェクトでした。

工事を担当して下さった宮嶋工務店の池田さんにも、この場を借りて御礼申し上げます。関係者の皆さま、お疲れさまでした。そしてありがとうございました!