LIXILでのJIA住宅部会セミナーは昨日無事終了しました。このブログを見てご参加下さった方も数組いらっしゃいました。ご来場下さった皆様どうもありがとうございました。

今回のセミナーのテーマは「建築家の設計の進め方」ということで、普段誤解されていたり、理解されていない我々の仕事の進め方や中身について、建築家・湯浅さんの進行のもと、私と中澤さんの二人で交互にお答えさせて頂きました。

本当はもっとお話ししたいことがあったのですが、時間の都合であまりお話しできなかったこともありました。また今日いらっしゃらなかった方にも参考にして頂きたいこと(実際よく聞かれること)もあったので、この場でも私の回答分のみですが記録を残しておきたいと思います。

ただし、以下はセミナーでお話しした内容そのままではありません。議事録ではありませんので、文脈をわかりやすくするために適宜加筆・編集していますことを予めご了承下さい。


暮らしとデザイン ~建築家の設計のすすめかた~
2016.11.26 LIXIL SUMAIセミナーより

Q1: 家を建てる前に考えておくことはありますか?

関本: はじめての家づくりと、はじめての海外旅行は似ています。はじめての海外旅行は不安だと思いますが、そのために英語がペラペラになっておく必要も、その国の文化や歴史に精通している必要もありません。ご夫婦でガイドブックをめくりながら、こんなところに行ってみたい、こんな料理を食べてみたいと盛りあがるプロセスが楽しいのだと思います。家づくりでも同じように、建築雑誌をめくったり、テレビ番組を観たりして、こんな家に住んでみたいというイメージをご夫婦でどうか共有されて下さい。断熱や構造のことは、言われなくてもちゃんと我々が考えて進めますので。

Q2:建築家に設計を依頼するのはどのタイミングが良い?

関本: できれば土地探しを始める前にいらして頂くのがベストです。過去には、土地に予算が取られすぎて建築予算が組めなくなってしまった方もいらっしゃいました。バランスの良い家づくりのためには、土地と建物の予算配分も大切だと思います。また、専門家でなくてはわからない土地探しの落とし穴もたくさんあります。そんな予備知識を入れてから土地を探すのが家づくりの近道だと思います。

Q3:あらかじめ要望書などは用意した方が良い?

関本: 要望を箇条書きにすることなどは考えを整理するためには有効ですが、要望書よりも私は対面でのヒアリングを重視しています。箇条書きされたものをそのまま出されると、優先順位がわからず、そこに書かれた言葉を非常に強い意味に受け止めてしまうことがあります。対面でお話しすることで、ご要望のニュアンスや強弱、それに対するご夫婦間の温度差なども含めて汲み取ることができます。事前に夫婦で話し合って頂くことは大前提ですが、私は打合せには手ぶらで来て下さいとお願いしています。

Q4:イメージをどう伝えるのが良い?

関本: はっきりと要望が定まっているものに関しては、具体的にお伝えしてもらったほうが良いですが、どうすればよいかわからないものは、わからないなりに抽象的な言葉で伝えてもらった方が逆にイメージが膨らんで、お施主さんが思いもよらなかったような提案が出せることもあります。過去に「お箸のような家にして欲しい」と言われたことがありました。その心は、シンプルだけどどんな使い方もできる家とのこと。うまいなあと思いました。我々の想像力がフル回転するのはそんな時のような気がします。

Q5:要望はすべて叶えてくれますか?

関本: ご要望はなるべく叶えるようにしています。ただ、一方では言われたことをそのまま叶えることがご要望を叶えたことにならないこともあります。我々が大切にしているのはそれを咀嚼するということです。例えば大きな窓が欲しいと言われたとき、言われたとおりにしたらプライバシーが損なわれて、結局カーテンを締めきりにされてしまうかもしれません。大切なのは光が欲しいのか、眺望が欲しいのか、閉塞感が嫌なのか、それによってはトップライトにしたり中庭にしたりといった、別のアウトプットも出てくるかもしれないということです。なのでお施主さんも要望の伝え方には工夫が必要ですし、我々にもコミュニケーション能力が求められます。

Q6:ご提案のプランはいくつ用意しますか?

関本: 原則としてはお出しする提案は一つです。プランの可能性がいくつあるかと尋ねられれば、3つ以上はあると思いますが、それを並べてお施主さんに選んでもらうという方法には違和感があります。人から相談を受けて、「どうしたら良いか?」と訊かれたら、私は「こうした方が良い」とシンプルに自分の考えを答えると思います。設計の提案とはそういうもので、その答えに違和感を持った場合は、その人ではない人にお願いするのが得策かもしれません。

Q7:建て主とのコミュニケーションは何のため?

関本: お施主さんは我々と話をすることで、自分たちの性格やライフスタイルについてより深く理解できると思っています。ある意味壁打ちのようなもので、我々は壁打ちの壁でありたいと思っています。私はお施主さんがおっしゃったことを咀嚼し、同じ意味のことを別の言葉や形でオウム返しをしてゆきます。お施主さんは自ら話すことで考えが整理され、できあがったものは我々が創造したものなのか、お施主さん自身が作り出したものなのかが曖昧になってゆきます。住宅における”デザイン”とは、そのプロセスでちょっと”盛る”作業のことかもしれません。住宅はその人の映し鏡だとしても、その人を等身大よりもちょっとだけ美しく映し出す鏡であるべきだと思います。

Q10:建築家がハウスメーカーや工務店と違うのはどういう点ですか?

関本: 組織や企業の一担当者としては、個人的な意見は発しにくかったり、求められなかったりすることもあるかもしれません。「個人的には○○」と思っていたとしても、「会社の方針としては△△」だとしたらそちらが優先されるのが組織です。我々は個人として生き、自らの価値観で仕事をしています。こんなことを言ったら失礼かなと思うことでも、はっきり言うべき時は言いますし、自らの得にならないことでもそれが正しいと思えることは正直に行動するようにしています。ハウスメーカーや工務店がそうではないということはけしてありませんが、設計を専業で行うことによってより中立性は保たれると思っています。

Q11:住宅を設計するときに、最も大切なことは何ですか?

関本: 私にとってそれは「美意識」のようなものだと思っています。それは審美的なものも含まれますが、生活感覚や金銭感覚、そういうのは嫌だなとか、気持ち良いなといった価値観や道徳心のようなものも含まれると思います。我々はお施主さんそれぞれの美意識にチューニングを合わせ、この方はこういうのはきっと嫌だろうなとか、こういう設計をしたらきっと喜んでくれるだろうな、と想像しながら設計をしています。プレゼンテーションやお施主さんとの打合せは、その答え合わせのようなものかもしれません。


きっとこのセミナーシリーズ、まだまだ続きそうです。
またの機会をお楽しみに!