25. 05 / 04

新傾向



少し前にオープンハウスにやってきた学生がいた。聞くと私の母校の学生だった。珍しい。母校の教育傾向かはわからないけれど、母校の学生は我々が日々向き合うような実務的な木造住宅には興味を持つ者が少ない(ような気がする)。

しかしその子と話して驚いた。その子の家は事務所のすぐ近所にあるという。うちの事務所のことを知ったのは中学生の時のことで、それがきっかけで建築を志すことを決め、高校は私と同じ大学の系列校に進んだという。その後同大学の建築学科へと進み、この夏には私の事務所のオープンデスクに来たいという。

もうひとりいた。聞くとやはり私の母校の学生だった。珍しい。インスタで私のことを知り、自邸のYouTube動画はもう20回以上は見たという。彼もこの夏にオープンデスクに来たいという。でも断られたらどうしよう、そんな不安でこの一週間はずっと緊張していたそうだ。

オープンデスクは原則として断ることはないけれど、今どきこんな熱心な学生もいるんだと驚いた。しかも母校の学生で(と言ったら怒られるかもしれないけれど)。最近の学生の新傾向かもしれない。だとしたら希望が持てる。そしてちょっと嬉しい。

気をよくしたこともあり、このGWに大学の課題の課外エスキスをしてあげることにした。大学の課題を学生と一緒に考えるのは何年ぶりだろう。思えば非常勤をやっていた当時はGWにはよく学生が課外エスキスにやってきた。実務を離れて「建築ってなんだろう」を考える時間はとても貴重で私も頭の柔軟体操になる。

他にももうひとり、、この話はまたおいおい。
最近仕事が増えないのに人ばかりが増える、、まあいいか。この夏は賑やかになりそうだ。

今日はスタッフ+オープンデスクの学生と、元スタッフの矢嶋くんも誘って地元の普光明寺まで。普光明寺は過去に寺務棟と庫裏を設計させて頂いたお寺で、矢嶋くんの担当案件。普光明寺は地味に1200年もの歴史があるのです。

今日はそんな普光明寺の33年に一度の秘仏ご開帳の日。この機会を逃すと次に見れるのは85才の歳、、生きてる自信ない、笑。秘仏は言い伝えによると源頼頼と頼家が運慶に命じてつくらせたという千体地蔵。事実かどうかはわかりませんが、とにかく感慨深いものがありました。(写真NG)

ともあれ、ようやくの快晴に土手沿いに束の間のお花見。ようやく春!!という感じです。矢嶋くんとも久しぶりに会えてよかった。良い1日でした!






先日のブログに書いたとおり、今週は長岡造形大学から横山美羽さんがオープンデスクとしてやってきていました。
いつものように課題を出題し、毎日エスキースをしたり、スタッフと一緒に食事に出かけたり、セミナーに参加したりの怒濤の一週間でしたが、楽しく研修をしてもらえたようでなによりでした。

さすが美大の学生さんだけあって、手を動かすのは苦ではないようで、毎日黙々とデスクに向かってはたくさんのスケッチをエスキース帳に残していました。この学生で特徴的だったのは、スケッチを描きながらちゃんとスタディ模型も作ること!うちのオープンデスクでは、プランニングに夢中になるあまり、屋根や建物全体の造形検討が疎かになってしまう学生がほとんど。

ちゃんと鉛筆を走らせながら、片方では空間ボリュームの検討を進めたおかげで、屋根に特徴のあるユニークな住宅ができあがりました。もう少し磨けばもっと光る案になることと思います。

感受性が高く、助言を素直に受け止めながら日々進化を続ける姿が印象的でした。地方学生だったため、一週間ホテルに泊まっての参加となりましたが、終了後は岡山の実家に帰るとのこと。久しぶりの実家でのんびりしてください。一週間お疲れさまでした!!


Arupの構造家であり長岡造形大学でも教える大学同期の友人、与那嶺が彼のゼミ生を連れて事務所までやってきました。長岡にこもっていては建築の刺激がないだろうと、彼の計らいで毎年東京方面にゼミ旅行を企画しているそうです。うちへは一昨年に続いて今回で二度目の来所。

皆とても礼儀正しくて良い学生さん。うちの自邸を案内して、近くの定食屋さんでランチをご一緒しました。私からは著書をプレゼント(サイン入り)。うち一人は来週からうちの事務所のオープンデスクにやってきます。こちらも楽しみです!

この日はこの後、組織事務所見学に行ったそうです。顔の広い彼ならではネットワーク、学生さんも幸せですね。
昨年の夏、うちの事務所にオープンデスクに来ていた学生からメールが届いた。オープンデスクを終えて取り組んだ大学後期の設計課題ではじめての教室選出、そしてその中で更に1位に選ばれたとのこと。そのメッセージを嬉しく読んだ。

オープンデスクというのは建築業界の言葉で、いわゆるインターンのことだ。大学生が夏休みや春休みなどの長期休み中に、設計事務所などに無償の研修を願い出る制度のことを指す。

ただこれが業界では良いように使われることもあって、設計事務所の中には「オープンデスク募集」などと堂々とサイトに書いているところもある。オープンデスクは募集するものではなく願い出るものだ。つまり、業界的には、「タダ働きしてくれる都合の良い労働力」の隠語となっている側面もあるように思う。

私の考えとしては、事務所の戦力となる働きをしてもらうのであれば、対価としてお金を払いたいと思う。しかしわずかな期間やってくる学生に、責任の発生する仕事など触らせられるはずもなく、結局うちでは毎回私が設計課題を出し、それをほぼ毎日設計指導をするという、タダ働きならぬ、タダ建築講座を開講することになる。

私も設計塾やセミナーに呼ばれば、ちょっとしたお金を頂く身分であるにもかかわらず、学生さんには大盤振る舞い。毎日数時間の設計指導に、現場への帯同や解説、その他私の行く先々に連れて行ってはお金もすべて私が払うのだから、うちに来る学生はずいぶん恵まれていると思う。大学の設計指導なら週に一度、一人あたり10分程度というのが相場だ。

けれど学生の方も、勇気を出して設計事務所にアプローチし、バイトも休んで無償の研修を申し出るのだからそれなりの覚悟はいる。私としてはその覚悟に応えたいと思う。

うちの元スタッフ砂庭さんも、うちのオープンデスク生の一人だった。彼女もオープンデスク後の設計課題は、常に最優秀賞が取れるまでになったという。また現スタッフの佐藤くんも元うちのオープンデスク生だ。大学をはなれて取り組むオープンデスクは、時にその人の人生を決めることもあるということかもしれない。

オープンデスクの良さは、建築のリアルに触れられるということに他ならない。大学で学ぶ建築は、良くも悪くもフィクションだ。そこに住まう人の人物像も、時にはその設計条件ですらも、都合よく自分で変えることができる。構造なんて考えなくても、模型やCGならなんでもありの世界となる。ところが現実は違う。それが社会であり、我々が生きる世の中だ。

そこを知ると、無責任な線は描けなくなる。その建築を使う人は自分ではない誰かなのだと考えれば、そこに思いやりや共感、愛着や愛情が生まれる。そしてそれが線に乗ったときにはじめて良い建築が生まれる。物事の本質はあっけないほどシンプルで、凡庸な日常の中にこそあるのだ。

去年の夏に来た学生は、わずか一週間の中でその糸口を掴んだのだろう。
おめでとう!前途ある未来にエールを送ります。