学生によるリノベサークルDaBoというユニークな団体があります。これは学生主体で建築の改修工事を設計から施工まで行ってしまうというサークルで、実はこの春に5人来ていたオープンデスクの学生のうち、実に4人がこのサークルのメンバーでした。

私が留学していたフィンランドの大学では、学生であっても実際に設計から建設まで関わるというプロジェクトがいくつかあり、実作に飢えている学生達にとってはモチベーションが上がる機会にもなっていました。

フィンランドの建築の考え方は、かの台詞を借りれば「建築は製図室じゃない、現場で起こっているんだ!」とばかりに、先鋭的なコンセプトばかりを口にする人はあまり相手にされませんでした。私がちょっとひねった案を出したら「で、断熱の厚みはいくつなんだ」と返されたのを覚えています。建築は建ってナンボという考えがあるからなのでしょうね。

なので、こういう実作に飢えた学生達が実際に自分たちで設計施工しながら考えるというのは、とても素晴らしい取り組みだと思います。そしてそんな学生に工事を依頼する懐の深~いクライアントにも尊敬の念を禁じ得ませんが…。


そんなDaBoが工具類の購入のためにクラウドファンディングを募っていたので、私も微額ながら協賛させて頂いたのですが、その返礼品が昨日届きました。それがこれ『壁の断熱の計算ブック18』。

これ本当にすごいんです。協賛はもちろん支援の意味もありましたが、これが欲しかったことも理由の一つでした。これは古今東西の18の建築物の壁の構成、断熱材情報などから、実際の熱貫流率(U値)を計算したものです。

この建物のチョイスがすごい。黒川紀章さんの中銀カプセルタワービルからはじまり、安藤忠雄さんの住吉の長屋や、コルビュジェのサヴォア邸など、いわゆる今どきの高気密高断熱ではない建築の実際の熱貫流率をすべて計算しています。

極めつけは茅葺き民家やボーイング旅客機まで!一方ではメンバーが住んでいる自宅の断熱計算もしていて、その比較をしているのもなかなか良かったです。

たとえば安藤さんのコンクリートの住宅は寒いんだろうなとは思っても、それがどのくらいという数値まではわかりませんでした。それがこれを見て、とんでもなく寒いことだけはよくわかりました笑。(ちなみに住吉の長屋のU値は4.01とのこと。リオタデザインが設計する住宅のU値は平均して0.4~0.5くらいです)

ただ計算するだけじゃなくて、その断面なども丁寧に図解されていて、資料を集めるだけでも相当苦労されたと思いますが、非常に貴重な資料になりそうです。

またこういうことを書くと語弊もありそうですが、断熱性能が低い建築であっても、歴史に名を残し、多くの人々に勇気や感動を与えている建築も少なからずあります。建築の価値を計る指標はけして一つではないということもあらためて感じたことです。

DaBoの皆さん、素晴らしい冊子をありがとうございました!永久保存版にします。コロナに負けず、活動がんばってください。