まず最初の2枚はアールト自邸(1936)のダイニング家具。デザインはアイノ・アールト。細部を仔細に見ても、アイノの家具デザイナーとしての確かな手腕を感じることができる。

そしてこの扉。これを見たときは衝撃だった。あたかも日本人の建築家がデザインしたかのよう。実際私も同じようなデザインの引戸をよく設えるが、80年以上も昔にアイノが既に試したものだったとは思わなかった。

アールト夫妻が当時いかに日本から影響を受けていたかは、こうした部分からも窺い知ることができる。自邸を構えたムンキニエミには当時日本領事館があり、アールト夫妻は日本大使と懇意となり、彼を通じて日本文化を吸収したとも言われている。ちなみにアールトは来日したことはない。




次の3枚は、のちに完成したスタジオ・アールト(1955)のもの。残念ながらこの時には既にアイノは他界していたが、職員ダイニングのキッチンからは強くアイノのアイコンを感じることができる。自邸でアイノがデザインしたものを、20年の時を隔てて復刻したかのようだ。

自邸にもキッチンの手前と奥、両方で使える貫通型の引き出しを設えている部分があるが、スタジオにもそれはある。でもこちらの引手形状は控えめなアイノのそれというより、主張の強いアールトのそれに近い。

引戸も自邸ではレールを下部に設けているが、スタジオでは上吊りとしている。20年分の進化と洗練がここには見られる。