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sekimoto

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> 温熱



今日は西小岩で現場が進むKOTIという住宅にて、気密試験がありました。

高気密高断熱住宅というのは、建て主にとっても、また設計者にとってももはや当たり前の時代となっています。

断熱については設計者側である程度コントロールができます。断熱材の種類や厚みなどは図面に指定することができますし、それを前提として温熱計算(UA値・Q値)などもすることができます。(ちなみにこの住宅の断熱性能はUA=0.53。いわゆるHEAT20のG1グレード程度の高断熱仕様です)

ですが、もう一方の気密(C値)についてはどうでしょう?

意外なことに、設計者はその住宅がどのくらい気密性が高いかについて語ることはできないんです。なぜなら、我々は設計上は隙間はないことにしているからです。

でもどんなに気密フィルムを張り巡らせたところで、完全な気密空間を作ることは不可能です。そこで、その家にどのくらい隙間があるかについて調べる、これが気密試験ということになります。これは実際に作られている現場で実施するほかないんですね。



さて、そんな偉そうな前置きをしておきながらお恥ずかしいのですが、実は今回はじめて気密試験というものをやらせてもらいました。(いや、ほんとお恥ずかしい)

方法としては、冒頭の写真にあるようなラッパ型の機械を目張りした窓に設け、そこからファンで室内の空気を外側に抜いてゆきます。そうすると室内がどんどん負圧になってゆきます。するとどうなるか?


室内側に施工された気密フィルムが風船のように膨らみはじめます。

外壁側には耐力壁として、全面構造用合板を張っています。一見するとどこにも隙間がないように見えますが、空気ってやつは侮れません。どんな小さな隙間からだって入ってくるんですね。逆に言うと、この室内側の気密フィルムの施工を徹底していないとどうなるか。これは誰でもわかると思います。

最初の計測では、建物の隙間面積は「135cm2」と出ました。C値は1.7です。

高気密住宅と呼ぶには最低2.0を切っておきたいところですが、これはなんとかクリア。ですが、昨今のハイクオリティ住宅は1.0を切る世界ですから、あまり褒められた数字とも言えません。

ただここからが本番です。室内を負圧にした状態で、隙間らしい隙間に手をかざして、隙間風がどこから入ってくるのかを調べてゆきます。大工さんもウレタンスプレーを片手に、怪しそうな隙間を地道に埋めてゆきます。



すると監督の初谷さんが、「見つけた!」といって喜んでいます。

行くと、クローゼット内部に設ける予定の分電盤の配管スペースから、かなりの量の空気の流入が見られました。状況を見れば「でしょうね」といったところ。


こうした部位をあらためて塞いで、再計測。
今度は建物の隙間面積は「104cm2」と出ました。C値は1.2です。

う~ん、本当は1.0を切りたかった。ただ善戦した方かと思います。



さてここで、今回の気密試験を実施した趣旨をご説明しておきます。

試験ですから、もちろん数値は良い方がいいに決まっています。ただ今回は「一年間みっちり受験勉強して、いざ本番に臨む受験生」というよりは、「志望校を選ぶに当たって、まずは模試を受けてみる受験生」の状態に近いと言いますか。

さしあたり、まずは我々の普段通りの設計でどのくらいの性能が出せるのか知っておきたかった、というのが今回の主な目的です。

ただ、もちろん悪い成績を取ることは本意ではないですから、今回は現場とも気密試験をやるというコンセンサスの元で、いつもよりはがんばって気密処理を行ってもらいました。つまり、いつもよりちょっとだけがんばって「C値=1.2」。

今回は初回にしては、良い結果だったと思っています。
もうちょっと頑張れば確実に1.0は切れるなとも思いました。もっと数字を上げるためにはどうすれば良いかもわかりました。

ただ、ここで思うんですよね。
学力を極めて、東大に入ることだけが我々のゴールなのかと。敢えて美大に行きたい、でもいいじゃないですか。でも一定の学力(性能)があれば選択肢は広がるんですよね。限られた予算と現場の職人さんのモチベーションとの狭間で、できることの幅を今後も探ってゆきたいと思います。

今回は今後の設計の指針を考える上で、とても良い経験をさせて頂きました。ご協力下さいました大和工務店さん、どうもありがとうございました!