アールト自邸のディテールのモデュールは1インチ(25mm)なのかもしれない。階段の手摺り、アトリエとリビングを仕切る引戸の引手など、随所に1インチ材が使われている。

この1インチの丸棒というスケールは私にはとても新鮮で、これまでスチールで手摺りなどを製作する際はφ27.2という材を標準にしてきた。木製手摺りなどだとφ30という材が流通材としてはよくあるが、途端に垢抜けない印象となり、シャープな手摺りを作るならスチールでと思い込んでいたところもあった。



ところがアールト自邸ではわずかφ25で木製手摺りを成立させている。その細さに驚き、またあまり握ったことのない径だったのでとても新鮮だった。しかも手摺り子まで木を削り出して作っている。こんな細かい芸は日本の建築家でもそうはやらない。

子供の手をおもわず優しく握ってしまうように、アールト自邸の骨格はあまりに繊細で、触れる手にも優しさを要求しているように思える。アールトの建築は一貫して手の触れる部分の処理が徹底している。


アールト自邸のインテリアは、奥さんのアイノがそのほとんどを手がけている。アールトのディテールというよりアイノのディテール。

アイノあってのアールトとよく言われるが、アールトの建築を人間のスケールにぐっと近づけているのは、アイノの功績がいかに大きいかがよくわかる。